第206話 男の子なので興味津々です
長いうえに退屈な説明回なので、本日は2話投稿します。
1話目は9時に投稿済みです。
なお、明日の投稿でシェリルにもわかるまとめをしますので、読むのが面倒でしたら飛ばしてもらって大丈夫です。
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「さてと、散々脅かすようなこと言っちゃったけど、結局のところ淫魔の女王のことなんて考えてもしょうがないわ」
話が逸れてしまっていたのか、ゾーイさんがそう言いながら話題を戻す。
「いるかどうかもわからない脅威よりも、たしかに存在する脅威のほうに注意しないとね」
「脅威って……まだやばそうなのがいるんですか?」
「そりゃあいるわよ。と言っても、理由もなく襲ってくるような相手ではないけどね。現世界からきた私たちにとっては、淫魔の女王くらい危険な相手だから、事前に知っておいて損はない相手もいるってこと」
そういえば、元々はそっちの話をメインで聞く予定だったな。
要するに異世界の強者の話だ。戦うことが目的ではない以上、下手に喧嘩を売らないように気をつけねばならない。
「まずは、そうねえ……さっきも名前はあげたけど、竜王国ルダル」
竜王国。名前だけでもうやばいってわかる。
俺たちが三年目でようやく倒せた、竜という種族が住まう国なんだからな。
「ここのお偉いさんや近衛は全員古竜よ」
「……しょっぱなからすごい相手なんですけど」
古竜。名前のとおり長い年月をかけて成長した竜の呼称でもあり、元々強力な力を持った竜の呼称でもある。
共通することは、めちゃくちゃ強い。竜でさえ太刀打ちできない強さの象徴が古竜なのだから、それも当然といえる。
それとたしか……。
「古竜って全員何らかの属性を持っているんでしたっけ?」
「ええ、有名なのは英雄の一人。精霊竜と呼ばれたイーリス様は、七つの属性を操ったと言われているわね」
「つまり、属性を持っている私たちも最強ということですね! 古シェリルということです!」
「今のままのシェリルでいてくれ」
「はい!」
たしかに俺たちも精霊のおかげで、そこらの属性魔術使いよりは各々の属性を扱える。
だけど、やっぱり古竜と比較して勝てるとは言えないだろう。
「まあ、それだけ強い国ってことを覚えておけばいいわ。そもそも、国相手に喧嘩を売るような馬鹿な真似はしないでしょ?」
「それはそうです」
俺たちはあくまでも異世界に調べものに来たのであって、侵略しにきたわけじゃないからな。
「竜王国はとにかく強いの。昔は獣王国と互角だったりしたけれど、国土も民も増えていった今では異世界で最も強大な国と言えるわね」
ゾーイさんはそう締めくくった。
まあ、竜たちの国なんて絶対に強いよな。むしろ、昔は渡り合っていたという獣人たちがすごい。
「そして、その竜王国が……というか、異世界のどの国も手出しができない土地があるわ」
今説明を聞いたばかりの最強国家竜王国ルダル。
そこですら手が出せない土地……?
なんだそれ。魔王が何人も住んでいる国でもあるのか?
「ところで、現世界のダンジョンの難度って覚えているかしら?」
「ええ、もちろん。【初級】【中級】【上級】【超級】に【極級】、そして【神級】ですよね?」
「あなたたちは【超級】だったわよね? 【極級】以上のダンジョンを探索したことは?」
「ありませんね……」
そういえば、【超級】のまま異世界への渡航許可が下りたからな。
【極級】以上のダンジョンは調べてすらいない。
「でしょうね。だって、【極級】以上のダンジョンってほとんど異世界にあるもの」
「そうだったんですか?」
だとしたら、現世界では【超級】がほぼ上限ということか。
どおりでまだ上があるのに異世界へくることができたわけだ。
「もっといえば、【神級】ダンジョン。これは、異世界にもたった一つしかないの」
現世界と異世界をあわせてもたった一か所しかない危険地帯。
それだけのために、わざわざ【神級】なんて難度を定めるほどの場所か……。
それはたしかに、ずいぶんと物騒な場所っぽいな。
「【神級】ダンジョン禁域の森。かつて、男神様や女神様が住んでいたとされる場所よ」
聞いたことはある。
なんでも、異世界の強者のほとんどがそこに集まっていたとか。
あとは、四大精霊がよく遊びに行っていたとか。
でも、【神級】ダンジョンというのは初めて聞いた。
「ダンジョン? 見た目だけなら普通の森と聞きましたけど」
「こっちには現世界のようなダンジョンはほとんどないわよ。だから、街や集落ではない危険な地域を現世界が勝手にそう呼んでいるだけ」
つまり、異世界では別にダンジョンとしては扱われていないということか。
神様たちが住んでいた土地をダンジョン扱いとか、あとで怒られたりしないかな。
「やっぱり、危険なんですか?」
「ルダルと同じく、不用意に喧嘩を売らなければ、向こうから攻撃してくるということはないわね」
だとしたら、特に用がないのであれば近寄らないほうがいいのかもしれないな。
なんにせよ、俺たちの目標はどちらかと言うと魔族の国であるロラテメスのほうになる。
サキュバスのことなので、魔族に聞くのが一番だろう。
それにしても、ダンジョンがほとんどないか。
だとしたら、やっぱり事前に聞かされていたとおりレベル上げが問題だよな。
「こっちの人たちって、どうやってレベルを上げているんですか?」
「そもそも、レベルという概念がないわ。それに、ステータスやスキルもね」
驚いて思わずステータスカードを取り出す。
そこには、変わらずレベルやスキルは記載されていた。
「それ、あくまでも現世界で有効なだけみたいよ」
え、困る。
「それじゃあ、こっちの人たちってどうやって戦っているんですか?」
「指標がないだけでちゃんと強くはなれるからね。こっちでは魔力が高いほどに強くなれる。だから、魔力が増えればそれだけ現世界におけるステータスも上がるし、スキルの補助がなくても魔術や武器術も使えるようになるわ」
てっきり経験値をもらえないとか、そういう類のものかと思っていた。
だけど聞いた限りでは、世界そのもののルールみたいなものが違っているように思える。
これはまずいかもしれないな。レベルが上がらないというのであれば、紫杏はどうやって精気を確保すればいいんだ。
……いや、そもそもサキュバスって異世界の住人だよな?
