第138話 ここから先悪質なギミック

「よろしくな」


「ええ、これから同じ【超級】の探索パーティですからね」


 荷が重い。

 いや、改めてこの二人にそう言われてしまうと、やっぱり時期尚早なのではとしか思えない。


「いやぁ、俺たちは今回たまたま運良く異変を解決しただけなので、実力的には【上級】さえ怪しいんですが……」


「いや、凛々花と渡り合えるなら問題ないだろう」


「竜とも戦えるようですしね」


 どちらも偽物です。

 というか竜と同じ評価の赤木さんが、地味にやばい。


 それだけの実力と評価してもらえたため【超級】へと昇格した。

 それと同時に、さすがに自分の身を守れるだろうと判断されたのか、デュトワさんと赤木さんの護衛もなくなった。

 まあ、そっちは仕方ない。いつまでも二人の世話になり続けるわけにもいかない。

 ファントムめ。来るなら来い。返り討ちにしてやるからな。俺の紫杏が。


「ということで、良いダンジョンを教えてください。先生のおかげで過労死を免れた恩返しチャンスです」


「ああ、すみません。うちのシェリルが……」


 同じ【超級】になったからとかではない。

 相変わらず目上の探索者に対して、尊大な態度のシェリルを慌てて謝らせる。

 いや、頭を無理やり下げるために触ったけど、なでるためじゃないから。不思議そうにするな。


「いえ、これからもその子のことをよろしくお願いします」


 そう言われたからには、ちゃんと世話しないといけない。

 ちょっと最近お調子者になりすぎているので、しつけないといけないか……。

 紫杏に目配せすると、頷き返してくれた。


「シェリル。あとでお仕置きね」


「なんでですか!?」


 なんでかわかるようになったとき、きっと探索者シェリルはより高みへと至るだろう。知らんけど。


「まあ、犬の嬢ちゃんのことはさておき、【超級】にいずれ潜るのなら、【上級】との違いは知っておいたほうがいいな」


「違い、ですか?」


 この言い方だと、単に魔獣が強くなったとかではなさそうだな。


「ああ、【超級】はダンジョンそのものに仕掛があることが多い」


 魔獣だけでなく、ダンジョンになんらかのギミックがあると。

 ……めんどくさそうだな。


「放出するたびに魔力がダンジョンに吸収され、まともに魔術が使えないダンジョンや、やけに重力が大きくて前衛職の動きを阻害するダンジョンとかな」


 思っていたよりも厄介そうだな。

 しかも、魔獣は【上級】より強くなるんだろ?

 こりゃいよいよ俺たちに【超級】は早すぎたと判断せざるを得ない。


「ちなみに……竜が出るダンジョンはどんな感じなんですか?」


「ダンジョンに漂う魔力量が他よりもかなり多い」


 つまりそれだけ魔獣も力を増しているというわけで、そのダンジョン以外では竜のスペックを発揮できないということか。

 どおりでスライムが制御に失敗するはずだな。


「ちなみに、凛々花が出現するダンジョンは決まっていないので、出会ったら諦めてくれ」


 魔獣扱いされてる……。

 いや、そもそも【上級】だよな?


「【超級】のダンジョンでなら、赤木さんとも会わないんじゃないですか?」


「…………あいつは、たしかに【上級】ですが、素行の問題で降格した探索者です。実力だけなら問題なく、ダンジョン自体に被害を及ぼさないことから、特別に【超級】の入場も許可されているんです」


