第130話 繁栄だけを願うエゴイスト
「うわ、すごっ……」
大きな体格のライオンの獣人は、とんでもない強さだった。
デュトワさんはあの見た目で魔法が得意だったが、この人は見たまんま、とにかく力がすごい。
力押しなのにゴーレムが簡単に砕けるなんて、パワーは紫杏といい勝負かもしれないな。
俺たちも負けていられない。とりあえず、斬撃を使って省エネを意識してゴーレムを倒すか。
「いや、君のほうこそ、なんかすごいことになってるな……」
久しぶりの戦法だけど、ちゃんと問題なく通用した。
斬撃を一太刀で大量に飛ばして、複数のゴーレムの足と核を斬る。
【剣術】を意識してから、斬撃の制御も前より上達したし、今なら斬撃一つにつきゴーレム一体は倒せるかもしれない。
「ふふん! 先生は、これでもまだ本気じゃないですけどね!」
「そうなのか? すごいな……なんというか、こんなにスキルを使いこなせる人がいるとは」
まあ、俺の上達は赤木さんのおかげなんだけどな。
しかし、ゴーレム楽しい。最近じゃ、倒しちゃいけないとか、倒し方を工夫しないといけないとか、つまらない魔獣ばかりだったし、単純な君たちは本当に癒し枠だ。
「善、そろそろスライムの数も減ってきたし、ゴーレムの姿になるかも」
大地は、弓使いのエルフの女性が放った矢に毒魔法を付与しながら、そう言った。
エルフの人が、信じられないようなものを見るような目で、大地の手元に釘付けになっているが、毒の付与が失敗したとかじゃないよな?
「それは炭? 焦げてるの?」
「いや、そういうわけではない……」
夢子と同じく炎の魔術を使うのは、悪魔の男性。
たしかに、夢子と違って黒っぽい炎だけど、闇の力とかかな?
「ん? ふんふん……先生、あっちにいます! 見てください。あのスライムを!」
シェリルがスライムの匂いを嗅ぎ取ったのか遠くを指さすと、たしかにそこにはゴーレムの形のスライムがいた。
見た目からして、肉体はスライムのそれだ。プレートワームのときと同じく、ダンジョン内の魔獣の姿と力を得たのだろう。
だけど、あれは……。
「ふははははは~! なんですか、それ! 水まんじゅうみたいに、中身がうっすら見えてるじゃないですか! あんなの、先生に核を狙ってくれと言ってるようなものですよ!」
だよなあ……。
ゴーレムたちの核の位置は同じなので、今さら隠れていても関係ないが、あれでは弱点の場所がまるわかりだ。
きっとスライムたちも、急激な進化でそこまでは対応できていなかったのだろう。
「まあ、ゴーレムだしな。こんなもんか」
スライムの核に向けて、斬撃を飛ばすと一発目で核が露出する。
二発目は耐性のおかげか、なんとか耐えられる。
三発目で核は真っ二つになった。残りの九発で核は粉々に飛散した。
「さすがですね。ここでは、私の力必要なかったみたいです」
白戸さんは、ダンジョンに入ってから常に全員に結界を張ってくれていたが、結果的には無意味となった。
だけど、不意の敵からの攻撃でも防げるし、力が必要ないってことはないだろう。
それは、俺が言わずとも現聖教会のメンバー全員が思っていたようで、白戸さんの言葉を否定していた。
今の現聖教会のメンバーたちとうまくやっているようだな。
「ちょっと待ってくださいね。おそらく今ので最後でしょうが、ダンジョン内を確認しますので」
一区切りついたと判断し、受付さんがデバイスでダンジョン内の様子を探る。
前回のように後で復活して見落とすことがないように、何度も確認しているようだ。
「このダンジョンのスライムは、先ほど倒したものが最後でした。後は、ゴーレムの姿のスライムから、次のスライムが誕生しないかだけ確認して、ここの探索を完了とさせてください」
順調だな。他の箇所のスライムはすでに消滅しているし、さっきのスライムが繁殖しても、そいつを倒すだけだ。
消耗も特にしていないし、このペースならまだまだ他のダンジョンを回ることもできそうだな。
「ちなみに、ここ以外のダンジョンの状況ってわかりますか?」
次代のスライム誕生までには少しラグがある。
なので、待っている間に次に向かう場所を選定するため、俺は受付さんに状況を確認することにした。
