第136話 宴もたけなわな飛び入り参加にお引き取りを
「本当にありがとうございました」
「いえ、他のダンジョンでもスライムを倒してもらえたおかげなので」
もしも俺たちだけが先行してスライム退治をしていて、そこであの巨大なスライムと戦うことになっていたとしたら……。
各ダンジョンのスライムの魔力を補給し続け、あの竜の姿さえも自在に扱えたかもしれない。
そんなのが、延々と魔力不足もなく襲いかかってくるなんてぞっとしない。
「でもあなたたちがその巨大なスライムと戦っていなかったら、ダンジョンの魔獣を捕食して手がつけられなくなっていたかもしれないわ」
「結局援軍も間に合わなかったしなあ。あの場にお前らがいなかったら、また強化されたうえで逃げられていたかもな」
あいつ本当にしぶとかったからなあ……。
なんにせよ、ここで倒し切ることができてよかった。
「管理局からは、改めて今回の功績の報酬が贈られるはずです」
それはありがたい。
ありがたいんだけど、そんなことよりも大事なことがある。
ドサクサに紛れて、この場でお願いしてしまおうかな。
「ええと……一条さんに一つお願いがありまして」
「? なんでしょうか。私が力になれるのであれば、遠慮なく言ってください」
「明日からもダンジョンを探索してもいいですか?」
俺の言葉は、一条さんにとって予想外だったらしく、驚いた顔をしている。
周りにいるダンジョンの管理人さんたちもそれは同じだ。
これは、やってしまったか……? 仕方ない。数日なら我慢して生命力を吸わせよう。
「あなたは……本当に探索者なんですね。ええ、もちろんそのくらい構いませんよ」
そうですけど? 俺たちはまだ新人だけど、探索者として活動しているつもりだ。
「ふふ、面白いじゃない。どうせ数日のうちに封鎖は終わるし、必要ならうちのダンジョンに入ってもいいわよ」
「お前たちにとっては、いまさらうちみたいな難度の低いダンジョンに入る必要はないだろうけど、うちも歓迎するぜ」
おお、これは助かる。
一条さんだけでなく、他のダンジョンに入る許可ももらえた。
これなら毎晩レベルを吸われても、翌日またレベルを上げることができる。
◇
管理人さんや受付さんに感謝されなから、俺たちはダンジョンをあとにした。
そんな帰り道の最中、白戸さんが思い出したようにつぶやいた。
「それにしても、北原様もすごいですね」
「紫杏が?」
スライムの顔面を破壊した鉄拳のことだろうか。
「ええ、私が言うのもなんですが、結界を使用できる者はあまりいません。それも、あの竜の一撃を防ぐほどとは。かなりの使い手なんですね」
「使い方、観察してたからね~。パクらせてもらったよ」
たしかに、以前と比べても格段に精度は向上していた。
毎晩レベルが上がり続けているからというのもあるかもしれないが、目の前にいい見本がいたのが大きいだろう。
今後は白戸さんくらいの結界を扱えるのだとしたら、ピンチのときに助けてもらうとしよう。
「……」
「な、なぜあなたがそんな顔をしているのでしょうか?」
シェリルは無言で満面のドヤ顔を見せていた。
うん、かなりのウザさだな。
「私のお姉様です」
「私は善のだけどね」
ほら、よくわからないやり取りをしているから、現聖教会の面々に笑われているぞ。
なんとも締まらないまま、彼女らと別れようとすると、こちらに向かって遠くから走ってくる人影が見えた。
あれは……。
「少年!」
「なにしてんですか。そんなに急いで」
慌てているわけではないが、目当ては俺らしい。
スライム討伐の労いの言葉でもかけにきてくれたんだろうか。
「ずるいぞ! よりによって、偽物の私と本気で斬り合ったそうじゃないか!」
ああ、そっちか……。
どこまでも平常運転だな。この人は。
「いや、なにも好き好んで赤木さんと戦ったわけじゃ……」
「スライムを赤木さんと呼ばないでくれないか!? くそぉ……目をつけてた剣士が、スライムごときに寝取られた!」
寝てない。取られてない。あんたのじゃない。
「じゃあ、俺たちはこれで。今日はありがとうございました」
「お、おい、あれ放っておいていいのか?」
「聞いていたとおりのとんでもない性格ね……でも、暴れたら対処できないから、処理していってほしいんだけど」
「大丈夫です。暴れたら、俺たちにも対処しようがないので」
だから、こうして放置して帰るのが最善なんだ。
そうすれば勝手に子供でも眺めて、忘れてくれるだろう。
「えぇ~、私とも戦ってくれよ~少年~」
「いえ、間に合っているので」
本気の赤木さんの実力の一端を味わったので満腹だ。
危うくこの人がトラウマになりかけるほどの強さだったぞ。
「どうする? まだ魔力ならあるけど」
「いや、下手に刺激したら危険かもしれないし、今日は帰ることにしよう」
「なんか、探索中に魔獣と遭遇したような会話ですね……」
似たようなもんだろ。白戸さんたちは、標的になってないから知らないだけで、面倒なんだぞこの人。
……あれ、剣を使う獅子の獣人も、この人の興味の対象じゃないのか?
「あの……」
「ん? どうした?」
赤木さんが、大地とシェリルにあしらわれてる間に、俺はこっそりと獣人へと話しかけた。
「あなたも剣を使うなら、あの人に絡まれるかもしれないので、気をつけたほうがいいですよ?」
「……あの人って、ショタコンじゃなかったのか?」
「ショタコンでロリコンで剣狂いです」
「どうしようもないな!?」
そうなんだ。だから、あなたも気をつけてほしい。
誰だよ。あの人のこと剣聖とか呼んだの。
「ああ、やっぱりここにいたか」
剣聖をどうすればいいのか、困っていた俺たちの前にデュトワさんが現れた。
「今日はニトテキアも現聖教会も疲れている。それに、せっかくの勝利に水を差すのはどうかと思うぞ」
さすがに自覚はあったのか、デュトワさんの言葉を聞いて赤木さんは少し落ち着いた。
そんな赤木さんの近くにもう一人の人影が……。
あれ、厚井さんまでどうしたんだろうと、思う間もなく彼女は赤木さんの腕に針を刺した。
「しまった……油断していたようだね」
そう言って、赤木さんは意識を失いその場に倒れ、デュトワさんがそれを回収した。
え……大丈夫なのか?
「あの……その人、それでいいんですか?」
「ああ、変な毒は使ってねえよ」
毒って言っちゃった!
いやでも、大地もシェリルに毒を頻繁に使うし、きっと安全な毒なんだろう。
安全な毒ってなんだろう……。
大地が興味を示したのか、厚井さんに毒の成分を聞こうとしている。
それ、赤木さんならいいけど、シェリルには使うなよ?
「それと、烏丸。お前に話がある。気が向いたら店にきてくれ」
「あ、はい……」
よくわからないけど、騒ぎの元も回収してくれたし、今日のところは忘れるとしよう。
俺たちはそろそろ慣れてきそうだが、現聖教会の人たちはみんなあっけにとられているようだった。
「なんだったんだ……あの人は」
「ラスボスじゃないですか?」
シェリルの言葉を否定することは、この場にいる誰もできなかった。
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