第204話 ご近所ストレンジャー
「思ってたより機械っぽいんですね」
目の前にあるのは、異世界への転移装置らしきものだ。
まず大きい。思えばこちらには古竜族の方たちがくることもあったからな。
人間サイズが基準になっているはずもなかった。
そして、思わず神崎さんに言ったように、やけに機械っぽいもので制御されている。
なんかもっとこう、魔術で制御しているイメージだったので意外だ。
「男神様、女神様が世界間を接続して長い時が経ちました。当初はこちらに魔術なんてものはなく、大部分を機械で制御したと言い伝えられています」
なるほど……。
そういえば、今当たり前になっている魔力とか魔術って昔はなかったんだよな。
それでも、魔術に干渉できるような機械を作れるなんて、昔の現世界の人たちってすごかったんだな。
「この機械で異世界に転移できるんですか!?」
シェリルも異世界に興味津々なのか、しっぽをふりながら神崎さんに尋ねると、神崎さんは笑顔で訂正した。
「正確には、この機械で大昔に神々が創った転移魔法を管理しているのです。そうですね……烏丸さんには嫌な記憶かもしれませんが、観月新のユニークスキル、【ゲート】のイメージに近いでしょうか」
「つまり、神様たちが空間に転移用の大穴を開いてくれたということですか」
「ええ、世界同士をつなぎ、大昔にもかかわらず未だに効力が残り、竜すら通れる巨大な門をです」
すさまじいな……。
神様なので当然だけど、例にあげられた観月とは格が違う。
「転移するだけであれば、その門をくぐれば誰でも可能です。ですが、あまりにも気軽に行き来できては問題なので、平時は門を封じるというのがこの機械の役目ですね」
「はえ~、すごいんですね~」
たぶん途中からついていけなくなったな。これは。
シェリルが飽きてしまう前に、そろそろ異世界に渡らせてもらうことにしよう。
「それでは、門の封印を解きます」
神崎さんや他の管理局のお偉いさんたちが、各々魔力を機械に込めていく。
よくわからないけど、きっとそれぞれの権利から承認作業みたいなことをしているのだろう。
灯りの色が一つまた一つと変化していき、最後の一つの色も変わったことで機械が稼働したようだ。
「本当に観月の【ゲート】みたいだな」
機械の中に巨大な時空の歪みが現れ、向こう側には転移後の風景が見えている。
今この瞬間、現世界と異世界はつながっているというわけだ。
「それじゃあ、行ってきます」
「ええ、お気をつけて」
笑顔で見送ってくれた神崎さんに頭を下げて、俺たちは異世界へと旅立った。
◇
「国境みたいなもんだね」
「まあ、空間が歪んでつながってるわけだからな」
そして念願の異世界にきたわけだが、なんかずいぶんとあっさりしている。
なぜなら、俺たちはあの歪みに向かって一歩進んだだけだからな。
逆に一歩引き返したら、今ならすぐに現世界へと戻れるわけだ。
本当に、気軽に世界間を移動できるものなんだな。
昔はこの門が常時解放されたいたというのだから、世界同士はもっと強い結びつきだったのもうなずける。
「でも、大気に含まれている魔力量は桁違いだね」
やはり魔力に大しては最も敏感なのか、紫杏がいち早くそのことに気づいた。
「ああ、高位のダンジョンくらいの魔力が普通にそこらの空気に含まれている」
「ここなら、現世界よりも魔術の効果は上がりそうね」
「その分制御には気を付けないといけないけどね」
魔術師組にとってもいいことばかりのようだ。
異世界の住人のほうが強いと言われる理由の一端を垣間見たような気がするな。
「ニトテキアの皆さまですね」
少し先へと進んだところで、エルフの女性が出迎えてくれた。
現世界では管理局の方たちが門を管理してくれていたように、異世界にも渡航の管理をする者がいるのは当然か。
「異世界へようこそお越しくださいました。旅をしたいとお聞きしていますが、本当に歓迎は要らないのですか?」
「はい。自分たちの足で異世界を巡りたいので」
