第199話 飛び立つは比翼の鳥
「おや~? 私の真似していたやつの面倒まで見ちゃうんだ~。すごいね~ニトテキア。そんな余裕あるのかな?」
私の配信を横流ししてる馬鹿たちは、次々と管理局や依頼を受けた探索者に捕まっているらしい。
ほんと馬鹿。後先考えずに足がつくようなことをしているとか、正気とは思えない。
それは画面に映っているやつらも同じ。ううん、もっと馬鹿。
まさか、直接ダンジョンに乗り込んで配信した挙句に、あの魔獣を見てもへらへらしているとか、危機感どこいった~?
案の定グロいことになっちゃってまあ……配信を盛り上げてくれて助かるわ~。
直接配信して私の真似をしたら、どんなに危険かこれでわかったでしょ?
私はスキルで遠くから映像をつなげているだけ。だから、あんなふうに危険な目にもあわない。
危険と隣り合わせだとしたら、こんなことするわけないじゃん。
まあ、せいぜい真似なんかせずに私の配信だけを見て満足しなよ。
さて、コメントのほうはと……。
「うんうん。そうだよね~。あのやばそうな魔獣相手に、あんなマナー違反なやつら助けるなんて、【超級】探索者様は立派だね~。立派立派」
それにしても、どうする気だろう。
仲間と戦ってもわりと苦戦していたはずなのに、その仲間と別れて勝算なんてあるのかな?
別に勝とうが負けようがどっちでもいいけど、ここで死なれたら配信は盛り上がっても、後々の配信で稼ぎにくくなりそう。
ニトテキアの配信は人気だから、ここで見納めになったら困るんだよね~。
私は、後先考えない馬鹿たちとは違うから、目の前のこと以外もちゃんと考えられる。
「さあ、なにを見せてくれるのかな~? 盛り上げてね~。リーダーさん」
◇
「なんだよ! この女だってやってるじゃないか! なんで、俺ばっかり!」
「探索者になる際の規則は覚えていますね?」
「はあ? そんなの知るかよ!」
知らない。それですむと本気で考えていそうなので、頭は痛くなるばかりです。
「機密保持と情報管理。探索者資格を持つ者は、探索中にダンジョン内の情報を動画や音声情報として記録してはならない」
……初めて聞いたような顔をされるのは想定外です。
まさか、本気で覚えていないんですか?
これは、探索者の資格を与えるのを、より厳しくしないといけないのではないでしょうか?
「なんだ、俺でも知ってるのに知らないのか。う~む、夢幻の織り手というよりは、最近の探索者の意識の問題か?」
「すみません! すみません! すみません!」
デュトワですら呆れた声に、氷室さんが何度も頭を下げていますが、どちらかというと学園の教育の問題ではないでしょうか?
いえ、夢幻の織り手に残ったメンバーはまともですし、同年代や今年の探索者にもまともな者はいます。
なにより、烏丸さんを教育した学園なので、教育カリキュラムに問題はないはずですね……。
ここ二年で急激に、探索者たちの意識が欠如しているということでしょうか?