「え~と……わわっ、すごいです。急な話だったのに、すでに何人もの探索者がダンジョンに向かっていて、ここと同じようにスライムの完全排除の確認中のところが何か所もあるみたいです」
そうか。他の探索者たちも協力してくれているのか。
それも、ここと同じような状況ということは、ハイペースでダンジョン内のスライムを殲滅してくれているようだ。
不安だったが、いよいよスライムたちを倒しきることが現実的になってきた。
「ここは繁殖行動の確認待ちで待機中……こっちは、別パーティが戦闘中。こっちも、え~と……」
受付さんは、様々なダンジョンの情報に目を走らせていく。
そうしなければならないほど、各地で奮闘しているというのは、むしろいい状況といえるだろう。
「あれ……? スライムの完全消滅を確認? こっちも、え……こっちも?」
「どうかしましたか?」
受付さんの様子から、なにか問題が起きたと思い、すぐに尋ねる。
しかし、受付さんは問題が発生したというよりは、何が起きてるかわからないというふうに困惑していた。
「他のダンジョンで、次々とスライムが消滅しているようなんです」
「それって、他のダンジョンの探索者たちが、スライムを倒したってことじゃないんですか?」
「いえ……中には、ダンジョンに到着したばかりで、これからスライムの殲滅を行おうとしたのに、そもそもスライムが消えているという報告もあります」
どういうことだ?
こちらが倒す前にスライムが消えた?
「もしかして、ダンジョンの魔獣に倒されたとか?」
「その可能性もなくはありませんが、ダンジョンにいるすべてのスライムを倒すというのは……」
ちょっと、考えづらいよなあ……。
もしもそんなことになるなら、これまでだってダンジョンからスライムが一時的に消えることもあったはずだ。
だけど、そんな報告はおそらく管理人さんにも、受付さんにもあがっていない。
であれが、急に魔獣同士の争いでスライムが全滅するようになったというのは無理があるか。
「とりあえず、各ダンジョンではもう少しスライムのことを調べてもらっています。もしかしたら、魔力を探知させない新種へと進化した可能性もありますので……」
「それがいい。こうなると、俺たちも下手にここを出ないほうがよさそうだな」
「そうですね……他の場所にスライムがいないか、本当にいないとしても新たなスライムは本当にこれ以上産まれないか、もう少し調べたほうがよさそうです」
なるほど、スライムがいないと言っても直接すべてを見ているわけではない。
様々な探索者や魔獣に襲われた危機から、探知できないように進化した可能性も十分にある。
そうではないといいんだけどなあ……。もしもそうなら、また各ダンジョンでスライムを倒しすぎたせいということになってしまう。
この規模での殲滅作戦を乗り越えてしまったら、それに対応できるだけの進化をしてしまったら、管理局や探索者では手の施しようがないということになる。
そんな不安とともに、俺たちは先ほど倒したゴーレム型のスライムがいた場所を注意深く観測し続けた。
「まだ繁殖するみたいだね」
それにいち早く気づいたのは、やはり魔力の感知能力に長けた紫杏だった。
「本当ですね。魔力が急速に集まって形を成しているみたいです」
続いて白戸さんもスライムの復活を観測した。
そうか、あいつを倒しただけじゃまだ不十分だったってことか。
取りこぼしがあってはならない。前回と違って、今度こそスライムは一匹残らず消滅させなくては。
各自、戦闘の準備を行いながらスライムの復活、いや誕生を待つ。
しかし、そのスライムの形がはっきりと見えてくると、その大きさや形が明らかに通常のそれと異なることに気がついた。
「なんか……大きくない?」
産み落とされたのは一匹のスライム。
だが、どう見ても俺たちが倒してきたスライムよりも大きなサイズだ。
それどころか、ゴーレムやワームの形をしていたスライムすらも上回るその異形のスライムに、いい加減うんざりしてしまいそうだった。
「こいつ……また、進化したのかよ……」
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