第19話「狂った血筋」
今回の托卵の家族のお2人は、血の繋がっていない擬似家族でした。
女の子の方“クチワ”さんは小さい頃、彼女の今のお母さんである“サトミ”さんに拾われ、一緒に暮らすようになりました。
クチワさんは自身の境遇を私に話してくれました。
彼女の本当の家族の話を。
「私の家族は狂ってるわ。何を考えてるのか知らないけど、いつも堅苦しい口調で話をするの。まるで自我が無いみたいにね。」
「それが他人との会話でならまだ分かるんだけど、それが家族の間でも言葉遣いが堅苦しいの。しかもそれをアイツらは強制してきた。私がちょっとでも間違った言葉遣いをしたら蹴ったり殴ったりしてきた。」
「妹はなんやかんや上手くやってたけど、私は反抗したわ。だって馬鹿みたいじゃない。たとえ蹴られたり殴られたりしようと、私は自分を曲げなかった。その結果がこれってわけ。」
クチワさんは未だ青あざと古傷が残る腕を擦りながら言いました。よく見ると顔にも消えない傷が沢山刻まれています。
「お茶でもいるかい?」私たちにお茶を差し入れるサトミさん。
「ありがとうおばさん。……でね、私はずっと考えてたの。大人になったらこんな家出ていってやるって。結局大人になるまで我慢できなかったんだけど、今はこうしておばさんに出会えて、平穏な日々を送れてる。結果オーライってやつね。」
クチワさんはそう言いながら笑いました。
しかしクチワさんの目は笑っていませんでした。彼女の瞳の奥には、深い深い深紅の炎が燃えたぎっているように見えました。
「……でもね。私は、私を捨てたアイツらを絶対に許さない。私を酷い目に合わせたことも、あんな下らない仕来りを私に押付けたこともね!!」
そして冷たい目をしたまま言います。
「あんな狂った家族、次会った時は皆殺しにしてやるんだから。」
拳を握りしめる彼女からは、とてつもない殺気が溢れていました。
〇
翌朝、私は少し早めに家を出ました。
玄関を出ると、庭ではクチワさんが斧を片手に薪を割っていました。
「おはようククース。」
「おはようございます。」
「昨日はごめんね。暗い話をしちゃってさ。」
「いえいえ、気にしてませんよ。」
「……私、この家でこれからも頑張っていくつもりなんだ。おばさんにはたくさんお世話になってるし、いつかおばさんにとびっきりの恩返しをしたいと思ってる。」
「良いですね。では私はこれで」
そろそろ托卵の帽子の魔力が切れる頃です。それにこれ以上の長居は無用です。
「行ってらっしゃい。」
私はクチワさんを背に歩きだしました。
そしてしばらく歩いていると、私はとある男性と目が合いました。
かなりお年を召している風貌の彼は、片手に大きな灘を持っていました。彼はとても冷たい目をしています。まるで昨日のクチワさんのように。
私は彼とは一度会った気がしてなりませんでした。
「……ここにアイツがいるんだな?」
男性は聞き取りにくい声でそう言いました。私には彼の言っていることが聞き取れませんでした。
……いや、実際は聞こえていたのかも知れませんが、聞こえてないふりをしていただけなのかもしれません。
男性は灘を握りしめて呟きました。
「……出来損ないの血統は絶たなければならない。」と。
そして男性は私の横を通り過ぎていきました。
私は振り返ることなく進みます。
その後のクチワさんのことは、私の知ったこっちゃありません。
【あとがき】
今回は初めて前回の話と続く形式のSSを書きました。かなりホラー色の強めの話になったのではないかと思います。
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