第115話 種なしスイカの作り方
「なにかわかるか?」
「大体前に言ったとおりだね。でも、確実にやられる攻撃を受けると同時に繁殖してるみたい」
どちらかというと、スケルトンのときみたいに、倒したときに自動で発動するスキルみたいな扱いみたいだな。
つまり、こちらが剣で斬りかかったとしても、その行為に危険を感じて増えたりはしないということか。
「倒される間際に、周囲の魔力を一瞬でたくさん吸ってるみたいだけど……一度繁殖の動作に入ったら、自分たちでも止まらないんじゃないかなあ」
「じゃあ、増える前に倒すとかは現実的じゃないか……」
「スキルとかと違って、勝手に発動してるっぽいのが問題かなあ」
それに魔力の操作だけで繁殖してるというのが面倒だ。
例えば、大地に頼んで動けなくしてもらってから倒せばと思ったが、それも意味がなさそうだ。
「となると、繁殖のために使ってる魔力のほうをなんとかするしかないか」
となると、こいつらの補給元であるダンジョンの魔力をなんとかする?
いや、無理だろ……ダンジョンの魔力を枯渇できるようなら、良くも悪くもダンジョンを停止できるやつってことになる。
そんなとんでもない魔力操作できるやつなんていないぞ。それこそ精霊クラスの魔力でできるかどうかだろう。
……そう考えると、弱いけど数は無制限に増えて、ついにはダンジョンの魔力に影響を与え始めたこいつらってすごいな。
いや、今はスライムを感心するんじゃなくて、スライムをなんとかする方法を考えないと。
精霊助けてくれないかなあ。水の精霊はともかく、火の精霊はお願いしたらなんとかしてくれないだろうか。
無理だな……。精霊は総じて飽きっぽいらしいし、ダンジョン中の魔力を使った魔法を放ってくれなんて頼みは、途中で放り出されそうだ。
精霊魔法か……。そういえば、周囲の魔力を使うんだよな。――いけるか?
「……だめもとで俺がなんかしてみるか」
さすがにダンジョンの魔力をどうにかすることはできない。
だけど、俺の魔法剣は周りの魔力を消費することができるようになった。
なら、スライムが死んだ瞬間にスライムの周りの魔力を使って、魔法剣を発動したらどうだろう。
「なにか思いついた?」
たぶん、ずっと独り言をつぶやいていた俺だったが、紫杏は気にすることもなく見守ってくれていたようだ。
これ以上、紫杏を置き去りにして考え込むのも悪いし、やるだけやってみるか。
「スライムが死んだ瞬間、繁殖する直前に周りの魔力を使ってみる」
「なるほど、魔法剣だね。それじゃあ、私はそのときのスライムと周囲の魔力を見てみる」
「ああ、頼む」
話が早くて助かる。
それじゃあ、さっそくやってみることにしよう。
◇
「……意気込んでみたものの、こそこそ隠れてるのってなんか間抜けな絵面だよな」
「あはは、私たちがいたらインプとスライムは戦わないからね」
多少なりとも入れた気合ももはや霧散しそうだ。
スライムたちに気づかれないように魔力を使わず、インプたちに気づかれないように身を隠す。
そのかいあって、インプもスライムも俺たちを見失ったようだ。
「お、スライムがインプに襲いかかってるね~」
「よせばいいのに。なんで勝てると思うんだよ」
襲いかかってるというか、のろのろとインプににじり寄っている。
そして、インプたちはとっくにそんなスライムたちに気がつき、すでに状態異常のスキルを使用しているみたいだ。
スライムたちはあっさりと状態異常を発症し、それでもインプたちのほうににじり寄る。
「探索者たちに負けて、消えかけのインプくらいにしか勝てなさそうだよねえ」
「ああ、それならさすがに倒せるだろうけど。そんなのもう搾りかすもいいところだな」
一応それでもわずかな魔力が残ってはいるから、そのわずかな魔力を吸いにいっているのだろうか。
そして知能も低いから、死にかけの魔獣とそうでない魔獣の区別がついていないのかもしれない。
俺たちが発見したスライムたちも、死にかけのサイクロプスにまとわりついてたな……。
「善、そろそろ」
紫杏の言葉どおり、すでに戦況は決していた。
スライムたちは、インプたちの攻撃で順番に倒されていく。
そして、そのたびにスライムたちは、おそらく魔力を吸収して繁殖しているのだろう。
俺は、残りの一匹が倒されそうになる瞬間を見計らって、魔法剣を発現させて駆け寄る。
インプは俺に気がついたようだが、すでにスライムへ攻撃しようとしていたため、それを止めることはできない。
スライムが倒されたのとほぼ同時、やや早めに周囲の魔力を燃焼させるイメージで魔法剣を拡大させる。
空気も魔力も含めて、とにかくスライムの周囲のあらゆるものを燃料に、炎が広がるイメージで魔法剣を大きく燃やす。
とばっちりのインプごと焼き尽くすほどに大きくなった炎で、もはや斬るというか炎を押し付けるように剣を振り下ろす。
……いや、これはやらなくてよかったかもしれないな。
つい、魔法剣を発現させたので魔獣を倒そうとしてしまった。
スライムはすでにインプに倒されていたし、インプを無理に倒す必要はない。
なら、この行動は、俺がスライムを倒したと勘違いされるだけの無駄な行動だった。
受付さんと一条さんに後で怒られたらどうしよう……。
二人に謝っておくことにしよう。
「善! 成功したっぽいよ~!」
「え、まじ!?」
意外だ。だめもとでやってみたけれど、紫杏の笑みを見るにどうやら冗談でもなんでもないらしい。
それはつまり、スライムの繁殖行動を阻害することに成功したということだ。
本来ならこのしばらく後に、急激に魔力が膨らんでスライムが誕生する。
だけど、紫杏は一足先に魔力を感知して、それが失敗したと観測できたようだ。
「さっすが善! ほめてあげるね~」
「いや、シェリルじゃないんだから、それは別に……」
「うれしくないの?」
「いや、うれしいけど……」
子ども扱いされるのは嫌だけど、紫杏に頭をなでられるのは別に嫌じゃない。
だけど、いつものようにべたべたしてこられるよりも恥ずかしいのはなんでだろう。
「念のためしばらく様子を見てみるか。それでスライムが産まれないようなら、一条さんたちに報告しよう」
「……なるほど! そういう口実で、もうしばらく私と二人きりでいちゃつきたいと!」
「いや……ちが」
くもないからもういいや。
どうせ様子を見ている間は暇なんだし、たまには紫杏とのんびりしても罰は当たらないだろう。
諦めた俺を見て、紫杏はいち早く体をくっつけてくるのだった……。
◇
「前回だったら、もうとっくに新しいスライムが出てきていたよな」
「そうだねえ。だから言ったでしょ? 成功したって」
疑うわけじゃないけど、一応そこはしっかりと調べないといけないからな。
だけど、これではっきりした。スライムが死ぬ寸前に周囲の魔力を先に消費してしまえば、スライムはそのまま消滅する。
ようやく解決策を見つけたことに浮かれて、俺は一条さんたちに伝えることしか考えていなかった。
だけど、スライムを対処するのはそう簡単ではなかったようだ……。
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