 それでいいのか管理局。いいんだろうなぁ……。

 それだけの実力者ということか、あるいは【超級】以上の戦力を無駄に遊ばせておきたくないからか。

 きっと両方だろうな。


「それで結局楽なダンジョンはないんですか~? もったいぶらずに教えてくださいよ~」


「紫杏」


「シェリル」


「はい! ごめんなさい!」


 紫杏に合図をすると、紫杏はシェリルの名前を呼ぶ。

 最後はシェリルが反省するという、なんかよくわからない仕組みができあがってしまった。


「……烏丸がパーティの頂点のようだな」


「あなたも見習ったらどうですか?」


 やめてください。むしろこっちが学ぶべきことしかありません。


「それとシェリル。情報の提供はたしかに可能ですが、あくまでも私たちのパーティ基準になってしまいます。それを鵜呑みにすると、いざというときに痛い目にあいますよ?」


 まあ得意分野とかパーティとしての特色なんて、全然違ってくるだろうしなあ。

 特に一条さんもデュトワさんも氷属性を得意としているので、その前提の探索なんて俺たちには無理だ。


「わ、わかってますよぉ……。いいですよ~、先生とお姉様の前では、【超級】なんて山みたいなものですし!」


 庭とかじゃなくて? 山だとだいぶ危険そうなんだけど、不思議な言い回しだ。

 ともかく、今後【超級】に挑むのなら、また色々と開拓していくのがよさそうだな。

 ……まずい、楽しくなってきたかもしれない。


「それにニトテキアの場合、またわけのわからん魔獣と遭遇しそうだしな」


 だから事前情報なんてあまり意味がないだろと言われてしまった……。

 いや、こっちも好きで遭遇してるわけじゃないんですけどね。

 異変……遭遇しそうだなあ。自分で考えながらも悲しくなってくる。


「そういえば、一応、おこぼれとはいえ、分不相応ですが、名前だけでも【超級】になったのなら、異世界に行ける可能性ってありますか?」


「なんだか、ずいぶんと卑屈な言い回しでしたが、【超級】の探索パーティとして認められたのは間違いないので、もっと堂々としていいですよ」


 いや、無理です。

 実力に見合っていないので、自信をもって名乗れるのはまだまだ先になりそうだなあ……。

 だけど、それでも異世界に行けるチャンスがあるのなら、図々しくもこの肩書を利用したい。


「それで、異世界ですが……ここからは単純に実力が査定されます。あまり個人的なことは言いたくありませんが、本当に異世界に行きたいですか? 危険ですよ」


 言葉だけ聞くと、今の俺たちの実力がまだまだ不足していることを危惧しているようだが、一条さんは異世界そのものを危険視している気がする。


「異世界って、そんなに危険ですか?」


「一応、俺たちにも話くらいはきたことがあるが、はっきり言ってしまうと力の差がありすぎる」


「勘違いしないでほしいのですが、ニトテキアだけを指しているわけではありません。現世界のほうが安全なんですよ」


 異世界のほうがレベルが高いなんて噂は聞いたことはある。

 だけど、二人の様子を見るに、噂は真実であり、想像していたよりもその差は顕著なようだ。


「例えば、ダンジョンの扱い一つとっても現世界と異世界は違います」


「それって、向こうの【初級】がこっちの【上級】くらいあるとかですか?」


「そうですね。異世界のダンジョンは、比較的安全な場所と言えばわかりますか?」


 安全? ダンジョンが?


「もしかして、異世界のダンジョンって魔獣が出ないんですか?」


「いいえ、魔獣は当然同じように出現します。それでも安全なんですよ。異世界の未開拓の土地と比べれば」


「町や村みたいに人が住む場所は、それなりに安全らしいけどな。それ以外は、ダンジョンのほうがましって話だ」


 そんなに治安が悪いのか……異世界。

 となると、それなりに強くなってきたと思っていた俺たちも、異世界ではまだまだ通用しない可能性が高い。

 調べものするだけだし、物騒なことになれなければ……いや、なんか変なことに巻き込まれそうだな。


「ありがとうございます。もっと強くなってみせますよ」


「ええ、あなたたちなら、きっと異世界でも大きな事件を解決してくれると思います」


 なるべく穏便にいってほしいなあ……。


    ◇


「相変わらず、見事な手綱の握り方ですね」


「北原の嬢ちゃんは大したものだな」


 今日も調子に乗っていたシェリルと、それをあっさりと反省させる北原さん。

 たしかに見事なものだと感心してしまいました。


「しかし、俺たちでは無理だったのに、よくもまああんな簡単にしつけられるな。やはり、犬の嬢ちゃんの力関係を測る基準は種族なのか?」


「かもしれませんね。私は人間、あなたは獣人。大地は魔族ですがウサギに関連していて、夢子ちゃんはその大地のパートナー。皆、人狼より下という価値観なのでしょう」


「その点、北原の嬢ちゃんは悪魔みたいだからな。人狼とは対等だから、純粋な実力で下回ってるぶん、従うべき相手と判断しているわけか」


「その北原さんのパートナーである烏丸さんは、夢子ちゃんのときと同じような理由で、自分の上だと判断したのでしょうね」


 難儀な子です。

 種族としての特性なのか、変にプライドが高くて素直になれないのだから、今後も苦労することでしょう。


「まあ、それだけではないと思いますけどね」


 きっと、それ以前にあの子は、初めて赤の他人からあの子自身を見てもらえ、受け入れてもらえたのが嬉しかったのでしょうね。


「烏丸は、やはりそういう理由でなつかれているのか……」


 その理由を聞いたデュトワは、少し眉間にシワをよせました。


「ええ、残念と言っては失礼ですが、彼が人間なのは間違いないでしょう」


「面倒事になりそうだな……」


 まったく、困ったものです。

 あれだけの活躍をして目立った以上は、遅かれ早かれいずれこういうことも起こるかとは思いましたが、せめてもう少し異変解決の余韻に浸らせてもらいたいのですがねえ。

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