第139話 色眼鏡越しの偶像崇拝
「なあ烏丸~、俺もニトテキアに入れてくれよ~」
机に突っ伏しながら、クラスメイトの長野が力なくお願いしてきた。
「やめなさいバカ。ごめんね~烏丸くん、今の冗談だから」
なんだ。ステータスとスキルの確認と、どのダンジョンで魔獣を狩り続けるかまで考えようとしたのに。
でも、たしかにこいつらはこいつらでパーティ組んでたはずだし、ただの冗談に決まってるよな。
「……なんか、危険な目にあう寸前だったような」
「よくわからないけど、そういう直感は大事だよな。試しに一緒にワームでも狩るか?」
「死ぬわ、そんなやつらの相手したら」
シェリルに囮を任せれば安全なんだけどなあ。
でも嫌がっているのなら無理強いはできないか。
「それにしても、すごいわね。クラスメイトが【超級】だなんて、ちょっと想像できないわ」
「俺もそう思う」
一条さんやデュトワさんと同じ?
うん、少し考えただけでも、なにかの間違いのような話だ。
あまり気にしたことはなかったけど、もしかしたら俺もあの人たちのようにネットで噂されてんのかなあ。
……これからも見ないようにしておこう。
「なんか他人事だな」
「実感がわかない。実力も足りてないし、レベル上げたい」
俺の場合、スキルレベルか練度のことだけど。
「やっぱり、俺は今のパーティがいいや」
「というか、ニトテキアに入ったら、なんか異変に遭遇しそうだね」
それは俺だって不本意なんだよなあ。
なんか、事件や異変からは、今後も逃れられない気がしてきた。
「……なんか、今日人多くない?」
気にしないようにしてきたが、教室の外にできた人だかりがどうにも気になってしまう。
別に騒いでいるわけではないけど、集団でこの場所を観察してるみたいで、なんか居心地が悪い。
「そりゃあ、お前ら有名人だしな」
「どちらかと言うと、動物園の動物になった気分だ」
「紫杏は気にしてないのね」
「私、善の視線以外はどうでもいいかな~」
ここに来るまでもいつも以上にじろじろと見られたけど、紫杏は完全に我関せずを貫き通したからな。
視線への耐性が尋常ではないようだ。
「あ、大地だ」
人だかりをかき分けて、小柄な男子が入ってくるかと思えば大地だった。
あの様子じゃ、大地もここにたどり着くまでに、じろじろと見られたか、下手したら来ること自体に苦労したのかもしれない。
「お疲れ、大変そうだな」
「……おはよう。虫が集ってるみたいで気持ち悪かったよ」
夢子、早くきてくれ。
大地の機嫌が最悪だからなんとかしてくれ。
「しかし、知らない顔も多いけど、まさか生徒以外も来たりしてないよな?」
「さすがにそれはないだろうけど、別棟のやつらもけっこう来てるっぽいな」
ああ通りで、人間以外の種族もちらほらと見えるわけだ。
「そういや、木村」
「なに?」
不機嫌そうに答える大地に長野が怯む。
やめといたほうがいいぞ。今の大地はご機嫌斜めだからちょっと怖い。
「えっと……お前は、結局別棟には行かないのか?」
「人間だって、ユニークスキルで後天的に種族が変わるでしょ。別に人間以外だからって、いまさら別の場所に移る義務はないはずだけど?」
「いや、そうしなきゃいけないとかじゃなくて、ちょっとした疑問というか……烏丸~たすけてくれ」
「夢子がくるまで待とう」
丸投げするつもりだが、なんとかできるかは知らない。
でも、大地の言うとおりだな。たしかに、この学園は種族単位で通う建物が違うけど、サキュバス化してからも紫杏は変わらずこっちに通ってるし。
というか、それで別の場所に行くことになったら、俺が嫌だし。
「……はっ! 愛されポイントを感じた!」
「……なんでわかんの?」
正解を確信したからか、紫杏が抱きついてくる。
そんな俺たちを呆れたような目で見ながら、夢子が登校してきた。
「朝っぱらから、意味わかんないやり取りね……」
「あ、ちょうどよかった。大地が人混みでストレスを抱えてるから、なんとかしてくれ」
「たしかに、なんかやけに人だかりが多かったわね。でも、なんとかと言っても……」
困った夢子に紫杏がなにかを耳打ちした。
あの表情からするに、おそらくろくでもないことだろうな。
「……なにしてんの?」
急に大地を目の前から抱きしめる夢子。
いや、ほんとになにしてんの?
だが、大地からの刺々しい雰囲気が緩和されたような気がした。
なるほど、大地も男だというわけだ。
かく言う俺も、似たようなことを紫杏に何度やられたことかわからない。
「だ、だめじゃない! 紫杏!」
「いけるいける! もう少しで堕ちるから! 善はそうだった!」
不名誉な発言は控えてください。
というか、人だかりにも聞こえるだろうが。
いや、そんなこと言ったら大地と夢子のやり取りも、これだけの大勢に見られてしまっているわけだが……。
二人とも気にしてないのか、忘れているのか、どっちなんだろう。
「っぷはぁ! 夢子。それは紫杏と善だけだから、変なこと真似するのはやめようね」
いいや。男なら誰しも弱いぞ。
断じて俺だけに通用するわけではない。
それに、それどころじゃなくなったからか、いつもの大地に戻ってるじゃないか。
「……き、効いてる」
「効いてないから、やめようね」
いや、たぶん次回もやられるぞ。
機嫌が悪いときの大地の対処法として、今回と同じことを。
まあとりあえず……
「紫杏」
「ん?」
「今晩お説教」
「なにぃ~?」
やめろ。抱きしめようとにじり寄るな。
「あんたたち、よくこれだけの視線の前でいちゃつけるわね」
「善との愛の前には、すべてが些事にすぎない」
「周りは虫だと思うことにした」
とかく他人を気にしない孤高組どもめ。
白戸さんは、防衛本能でそうなっていたこともあるが、この二人の場合、一度そう決めたら本気で認識から除外しそうだな。
「でもまあ、こうして遠巻きに見てるだけなら、直接的な被害はないし、気にしてると疲れそうよね」
たしかになぁ。
これからも、これが日常になるのなら嫌だけど、追々は慣れる必要もあるのかもしれない。
見ていることに飽きたのか、あるいは俺たちのそんなくだらないやり取りに幻滅したのか、人だかりは徐々に少なくなっていった。
当然だけど、その中には人間も何人もいた。
だけど、見覚えないんだよなあ。別棟の人間か?
◇
「たぶん、北原さんが一番強い」
「そうだな。だけど木村さんに細川さんも、かなりの実力だったぞ」
「ええ、さすがね。でも問題はやっぱり……」
「烏丸はなんなんだ。魔力を抑えてるのか? だけど、あれはたぶんステータスもかなり低いぞ」
「同感。レベル1の初心者と何も変わらない」
「はぁ……やっぱりお飾りのリーダーってことね」
「ええ、あの人の言っていたとおり。魔族の探索者チームにふさわしくないわ」
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