第21話「しゃぶしゃぶ」


 私は托卵の家族の車に揺られながら、とある場所へと向かっていました。


「楽しみ楽しみ〜♪」


私の隣に座っている妹ちゃんは横にリズム良く揺れながら私たちが向かっている場所を心待ちにしていました。


 彼女だけではありません。車を運転しているお父さんも、助手席に座っているお母さんもウキウキしているようでした。


 一方私は何も聞かされていません。一体私たちはどこへ向かっているのでしょうか?



  〇


 私たちがたどり着いたのはしゃぶしゃぶ屋さんでした。


 駐車場に車を停め、私たちはしゃぶしゃぶ屋さんへと入ります。


「いらっしゃいませー」


 店員さんが笑顔で挨拶し、私たちを奥の席へと案内します。私は1番端っこの席へと座りました。


「さて、じゃあ頼みますか。」


 お父さんとお母さんはメニュー表を眺め、店員さんに注文をしました。しばらくして注文した商品を店員さんが運んできました。


 お父さんはビールを片手に言います。


「よし、じゃあナナのピアノコンクール金賞を記念して……」


「「「乾杯!」」」


 3人はそれぞれ飲み物を1口飲みました。私も彼らに真似て頼んでいたカフェオレを1口飲みます。


「ナナ、お疲れ様ー」


「ありがとうお母さん。」


「ナナ、立派だったぞー。俺は今まであんなに素晴らしい演奏は聞いたことがない」


「大袈裟だなーお父さんは。でもありがとう。」


 私の目の前で仲良しな家族が楽しそうなパーティーをしていました。


 私は今日、初めて彼らと一緒の家族になったので、彼らが今日までどのような日々を過ごしてきたかなんて全く知りません。故にいきなり目の前でピアノコンクールの打ち上げだと言われても、正直着いて行けません。


 でも、まあいいです。


 ただで豪華なご飯を食べれるなんてこの上ない幸せです。


 私は楽しそうな彼らを横目に、しゃぶしゃぶを食べました。その美味しさはきっと、彼らの感じている味と比べるとはるかに劣っているかもしれませんが。



  〇


 私は帰りの車の中で色々なことを思い出していました。


 幸せそうな寝顔をしているナナさんの姿は、まるでかつての自分の姿を見ているかのようでした。


 ……私の家族は昔、今回の托卵の家族のように仲の良い家族でした。


 しかしいつからか、私の仲良しな家族は崩壊の一途を辿りました。私が気づいた頃にはお父さんとお母さんの仲は取り返しのつかないほどに悪化しており、私は苦しい毎日を強いられなければなりませんでした。


「何がいけなかったのかな……?」


 ある日私はお母さんにそう尋ねられたことがあります。


 そしてたまに夢の中でも問われます。何がいけなかったのかな?とお母さんが虚ろな目をしながら問いかけてくるのです。


 そんなこと言われても、分かるわけないじゃないですか。


 それに私はもう家出をした身です。

 何がいけなかったのかなんて、私の知ったこっちゃありません。





 【あとがき】

 最近しゃぶしゃぶを食べに行きました。美味しかったです。

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