第133話 猿真似で十分な力の象徴
言葉にしてみると、なんだかやけに納得できてしまった。
最初にシェリルの攻撃をかわしたときは、巨体のわりにスピードもあったため、すべてのステータスが俺たちやこれまで戦った魔獣の上位互換に思えた。
だけど、そのわりには向こうから攻めてくることはなく、こちらへの反撃しかしてこない。
それに、反撃してからは余計に動かなくなっている。
「体をうまく扱えていないって、どういうこと?」
近くにいたエルフに尋ねられるが、なんの根拠もないただの推測だ。
一応、前置きとしてそれを伝えてから、考えをまとめる意味もこめてエルフに答える。
「さすがに、こいつでも竜の力を扱うのは無理だったのかなと思って、なんかすぐに固まってしまうし、無理やり動かしているんじゃないかな?」
例えば、魔力の操作の精密性がより要求されてしまうから、こいつには最低限しか動かせないとか。
それか、もっと単純に……
「この体だと、魔力を大量に消費するから、連続で動かせないとか?」
なんとなく、それが一番しっくりくる考えだった。
「紫杏。あいつの魔力どうなってる?」
「う~ん……あいつ自身の魔力は、そんなに多くないみたいだよ? だけど、さっきから動く瞬間だけ魔力が増えてる気がする」
ということは、今目の前にいる竜の姿のスライム自体は、あの形を作るだけの魔力しかないんだろうな。
回避や攻撃をする瞬間に魔力が増えるのは、きっとその瞬間だけ必要な魔力を外部から吸収しているってことだろう。
「ダンジョンの魔力は減ってるか?」
「それは変わってないね。善ががんばったから、スライムたちはもうダンジョンの魔力を吸収できなくなってるみたい」
よしよし、まだスライムたちはおかしな進化をしたままのようだ。
そして、動くための魔力の補給がダンジョンからではないということは、可能性としてはやはり他のスライムからだろう。
「受付さん。他のダンジョンに残ってるスライムってどうなってますか?」
「え? ええと、いくつかのダンジョンでは完全に魔力反応ごと消えています。残りのダンジョンでも、姿自体は見えなくなっているみたいですけど、魔力はまだ残っているので……もしかして、隠れているんでしょうか?」
きっとそれだ。
「他のダンジョンにいる探索者や受付さんに、隠れてるスライムを探して倒すように言ってもらえますか? たぶん、そのスライムたちの魔力がこいつの動力源です」
「ええ!? わ、わかりました! すぐに連絡します!」
勘だけどな。違っていたらあとで謝ろう。
とりあえず、今は他のスライムたちを全滅する間に時間稼ぎをすればいい。
もしかしたら、あいつを無駄に動かすだけでも魔力切れとかになるかもしれないしな。
「シェリル、持久戦に変更だ」
「はい! 待ては得意です!」
いや、動け。
言いたいことはわからなくはないが、それだと動いてくれないんじゃないかと不安になるぞ。
「夢子と大地は、いつもどおりシェリルの援護を頼んだ」
「ええ、わかったわ」
「子守ってことだね」
「立派な人狼です~! 自分だってちっちゃいくせに!」
文句を言いながらもシェリルは、再び竜に向かっていった。
そして、想像していたとおり、竜はシェリルが接近したことで初めて動き出す。
長い首がシェリルをしっかりと補足しているが、やっぱり頭から周囲の情報を得ているのだろうか。
スライムのときは、目や耳なんてなかったから、頭の位置なんか関係ないと思っていたんだけどな。
「燃費悪いんですってね! そんな無駄にでかい体してるからですよ! 私なんて、おやつを食べたらすぐに元気です!」
「シェリルもけっこう燃費悪いけどね~」
「すぐお腹すいておやつ食べるしな」
だけど、さすがにあの竜の燃費の悪さは異常だ。
あまりにも格上の存在の力を得ようとしたため、身の丈に合わない力の代償ってことだろう。
「ふん! 回避! ……できません!」
さすがに一度目の尾の薙ぎ払いには、シェリルも慣れたらしく回避した。
