第153話 魔の探索者の人々

「デュラハンの松山まつやま悟史さとし。【上級】探索パーティ、魔の秩序のリーダーだ」


 頭は乗せているのだろうか? 俺たちと変わらず人間に限りなく近い男性は、簡潔に自己紹介をした。

 デュラハンだし、見た目も金髪で青い目だから、外国人か異世界人かと思ったが、名前からすると日本人のようだ。


「ドッペルゲンガーのみさき弥生やよいよ。よろしくね」


 こちらはもっと人間にしか見えない。長いウェーブの茶髪の女性は、ドッペルゲンガーらしいが、今も誰かの姿を真似ているんだろうか。

 その姿が模倣だとしたら、コロニースライムみたいに赤木さんにも慣れるのか、そして剣の扱いまで真似できるのか。

 もしも、すべてを模倣できるのだとしたら、とんでもない実力者ってことになる。


石崎いしざきすずだよ~。種族はゲイザー。知ってる? 知らない? 眼魔とも言われてるね~」


 金色のくせっ毛をいじる三つ目の女性は、どことなく適当な印象を感じた。

 ゲイザーか。聞いたことあるような、ないような。

 夢子みたいに、視力がいい魔族って感じかな?


「俺はパズズの小田おだ慎一しんいち。鈴と同じくあまり馴染みがない種族かもしれないが、よろしくな」


 最後は現聖教会にいたような、ライオンの頭の獣人だ。

 と思ったが、背中には鳥の羽みたいなのも生えているし、パズズと言っていたので獣人とは別なんだろう。

 魔族らしいが、本人が言うとおりこちらも聞き馴染みがない。


「琴子から聞いた。【上級】を色々と巡るんだってな」


「琴子?」


 今紹介された二人の女性とは違う名前だよな。

 もしかして、さっきのローレライの女性の名前か?


「なんだ名乗りもしなかったのか。藤枝ふじえだ琴子ことこ。お前たちをここに連れてきたローレライだ」


 合っていた。しかし、全員が全員日本人の名前だな。

 さすがに異世界人はいないので、スキルによって種族が変わった者たちの集まりってことか。


「【超級】であれば、俺たちについてこれないということもないだろう。こちらとしては共に探索するのは歓迎だが、そちらはどうなんだ?」


「はっ! 格上なのは私たちのほうです! そっちこそ、せいぜいついてくることですね!」


 ……そうか。初対面の相手だから、格付けをしようとしているんだな。そして、自分が格上であると思っているので偉そうなことを。


「す、すみません。うちの子が」


「いや、こっちも悪かった。悟史……お前もう少し愛想よくしろよ」


 シェリルの頭を下げさせると、向こうは向こうで小田さんが、デュラハンである松山さんの頭を奪い取って下に置いた。

 これは……頭を下げているという意思表示なのかな?


