第187話 俺たちはここにいる

「そういえば、お前らが戦う場合は、あれとどうやり合うんだ?」


 順調にゴーレムを処理していた長野から、ふとそんな疑問が沸き立った。

 ゴーレム相手か。連携なんかしようものなら、オーバーキルだし参考にならないよな。

 ということは、ソロでの倒し方を見せるべきか。


「シェリル一匹倒してきて」


「はい!」


 シェリルがゴーレムのもとへ猛スピードで接近する。

 そのままゴーレムが反応する前に、硬化させて魔力をまとった爪を振り下ろす。

 すると、ゴーレムは輪切りになってその場に崩れていった。


「よし」


 戻ってきたシェリルが頭を近づけてきたのでなでてやると、満足そうに目を細めた。


「シェリルみたいに、速さが武器ならあんなふうに近づいてさっさと倒すのが楽だな。反撃される心配もなくなるし」


「うん。無理だな」


 だよな。見たところ、長野のパーティにはシェリルタイプの探索者はいないみたいだから。

 だけど、今後そういうタイプの探索者が加入するかもしれないし、誰かが戦闘スタイルを変える可能性もあるので、念のため参考程度に見てもらった。


「じゃあ夢子」


「ええ」


 夢子がゴーレムに指を向ける。

 指先に一気に魔力を集中させると、そこから熱線が発射された。

 ゴーレムは、またも身構える時間すらなく、的確に核を撃ち抜かれて消滅した。


「遠距離からゴーレムを倒せる威力の魔術を準備して、一撃で倒せば反撃されないぞ」


「……そうか。頼んだぞ山吹」


「え? ええ……ええぇっ!?」


 たしかに、山吹さんは夢子のような後衛の魔術タイプだし、一番参考になるだろう。


「それで、本来の力を発揮できない場合は、大地が参考になるな。大地よろしく」


「まあいいけど、こういう戦い方もあるという程度に考えながら、見たほうがいいよ?」


 そう言いながら、大地は手のひらを軽く扇いだ。

 すでに魔力の圧縮と構築は完了していたらしく、大地の手の動きに合わせて毒の刃が飛ぶ。

 まるでウォーターカッターのように、刃はゴーレムを両断した。当然、核ごとだ。


「……山吹、よかったな。水っぽい魔術だから、きっとこっちのほうが参考になるぞ」


「む、無理だよぉ……」


 たしかに、水属性ということだし大地の戦法を真似るのがよさそうだな。

 大地は、さっそく山吹さんに具体的なアドバイスをしていた。


「放出口を狭めて推進力をもっと増やせば、いつかはできるかもしれないけど、無茶ぶりには負けないように」


「は、はい!」


「北原はともかく、烏丸ならどう倒す?」


 俺か。どれで倒そう。

 まあ、適当に色々やればどれかは参考になるだろう。


「昔は、こうやって」


 剣を振るう。久しぶりに色々なことを意識せずに、ただ【斬撃】のみを使った攻撃だ。

 最初は【魔法剣】との併用で倒していたが、今なら【魔法剣】がなくともゴーレムはきちんと真っ二つになっている。


「【斬撃】で遠くから斬ってた」


「な、長野くん。がんばって」


「え、これ俺の見本なの……?」


 山吹さんの言葉に長野が困惑する。

 別に長野だけに向けて見せたわけではないけど、どれか使えそうなものを適当に選んでくれ。


「あとは、【魔法剣】! とか」


 ちょっと接近して、【魔法剣】で一当てしてから戻る。


「え、魔術? 剣術? どっち?」


「どっちも」


「どうするんだ? 百合川が俺の武器に魔術かけたら、あれの真似できるのか?」


「無理に決まってるでしょ。武器に魔術なんて」


「そのへんは大地が得意だぞ」


 しかし、これはあまり参考になっていないっぽいな。

 じゃあ魔術じゃなくて単純な剣術系スキルだけにするか。


「【剣術:超級】【太刀筋倍加】【乾坤一刀】【剣刃乱舞】」


 ゴーレムめがけて剣を振るう。

 一撃の威力を上げて、多くの部位を攻撃するように手数を増やし、ついでにそれらを倍化する。

 するとゴーレムは、しっかりと粉々になった。