現世界では、異世界からの渡航者がくると偉い人たちが直々に出迎え、いわゆるVIP待遇のように扱われる。
異世界の場合は現世界ほど厳重な来賓扱いではないが、それにしたって少々窮屈で自由がなくなってしまいそうだ。
だから、俺たちはひっそりと旅行者のように異世界を旅するくらいがちょうどいいのだ。
「それでは、よい異世界生活を」
「ありがとうございます」
会話もそこそこに先へと進む。
門を管理していた建物の出口から外に出ると、そこには異世界の都市が広がっていた。
自然と魔力を重視するらしく、現世界と比べても広大な自然が広がっており、その中に国を作り人々は生活する。
街並みは世界間の交流が始まったころから変化していないらしく、古い建物が今も現役で使われているらしい。
しかし、文明の交流の成果か、大昔は存在しなかった現世界の技術である機械類や、服飾はこちらにも浸透している。
そしてなによりも、街中を行きかう人種の豊富さだ。
門を管理している街は、主に人間とエルフたちが住む街らしい。
しかし、ドワーフや獣人たちもそこら中で見かけることができる。
こちらと違い、様々な種族が入り乱れているということだろう。
「うん。さすがに圧巻だな」
「現世界に比べて異種族がすごく多いね」
「そうだね……数は少ないけれど、魔族さえも普通に歩いているのはすごい光景だよ」
「見た目だけだとわからないからか、あまり興味を持たれないものなのねえ」
「現世界からきましたって自慢してきます?」
「いや、万が一にでも騒ぎになったら面倒だから、良い子にしていてくれ」
「はい!」
ちょっと危険な発想に至ったものの、事前にちゃんとこちらへ確認したからよしとしよう。
そして相変わらず返事はいいんだよなあ……。
「たしかここは……ディメンショナルポートっていう街だね。離れてはいるけれど、自然国ヤニシアの管轄のはずだよ」
「次元の港かな? そのまんまだね」
「まあ、世界間が開通してからできた街だからね。現世界の言葉で名付けられたんだと思うよ」
紫杏の言葉に大地が補足する。
なるほど、昔はなかったけど門ができたから、ここに街を作ってしまったのか。
異世界にくる人がこの街を目指すというわけではなく、単に観光名所みたいな扱いっぽいな。
「自然国ヤニシアってエルフの国だよな? それにしては、この街は人間も多いな」
「それだけ国を越えて種族ごとに交流が進んでいるんだろうね」
そういうところは現世界も見習いたいな。
とかく差別とか種族の優位性とかの話題になりがちだからな。
「さて、とりあえずは神崎さんが手配してくれていた伝手を頼るか」
「そうだね。こっちの話を改めて聞かせてもらおう」
聖銀の杭の主な活動場所は異世界だ。
神崎さんのような一部のメンバー以外は、今も異世界で活動している。
なので、神崎さんは異世界にいるメンバーに、俺たちの世話をしてもらえるように話をつけてくれようとしていた。
さすがに、常に行動をともにすると、紫杏の正体がばれる危険性があるので断ろうとした。
すると神崎さんは、聖銀の杭の人たちに異世界について俺たちに教えるように頼んでくれたのだ。
話を聞くだけというのであれば、さすがに紫杏の正体にたどり着くことはないだろうし、そちらの話はありがとく受けることとした。
「この街に代表の人がいるんだよな?」
大人数だとこちらが気後れすると思ったからか、聖銀の杭全員ではなく一人が俺たちと話をするらしい。
こちらとしてもそのほうが助かるので、神崎さんの配慮には感謝しないといけないな。
「聖銀の杭の異世界部門の代表ですか……相手にとって不足ありません!」
「……敵じゃないからな?」
やけにはりきるシェリルに嫌な予感がしたので、念を押しておく。
異世界にきたことで、シェリルもきっとはりきっているんだろうな。
さすがに失礼なことは言わないよな?
なんだか少し不安になってきたため、俺はシェリルの頭を撫でてから待ち人の元へと向かった。
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