〈王国記18〉 休日4
「楽しい一日だった!」
振り返りながら呼びかける。セカンドロップを出て、王城に背を向けるようなかたちで歩く小道。お城の上には月が浮かんでいて、地上をやさしく照らしていた。エナの家に向かっていた。置かせてもらっていた品物たちを取りに行くのだ。
私の言葉に、エナは困ったように笑った。
「すごく疲れたけどね」
小路だからか人はおらず、私たちは道の真ん中を歩けている。まだ日が落ちてそう経っていないけれど、静かで、あたりは真夜中みたいだった。
エナが立ち止まって伸びをした。身体が伸びきったところで、組んでいた指をぱっと解いてまた歩き出す。
確かに、疲れたといえば疲れた。身体的には、そんなに問題ないけれど、慣れないことばかりをしたので、脳の容量がいっぱいな感じだ。悪くない疲れだった。真顔だが、足取りは軽いところを見ると、エナも一緒だろうか。私の隣に並ぶ。
「失礼なかったかなあ」
とエナは少し不安そうだ。レイア王女への接し方を心配しているのだろうか。私と違い、最後までエナは敬語を崩さず、しっかりと王女様として接していたから、大丈夫だと思う。というよりも、エナが話していたのはほとんど私にむけてのみだった。うまく話せないと判断したからか、早々にそういう作戦に切り替えたようだった。第一、こちらの態度がどうとかを、レイアは気にしないだろう。そういうあれこれは、きっと今日話しているなかでエナも分かったことだろうし、だとすればこれはただの話題のきっかけだ。
「楽しかったから、よかったんじゃないかな」
レイアも私たちのテーブルについた後、フルーツケーキを頼み、三人、それを食べながら話をした。
中央のいろいろなことを教えてもらった。はやりのお店や年に一度のお祭り、おいしい定食屋、衛兵に見つかりにくい小路、などなど。時折、住人よりも詳しいのではないかと思えるような箇所があったり、反対に、それは本当かと疑いたくなるような箇所もあったが、それも含めて聴いていて面白かった。
私たちからは、東の地域のことや、兵学科での思い出話などをした。ちょっといいところを見せたくて、話を盛ったりしたのだが、隣からエナの突っ込みが入り続けたせいで、結局失敗つづきの私の経歴がさらされただけとなった。「それ言わなくてもいいじゃん!」と何度叫んだか分からない。その度にレイアが笑ってくれたから、まあいいんだけど。
しばらく話をして、レイアは陽の落ちる前に店を出た。夕食に間に合わないと外出がばれて怒られるので、と残念そうに席を立つ姿は、服装や髪型が町娘スタイルなのも相まって、とっても普通の女の子に見えた。
「楽しめていただけたからよかった、じゃなくて? アンナが楽しかったからよかったの?」
「あ、そういえばそうか」
私が焦ると、エナが可笑しそうに笑った。
「ううん、それでいいんだと思うよ」
よくわからないが、嬉しそうなので、こちらもなんだか楽しい気持ちになる。そしてこの楽しい時間の終わりを思い、ついため息が口から洩れた。
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