「物理系だけなら、こうやって威力を上げつつ手数を増やせばごり押しすることも」


「できねえよ」


 できたじゃないか。今目の前で。


「なるほど、スキルが全然別物だ。つまりレベルを上げてがんばってスキルを習得したほうがいいな」


「ああ、それはたしかに。やっぱりスキルがあったほうが便利だな」


 一時期の俺は、スキルよりも技術を優先してしまっていた。

 だけど、スキルはスキルでやはり非常に便利なのだ。

 結論としては、どちらも偏りなく鍛えるのが強くなるための近道だと思う。


「ねえねえ烏丸くん」


「どうした? 百合川」


 少し考えるようなしぐさをしてから、百合川が尋ねてきた。


「スキル名を口にしてたけど、なんで?」


「あ~」


 そうだよな。普通はスキル名って口にする必要はないから気になるよな。

 他の【超級】探索者どころか、ここにいる俺とシェリル以外は、基本的にはスキル名を言葉にすることなく使用できるもんな。


「スキルを複数使うとなると、ちょっと頭の中がめちゃくちゃになりそうでな。口にすることで脳内を整理している」


「なるほど~」


 ちょっと恥ずかしい。

 だって、こんなもの補助輪をつけて自転車に乗っているようなものだから。

 いずれ、スキル名なんて不要になるくらいに、複数のスキルを使いこなせるようになりたいものだ。


「だいたいこんな感じだけど、参考になったか?」


「まあ、お前らがとんでもないってことはわかった」


 もしかして、あまり参考にならなかったかな?

 やはり、一条さんたちのようにうまくやるのって難しいな……。


「ところで……ゴーレムが粉々なんだけど、お前あいつらになんか恨みとかある?」


「いや……なんか、加減がわからなくなってきた」


 この質問は、実は今日に限ったことではなく、色々な人からされている。

 しょうがないじゃん。スキルを複数組み合わせて、高威力の組み合わせを見つけるの楽しいんだから。

 その結果、魔獣がオーバーキル気味で討伐されてしまっているけど、決してこいつらに恨みがあるわけではない。


「なるほど……殲滅王か」


「それ、恥ずかしいからやめてくれない?」


 学友にまでそう呼ばれだしたら、いよいよ俺の羞恥心がやばいぞ。


    ◇


「…………ニトテキアのリーダーって弱いんじゃないの?」


「それいつの話だよ。見てただろ、あれ」


「魔獣を確実に葬る殲滅王って言われてるけど、実際に見るとやばいな」


「聞いたことのないスキルを使ってたけど……やっぱり、鍛えればあんなふうに」


「ああ、俺たちもできるんじゃないか?」


 …………なら、なんでうちにいる?

 先輩に憧れるような探索者は、うちの方針とは真逆じゃないか。


 強くなりたい。煌びやかな探索者としての人生を送りたい。

 それができるのは、初めから自分を信じて鍛え続けられる人だけだ。

 楽したいんだろ? 簡単な探索方法を知って、安定した探索生活を送りたいんだろ?

 なのに、先輩たちのように強く、派手で、目立った功績を残して認められたいと?

 どこまで、探索者をなめているんだろう……。


「そう。なら、うちにはあわないね。パーティから抜けたいなら、いつでも言ってよ」


「い、いや! そういうわけじゃなくて……」


「うちには、突出した実力による探索は向いていない。誰でもできる探索方法の確立。それが俺たち夢幻の織り手の目指す場所なのだから」


「……」


 憧れるというのであれば、その道を進めばいい。

 だけど、うちにはいらない。いや、うちにいるべきではない。

 ふらふらと、目指すべき探索者すらわからずにいるのは、何よりも君たち自身のためにならないよ。


 そして……誰もが、突出した実力の探索者になどなれないということは、忘れないでほしい。

 俺たちは、平凡な探索者にすぎないのだから。

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