第5話「仮面家族」

私が今回出会った家族は、あまりに他と異なりすぎて、私は少々驚きました。


 目の前に立っているお母さんの顔を1目見ます。やっぱり未だに慣れません。


「何見てんのよ。」


 そう私に尋ねる彼女の顔は、万遍の笑みの仮面に覆われていました。彼女の声色は怪訝そうなのに対し、お面の顔は少し恐怖を感じるくらいに笑っていました。


「どうした?」


「なんかククースの奴変なのよ。ずっと私の顔ばっかり見て……」


 リビングにお父さんが入ってきました。お父さんは同じく仮面をつけていました。しかしお母さんの仮面と違って、お父さんのお面は鬼のような形相でした。


「あはは、そうかそうか。おいククース、あんまり人の顔をまじまじと見るもんじゃねーぞ。」


 鬼のような形相のお面を被りながら、お父さんはげらげらと笑いました。


 異様な光景です。

何故に彼らは仮面で顔を隠しているのでしょうか?


「あの、ご飯は…?」


「あ?まだ晩御飯の時間じゃないわよ。もう少し待ってなさい。」


「……ごめんなさい。」


 リビングの扉から顔をのぞかせているのは、小学生くらいの小さな子供。彼のお面は泣き顔でした。


 彼はおどおどとしながら去っていきました。


 お母さんはイライラしながら椅子に座り、たばこを吸い始めました。


「たばこねぇ…」軽く咳払いをしながらそう呟くお父さん。


「何よ?なんか文句でもあんの?」


「いや〜。文句なんてありませんよ〜。むしろじゃんじゃん吸いなよ。じゃんじゃんとさ!あはは」


 お父さんはまたしてもゲラゲラと笑いました。依然として本当の顔は仮面の奥に隠したまま。

「……ったく。」


 お母さんは長ーいため息をついて、窓の外を眺めていました。

 窓には反射した、彼女のお面が映っていました。



 〇



 今考えても不思議です。

 どうして彼らは仮面で己の顔を隠していたのでしょうか。


 まあ、私の知ったこっちゃありませんけども。

 



【あとがき】

自分の本当の顔を隠す仮面が、実は自分がしたい表情を表している……的な話ですね。

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