「こら、慎一。足元しか見えなくなるだろうが」


「ふっ、私のあんよでも見ておけばいいです」


 まだ言うか。このわんこめ。


「紫杏」


「うん。2」


 2? さすがの俺でも今の紫杏の言葉は理解できなかった。

 珍しいな。俺の意図が紫杏に伝わらないなんて。


「話がそれてるわよ。結局、ニトテキアと一緒に探索するってことでいいの?」


「ああ、そうでした。プレートワームとサイクロプス以外のダンジョンに詳しかったりします?」


「当然だ。俺たちは【上級】を散々探索してきているからな」


 ……なんか、足元から声が聞こえてくるのって不思議な感じだ。

 それはともかく、俺たちよりもだいぶ【上級】の経験が上って感じだな。

 これなら、お試しに一緒に探索するのもありなのかもしれない。


「散々探索してるってことは、それだけ昇格できていないということ。つまり、私たちのほうが上です!」


 また、そんなことを……。


「3」


 紫杏が数字だけを呟く。ああ、なるほどそういうカウントだったのか。

 よかった。ちゃんと俺の意図は紫杏に伝わっていたみたいだ。

 ここにいる俺以外の人たちは全員、急に数字を口にする紫杏を不思議そうに見ていた。


「それなら、試しに一度探索してみるということでもいいですか? みんなもそれでいいか?」


「そりゃあ当然だな。なにもパーティを合併しようってわけじゃないんだ。気楽にお試し期間といこうぜ」


「僕たちってあまり【上級】ダンジョンの情報ないからね。試しなら一緒に行動するのもいいんじゃない?」


 小田さんと大地の許可もとれた。

 他のメンバーたちもそれぞれ異論はないようだ。

 ……一応、シェリルも。


「しかたありませんね~。私たちの強さに驚くといいですよ」


「4」


「……なんのカウントですか!? なんのカウントなんですか!?」


 ようやくシェリルも気がついたらしい。

 それ、お前の無礼な発言カウント兼、後でお仕置きされるカウントだぞ。


「ちゃんとみんなに謝ろうな」


「はいぃ……ごめんなさぁい」


 今日はいつにも増して増長した発言が目立ったが、知らない人が多かったからか。

 それとも、ここに来る前に様々な魔族が、自分の下である発言をしてしまったからか。

 ちゃんと反省させないと、ダンジョンで慢心したら危険だからな。


「……なんで、あなたの言うことを聞くのかしら?」


「なんででしょうね……」


 岬さんの疑問には俺も答えられなかった。

 お仕置きしてる紫杏を止めてあげるからか? 和菓子をあげているからか?

 なんか知らないけど懐いたからとしか言いようがない。


「まあいいわ。悟史、いつまでそうしているの? さっさと探索に行くわよ」


「慎一。もう頭を乗せていいか?」


「わかったよ。まあ、お互い様ってことでこれくらいで許してやってくれ」


「いえ、こちらこそうちの子がすみません」


 この子、絶望的に人付き合いが苦手な子なんです。

 小田さんは、笑いながら探索の支度をするために部屋を出ていった。

 許してくれたってことでいいよな? ライオンの笑みって、攻撃の合図とかってわけじゃないよな?


    ◇


 幸い険悪なムードとかはなく、彼らの種族の特徴やこれからのダンジョンの話を聞きながら、ダンジョンへと向かうことができた。

 見た目が一番人間から遠いのに、小田さんが何かと気を利かせてくれているのが大きいな。


「さあ、到着だ。ここがバジリスクダンジョン。デュトワさんじゃないトカゲがたくさんいるぞ」


「あんなのがたくさんいたら困るんですけど!」


「だよなあ。そんなことになったら、【超級】どころか【極級】ダンジョンになりそうだ」


 そう笑いながら進む小田さんについていき、俺たちは受付さんに挨拶をした。


「ニトテキアの皆さんに、魔の秩序の皆さん? 初めまして、お久しぶりです。ええと、どちらから先に手続きしましょうか」


「同時でいいですよ~。私たち、しばらくニトテキアさんと行動することにしました」


「そうなんですか。みなさんが協力するなんて、なんだかわくわくしますね」


 石崎の言葉を聞いて、受付さんは納得したようにうなずいた。

 魔の秩序っていうのは、この魔族の探索者たちのパーティ名だろうな。

 受付さんも慣れているというか、実力を認めている節があるので、やはり実力のあるパーティだったんだろう。


「ということで、ちょっと行ってくるね~」


 小田さんもフランクに話しているし、ここのダンジョンの常連なのかもな。

 であれば、事前に聞いていた情報を守れば、特に問題なく探索することはできそうだ。


 バジリスク。石化の状態異常を扱う四足歩行の小さなトカゲのような魔獣。

 最大状態異常数は5つなので、事前に5種類の状態異常にかかっていれば、石化になることはない。

 石崎さんが、状態異常を得意とした種族らしく、軽めの状態異常を事前にかけることを提案されたが、うちにも大地がいる。


 ということで、今の俺たちは大地の手により、極少の毒がかけられた状態だ。

 血圧の低下、筋力低下、嘔吐、麻痺、そしておなじみの腹下し。

 それらの症状を自覚できないほど、ごくわずかな効力で発症させたらしい。

 本当に器用なやつだなあ。そして非常に頼りになるやつだ。


「すごいね~。状態異常には自信があったけど、大地くんにはかなわないかも」


「いえ、僕は毒しか扱えないので、それに状態異常の最大数もそちらのほうが多いんじゃないですか?」


「そうかな? いやいや、謙遜を」


「僕は5種類が限界ですけど、そちらはいくつまでかけられるんですか?」


「いくつに見える~?」


 なんだか、年齢を聞かれているような返答だな。

 答えずに目を見る大地に観念したのか。石崎は両手をあげて降参のポーズをした。


「6種類。だけど、毒特化の大地くんに1つしか勝っていないようじゃ、やっぱり私の負けかもね~」


 6種類でも、5種類でも、どっちもすごいと思うんだけどなあ。

 状態異常使い二人にしかわからないような、そんな何かがあるのかもしれないな。

 ともかく、準備も万全。あとは、バジリスクたちへと挑むだけだ。

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