〈王国記8〉 入団初日 模擬戦1
既に膜を施された二人が、場内で向かい合っている。
呼び出された直後、一瞬視線が交錯したものの、さすが騎士というべきか、両者とも言葉を交わすこともなくフィールドに入った。
友人同士が戦うという確率の奇跡を誰かと共有したいが、さきほどまで隣にいた当の二人はもう息をつめて始まりの合図を待っていて、私の両サイドはぽっかりと空いていた。仕方なく私も息を飲んではじまりの合図を待つ。
両方友人とはいっても、数年来のそれとついさっき仲良くなった人とでは、気持ちの入り方が違ってくる。ここは素直にエナを応援させてもらおう。
エナが勝ちますように。一生懸命祈りながら両手を組む。彼女は左足を一歩引いて、どの方向にも動き出せるような体勢ではじまりの合図を待っている。
対戦者にも目を向ける。
カルムは右手にこぶりな杖を持っていた。小枝ほどの細くて軽そうな杖だ。支給品ではないが、そんなに高価なものでもなく、銅貨数枚で買える程度の値段だろう。
どこにでも売っているスタンダードな使い捨てのもので、特別な意匠が凝らされていない。なので杖から戦い方の細部を推測することはできなかった。
だが、基本的に魔法づかいの騎士が杖を使う場合というのは、魔術の精度や速度をあげるときだ。カルムもそのセオリーから大きく外れることはないと思う。適正元素が水なのであれば、
大してエナは手ぶらだ。腰にも、支給品の基本装備しか装着しておらず、現段階では戦い方が見えない。もちろん長年一緒に過ごした私は彼女の動き方を知っているのだけど、カルムは予想がしづらく困ると思う。
心臓が大きく鳴っている。平静な状態のエナが、本来鳴らすべき鼓動を、私が請け負っているみたいに。
教育隊員の一人が事務的な口調で宣言する。
「開始」
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