それでも、やはり巨大な尾による超スピードの攻撃なので、ギリギリの回避だ。
だから、その直後の爪による攻撃は、いくらシェリルでもどうしようもなかった。
「ここにきて、新しい攻撃手段ってことは向こうも焦ってるって思いたいな」
夢子や大地の邪魔にならない程度に、周囲の魔力は根こそぎ消費しておいた。
それだけの魔力で作った魔法剣だ。斬撃で飛ばせば、さすがに竜とはいえ、攻撃の邪魔をするくらいはできるだろう。
「先生~!」
俺の放った斬撃は竜の爪に当たると、シェリルを狙った攻撃を無事にはじき返せた。
かなり大量の魔力を消耗したんだけど、それでこの程度か……。
スライムのことを言えないほどに燃費が悪いな。
というか、あのスライム実はわりと燃費がいいんじゃないか? それだけ竜が規格外なのかもしれない。
「またきたっ!」
まだ空中で体勢がそのままのシェリルに、今度は口を開いた竜の顔が近づく。
牙による攻撃か、もしかしたらブレス攻撃か、どちらにせよあの至近距離で食らったらひとたまりもない。
「口を開けてくれているのなら、外すことはなさそうね」
「スライムの体だから、内部からの攻撃にどれだけ意味があるかはわからないけどね」
なんか夢子がものすごく毒々しい炎を構えていた。
同じ炎使いの悪魔さえ、ギョッとしている。
文字通り毒なんだろう。前に大地の魔法と融合させたときは、あんなに禍々しい見た目じゃなかった気がするんだけど……。
「なんか、怖いのが目の前に!」
竜より怖かったのだろう。
シェリルを狙っていた竜の口の中に、毒と炎の融合魔法が飛び込む。
竜はそれを口の中に入れてしまい、思わず大きくのけぞった。
「――――!!」
スライムだからか、発声器官までは模倣していないからか、叫び声をあげることはない。
だけど、見るからに苦しそうな様子に、内部から毒に侵されつつ燃やされるのは、さすがにスライムにも効いたようだ。
スライムはその苦しみのせいか、その場で暴れるように動いた。
まずい。竜の巨体では、すぐ近くにいるシェリルをも巻き込みかねない。
「なんの!」
すでに回避の準備ができていたシェリルは攻撃を避けるも、先ほどまでと違い活発に動く竜の攻撃のすべては回避しきれなかった。
何度目かの尾や爪による攻撃。それはついにシェリルをとらえようとしている。
俺は再び斬撃を放とうと構えるが、シェリルに近づく獅子が先に攻撃を防いだ。
「任せっぱなしは、かっこ悪いよな!」
いや、防ごうとしてやはり大剣ごと後ろへと飛ばされるも、それがわかっていたのか今度はしっかりと踏みとどまる。
「偽物のくせになんて力だ……」
獅子の獣人は、再び接近して竜の攻撃に備えようとし、その隙を埋めるようにエルフの弓矢と悪魔の炎、そして俺の斬撃が竜を妨害する。
「あれだけ動き回ってるんだから、さっさと魔力切れになってくれよ」
スライムは、毒を食らってから、省エネに徹していた動きはやめて大暴れしている。
それも、毒で苦しみながらなので、こちらへの注意も散漫になった状態でだ。
だけど、ただ暴れているだけでも手が付けられないのは、さすがは竜と言ったところか。
このまま、魔力切れまで耐えることができるのか。それとも、耐え切れずに全滅するのか。
ちょっと、怪しいところだな……。
「げ、これはまずそうだな……」
獣人が、なかば諦めたような声を出す。
気持ちはわかる。竜はついに空を飛んでしまったのだ。
苦しそうにしながらも、しっかりとシェリルと獣人に狙いを定めているのがわかる。
そして、竜は猛スピードで二人に向かって突っ込んできた。
速すぎる。間に合わない。シェリルは【再生】でなんとかなるだろうが、獣人は……。
斬撃を飛ばそうとするも、同時に間に合うはずがないということも理解してしまう。
「シェリル!」
竜の巨体は、二人を巻き込むように地面へと激突した。
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