なんとも、考えれば考えるほど頭痛の種になりそうな問題です。
「氷室さん助けてくれよ! 同じパーティの仲間だったじゃないか!」
「もちろん。僕にも責任は」
「おっと、そこまでだ。お前パーティを抜けたんだろ? こんなときになって、彼を頼るのはちょっと違うんじゃないか?」
ついには、かつての仲間だった氷室さんに助けを求めると、氷室さんは氷室さんで負い目があるのか、余計な責任をまた背負おうとしましたね。
そうなる前にしっかりと止めてくれた望には感謝しましょう。
「はいはい! 男の子なら言い訳しないの! ちゃんと罪を償いなさい!」
「まったく、嘆かわしいな。自ら切り捨てたパーティに泣きつくとは」
美幸と安奈になかば無理やり連れていかれましたが、うちの女性たちって強いですね。
「ふう……これで何件目でしょうか」
「一条さん大丈夫ですか? お疲れでしたら、いつでも【回復術】使いますよ?」
「疲労も回復できるのでしょうか?」
「無理です。でもほら、胃潰瘍とかできたらすぐに」
「嫌なこと言わないでください……ですが、本当にそうなったらお願いします」
白戸さんに笑顔で恐ろしい提案をされますが、お世話になりそうなのが嫌ですね。
冗談めかして発した言葉に本気で答えられたため、白戸さんはわずかな動揺の後にこちらを心配してくれました。
夢幻の織り手。現聖教会。そして、私たち氷鰐探索隊。
ダンジョンを配信するなどという、ふざけた者たちの捕縛は合同でこなすことにしました。
氷室さんは自身の落ち度だと協力を拒みましたが、このままでは探索中の様子が事細かに知られてしまう。
明らかに知能が高い魔獣。そんなものが配信され続けている。
すでに、魔獣にも権利はあるだのいつもの団体は騒ぎ立てており、管理局はそちらの対処も行っています。
そしてなによりも、烏丸さんや北原さんの探索を見世物として娯楽として、消費されているのはいささか不愉快です。
「えい」
「な、なんですか。急に」
白戸さんに眉間をぐりぐりと押さえられました。
「眉間にしわが寄っていましたので治療しました」
「いえ、先輩。それ治療とは言わないのでは……」
どうやら、変に気を遣わせるほどに私は余裕がなくなっていたようです。
それにしても、白戸さんも氷室さんも最初に会ったときとは別人のようですね。
彼ら彼女らが探索を通じて成長した結果なのか、はたまたニトテキアのおかげなのか……。
どちらにせよ、こんな彼らの活動を余計な要因に邪魔されたくはありません。
やはり、大元の配信者をなんとかするしかありませんね……。
巧妙に配信元を辿れないよう、おそらく魔力を隠蔽して流している。
ダンジョンならともかく、大気中の魔力を正確に観測し、そこから微量な変化を発見し辿るなど、砂嵐の中で砂漠の中から一粒の砂を見つけるくらい困難です。
なにか方法は……。
◇
「くだらん。貴様ら二匹が残ったところで、すぐに食い殺す。そして、逃げた者どももすべて食らいつくしてくれる」
さあ、大地と夢子はうまく邪魔者を連れて行ってくれたようだ。
シェリルも嫌そうだったけど、ちゃんと言うことを聞いてくれて偉かったな。
あとで褒めてあげよう。最近犬っぽいし骨とかあげれば大丈夫だろう。きっと。
「ねえねえ。なんで私は残したの? やっぱり、愛しい紫杏ちゃんとは離れたくない?」
「いや、さすがに向こうの結界の効力を弱めてもらわないと、厳しそうだからな」
「打算的~。久しぶりの二人きりの探索なんだから、もっとかわいがってよ~」
「はいはい。かわいいかわいい。超愛してる」
「やったね!」
まあいいか。さっきの配信とやらをしてるやばいやつらも去った今、見てるのハイドラだけだし。
別に見られていようが問題はないけどな。
「私を前に、ふざけているのか」
そうは言うけれど、せっかくの紫杏と二人の探索なんだぞ。
俺だって本音を言えば、もう少しこういう機会を大切にしたい。
「ハイドラ。ファントム? まあ、どっちでもいいか」
「餌と混同されると不愉快だ。私はハイドラ。それも、他の知能の低い愚かな種から進化した存在」
「お前は、けっこう強かったよ」
本当に、二年前とかなら危なかったと思う。
コロニースライムと同じく様々な魔獣の力を有しているけど、元が強いのと捕食して強化された分、こちらのほうが厄介だ。
「……なにを、終わったつもりで話している!!」
さあ、正念場だ。ここさえ乗り越えれば問題ない。
紫杏に目配せすると、彼女は頷いて俺を結界で守ってくれた。
できればすべて避けたいが、万が一があったら問題だからな。
大地に大見えを切った以上は、失敗なんかできない。
絶対、後で嫌味を延々と言われるからな……。
「【剣術:超級】【万象の星】【夜幻霊境】【精霊魔法:風】【風気祭宴】」
怒りに任せて突進してきた首を斬り落とし、それが第二ラウンドの合図となった。
さあ、根競べといこうじゃないか。
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