第177話 第二次成長期に刮目を
「無事終わったみたいだね」
「そっちもな」
ダンジョンで大量発生したボスを倒し終え、パーティとして活動すべく合流した。
昨日までの間に、パーティとして戦わないといけないようなボスは倒し終えている。
そのため、今日は各々が【初級】ダンジョンへと赴き、残ったボスの処理を行っていたというわけだ。
「しかし、俺たちのときからずいぶん変わっちゃったなあ」
「その発言、爺くさいよ」
大地の言葉になぜか夢子がびくっとしていたが、爺くさいとは失礼な。
まだまだ現役の探索者だぞ……この言い方もなんか、年寄りっぽいか?
「大丈夫! 善は毎晩元気だから!」
「それを聞かされて、僕はどう答えればいいの?」
「紫杏のセクハラは置いといて、たしかに問題よね。まさかボスが量産されるほど、ダンジョンの魔力が余っていたなんて」
もちろんすべてのダンジョンではなく、ダンジョンごとに差はあれど、【初級】ダンジョンはほぼ全滅だった。
それもこれも、ここ最近の探索者たちの動向が問題だ。
「やっぱり、去年のあのパーティが原因だよなあ」
「けしからんパーティです! ここはビシィッッっと言ってやりましょう!」
「なにも言えないわよ。悪いことしているわけじゃないんだから」
昨年はスキルの習得と戦闘スタイルの確立をしながら、【超級】ダンジョンの探索を行っていた。
さすがに一年目ほどの躍進とは言えないが、順調に前に進んでいることを実感できた年だった。
だけど、そうやって駆け上がっていくのは、なにも俺たちの専売特許というわけではない。
「そうそう。自分の首を絞めていることにも気づけない連中の世話を焼くほど、僕たちは暇じゃないからね」
「大丈夫かねえ……」
その方法がいいものだとはどうしても思えない。
まあ、余計なお世話だというのもたしかだし、俺たちは俺たちの探索を続けるしかないか。
そう思いながら、久しぶりにティムールでも狩りに行こうと歩いていると、他の探索者をちらほらと見かけるようになってきた。
彼らは【超級】ってわけではないな。ということは、このあたりの別の難度のダンジョン目当てだろう。
「おい、あれ」
「わっ、本物」
「なんか普通だな」
「魔力感知できないやつは気楽だよな」
「いや、魔力以外のステータスもやばいだろ」
「いいなあ……俺たちも早く【超級】に……」
……なんかむずがゆい!
声をかけられるわけではなく、遠巻きに見てひそひそと話されているだけだ。
そして、別に陰口とかではない。むしろ、好意的な意見というか、こちらを評価してくれている。
学校でも教室を覗きにくる後輩たちは多かったが、こうして外で大勢に注目されるのは、いつまでたっても慣れないものだ。
「ねえ、善。気づいた?」
「ああ、これはどうにも恥ずかしい」
「いや、そういうことじゃなくて……彼らのエンブレム」
エンブレム? 大地に言われて、改めて周囲の探索者たちを盗み見る。
そっちも盗み見てるんだから、おあいこだな!
という言い訳はさておき……ああ、そういうことか。
「夢幻の織り手か……」
ここ一年で増え続けたその証を見て、俺は複雑な思いとともに先へ向かった。
◇
視界も悪ければ足場も悪い。そんな鬱蒼とした森の中、俺たちを狙う気配を感じる。
残念ながら、俺たちはお前よりも速く、お前の存在を感知しているぞ。
さて……なんのスキルを使うべきか。
「この名を覚えておきなさい! 私こそが密林の覇者シェリルです!」
あ。迷っているうちにシェリルが倒してしまった。
う~む……どうにも贅沢な悩みなのだが、増えすぎた手札を整理しきれていないな。
「心ここにあらず……ではなさそうだね」
「ああ。どのスキルを使うか迷っているうちに終わった」
「どうする? お仕置きしておく?」
「ひぃっ!」
大地の疑問に答えると、シェリルはまずいことをしたかもとそわそわし、紫杏はずいぶんと物騒な提案をしてきた。
いや、これは俺の問題なので、シェリルを叱るのはお門違いだ。
「シェリルは悪くないから、叱らないでやってくれ」
「先生~!」
「なにこれ。マッチポンプ?」
「本人たちが幸せなら、いいんじゃないかしら……どうでも」
人聞きの悪いことを言わないでくれ。そして、夢子は興味なさそうにしないでくれ。
うちのシェリルだが、お前のところのシェリルでもあるんだぞ。
「たしかに、手札は多いほうがいいけど、節操なく増やしすぎなのもどうかと思うよ」
「反省しています……」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
いっそ、使えないスキルとかだったら、簡単に切り捨てられたけど、なまじ使えるものが多いので取捨選択に困っている。
贅沢な悩みだなと自分でも思うが、それで探索中の思考が鈍るのはよろしくないな。
「善って、わりとコレクション気質だからね~」
紫杏の自分だけが知っている俺自慢に、夢子は意地悪そうに笑いながら尋ねた。
「じゃあ、付き合っている女の子もたくさんいそうね。昇格してからわりと人気あるし」
「善は、非売品プレミア一点物の紫杏ちゃんだけで満足してます~!」
そう。俺には紫杏一人いればそれで……。
「【精霊魔法:水】【天神閃光槍】【魔法複製】」
思考を中断して、あらかじめ考えていたスキルを組み合わせて魔法を構築する。
ティムールが襲いかかってくるであろう場所に向かって、水で作った鏡を幾重にも設置。
準備ができたら、光属性の魔術で作った槍を別のスキルで増やして投擲する。残念ながらこれは精霊魔法ではない。
だが、威力は十分だ。
複数の光の槍は鏡に命中すると、それぞれの鏡の中から光の槍が射出され、ティムールがいる場所へと降り注ぐ。
光の槍の雨は、複製した回数分だけ降り注ぎ、ティムールは姿を見せることなく討伐された。
「過剰だね」
「だよなあ。でも、回数を減らして仕留めそこなうのも嫌だ」
「だから、殲滅王なんて呼ばれるんだよ」
「まじで誰だよ。初めにそんな恥ずかしい名前広めたやつ……」
威力は十分。範囲も十分。ある程度の【超級】の魔獣は、危なげなく倒せるようになった。
だけど、一部の管理者や管理局の方から、やりすぎだという声が上がっている。
苦言とかではなく、単純にオーバーキルすぎでは? という疑念のような声だ。
それで文句を言われているというわけではないが、なんか一部の人からは俺が魔獣を憎んでいて、絶対に殺す探索者だと思われているらしい。
まあ、過剰な攻撃で淡々と魔獣を仕留めていれば、恨みでもあるのかと考えるのもわからないでもないが……。
どのスキルの組み合わせが魔獣を倒すのに最適な威力なのか、試行錯誤している最中というだけなんだがなあ。
「でも、この組み合わせはわりと使いやすかったな」
ちゃんと覚えておこう。いざというときに咄嗟に使えるようにな。
「……そんなんだから、呼ばれるんだと思うよ」
毒が効かないからって、球体の毒液でティムールを溺死させているお前も大概だぞ。
ともあれ、異変も解決したし、【超級】でのスキルの試し撃ちもうまくいった。
このまま順調に、異世界へ向かって邁進していくとしよう。
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