じゃあ、そのサキュバスたちは精気も確保できずに、この世界でどうやって生活しているんだ?
「そうしたら、サキュバスってどうやって空腹を満たしているんですか?」
「面白いことを聞くわね。まあ、たぶん想像している通りの方法よ。生物とまぐわって精気を吸うの」
「レベルがないなら、吸われた相手が死んじゃうってことですよね?」
「レベル……? たしかにないけれど、この世界は魔力が豊富だからね。ここで生活しているかぎりは、サキュバスに襲われても生き残れるくらいの魔力が体内に溜まるはずだし、向こうが殺す気がなければ死なないんじゃない?」
たしかに、異世界はずいぶんと魔力が豊富だ。
その恩恵がこんなところにもあったのか。まさか、サキュバスに襲われても精気を吸いつくされないとは。
隣でガッツポーズをする紫杏が見えるが、たぶん数日こっちで暮らして魔力を吸収してからじゃないと無理だぞ。
「あの~」
「あら、なにかしら?」
「サキュバスって、どこに行けば会えますか?」
「あら…………そう、そうよね。若い男の子だからね。気になるわよね」
なんか。とんでもない勘違いをされている気がする。
性欲しか考えていない学生をなだめるかのような、言葉を選んでいるような、なんかそんな雰囲気になってしまったぞ。
「でも、やめておきなさい。興味本位でサキュバスの餌になろうなんて考えていたら、根こそぎ吸いつくされて死ぬ可能性だってあるのよ?」
知っています。たぶん俺が現世界で一番知っています。
レベルを十分に上げておかなかったら、毎晩が命がけです。
「それじゃあ、やっぱりサキュバスに精気を吸われたら死ぬしかないんですか?」
「向こうがやりすぎなければ問題ないわね。でも、吸われている方が拒まなかったら基本的には死ぬまで吸いつくすわよ」
心当たりがわりとある!
拒めない雰囲気で迫ってくるし、紫杏だから俺を殺していないだけで、いつも先に意識がなくなっている!
「わ、私は賢いサキュバスだから平気だよ~……」
サキュバスの恐ろしさを聞いていたらきまりが悪くなったのか、紫杏はゾーイさんに聞こえないように俺に耳打ちをしてきた。
そうだな。紫杏は昔よりなんかアホになったけど本当は賢い子だから、加減を間違えて俺を食い殺すことはないだろう。
「ところで、ゾーイさんってサキュバスに詳しいんですね」
「あくまで聞いた話だからどこまでが真実かはわからないけどね。なんせ、淫魔戦争以来他者とかかわらないようにしているみたいだから」
そう、そこなんだ。
淫魔戦争さえなければ、俺たちだって現世界でサキュバスについて調べて、紫杏の体質の改善方法の手がかりをつかめたかもしれないのに。
淫魔の女王のせいで、本当に遠回りをすることになってしまった。
「じゃあ、サキュバスについて調べるなら、どこに行くべきですか?」
「……あなた、欲求不満? 久しぶりに異世界まできた探索者が、サキュバス目当てだったなんて……いえ、煩悩を突き詰めたからこそ、成果を出せるってタイプの人間もたしかにいるもんね」
勘違いされている。されているが、この際もうそれは捨ておこう!
いいんだ。俺がムッツリスケベ探索者だったなんて噂されても、紫杏は俺のことを好きでいてくれるし!
「ロラテメスに行けばなにかわかると思うわ。なんせ魔族の国だし、サキュバスもいるとは思うけど……ほどほどにしないと、干からびるわよ?」
「はい、ありがとうございます!」
「なんか投げやりになってない?」
なっている。だけど、次の目的地はこれで決まった。
ゾーイさんから向けられる「大丈夫かこいつ」みたいな目線に耐えながら、俺はなんとかロラテメスの場所を聞き出すのだった。
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