第111話 さあ、もう一回!

「本日はよろしくお願いします」


 各ダンジョンでのスライムを一斉殲滅の決行日。

 俺たちは、デュトワさんに伝えられた日時にゴーレムダンジョンへと赴いた。

 受付さんに挨拶をされたのだが、今日はカウンターを挟んでの会話ではなく、受付さんは俺たちの近くで会話をしている。


「本当に大丈夫なんですか? 俺たちだけでも、戦力は足りていると思いますけど」


 周囲に他の探索者たちも何人かいる。

 何度か通ううちにアドバイスをくれたここの常連さんも、依頼はされていないが手伝ってくれるらしいので人手はまあ問題ないだろう。

 だけど、受付さんは管理局から依頼されているらしく、今回は俺たちに同行する形でダンジョンに潜るようだ。


「大丈夫ですよ。私こう見えても結構強いんですよ?」


 腕を曲げて力をアピールするけど、別に力こぶはできていない。

 それでも彼女が強いということは知っている。

 ワームダンジョンのときも、受付さんは探索者たちに襲われても切り抜ける程度には実力者だ。

 そもそも管理人がいないときにトラブルが発生した際に、受付さんは荒事にも対応できるだけの力がないといけないからな。


 それでも、なんとなく普段から受付さんは事務方という印象が根付いているためか、なんだか一緒に探索するというのが不思議な感覚だ。

 まあ、ダンジョンの副管理人のようなものだし、この人がダンジョン中のスライムが殲滅されたかチェックが必要だからな。

 一緒に行動しないと倒し漏れがありそうだし仕方ない。


「それでは、時間になりましたので行きましょうか」


 手にしたデバイスを見て、受付さんから作戦の開始を知らされる。

 さて、ダンジョンをしらみつぶしに探索するわけだし、今日は戦闘よりも探索のほうで疲れそうだな。

 できるかぎりゴーレムも倒して、紫杏に与えるためのレベルも稼いでおくとするか。


    ◇


 スライムだけでなく目に見えた魔獣全てを倒しながら進んでいく。

 練習も兼ねて炎の魔法剣を使っていたが、相性の問題かゴーレムには効きが悪いように思える。

 試しに水の魔法剣にしてみると、以前以上にあっさりとゴーレムはバラバラになった。


「やっぱり、ゴーレムには炎より水のほうが効果的なんだな」


「さすがですね。魔力を剣に通してそこまで自在に扱えるなんて、剣士の人にしては珍しいです」


「魔法剣以外はからっきしですけどね」


 別に俺の魔術やら魔力制御が上達したわけじゃない。

 あくまでもスキルとして習得した魔法剣の派生としての範囲でしか、俺は魔力を使いこなすことはできない。

 大地や夢子のような本職とは違って、限定的な力というわけだ。


「それでも、すごいですよ。それに魔法剣なんて希少なスキルを使える人もほとんどいませんからね」


 いるにはいるんだな。

 その人も俺みたいに精霊からスキルを教えてもらったんだろうか。

 いつか会えたら魔法剣のコツとかを聞いてみたいものだ。


 それにしても、受付さんも平然とした顔でゴーレムを倒しているな。

 さすがに相当の実力者というわけか。


「さて……このフロアは倒し終えたようですね」


 受付さんは度々デバイスでダンジョン内を確認しているらしく、一通りのゴーレムとスライムを倒し終えるとそう告げた。

 今のところは特に問題はない。ゴーレムは脅威ではなく、スライムはもっと脅威ではない。

 大地と夢子はスライムを倒すたびに魔力を回復できるし、まだまだ戦うことはできるのでガス欠することもない。

 入口付近で別れた常連さんたちも、すでにスライムは倒し終えているらしいので、あとは奥に進んで同じことを繰り返していくだけだ。


    ◇


 そうして順調に各フロアのスライムたちを倒し続けて、一通りダンジョンを回り終えた。


「ボスさえあっさりと撃破するとは……本当にすごいですね」


「あいつ足斬ったら動けないですからね」


 久しぶりに会ったムカデゴーレムも、足を斬ってからみんなで攻撃してあっさりと倒せた。

 残念ながら、【中級】のときに感じていたような、大量の経験値は取得できなかったが……。

 ゴーレムが弱体化して経験値が減っているのもあるが、サイクロプスのほうが効率がよかったせいだろうな。


「それにしても、ボス部屋にまでいるのね。このスライム」


 さすがに、ここまでに倒し続けて嫌気がさしてきたのか、夢子は無造作に火の玉を飛ばしてスライムを焼き払いながら言った。

 たしかに、ボス部屋にまでいるとは思わなかった。

 前にコボルトダンジョンを調べたときは、俺たちが勝手にボスを倒すのもよくないと思い、ボス部屋までは確認しなかったからな。

 案外ボス部屋にいたスライムが残っていたせいで、数日後にスライムたちが復活してしまっていたのかもしれない。


「はい。報告にもありましたが、本当にダンジョン中に生息しているみたいです」


「だから、一つ上のランクの探索者が担当することになったわけですか。ボスを相手しながらスライムを倒すのは、さすがに危険そうですからね」


 大地の考えは正解だったらしく、受付さんは頷いた。

 なるほど。ボス以外なら、それこそ常連さんに任せても問題ないと思ったけど、ボス部屋でボスから逃げつつスライムを全滅となると話は別だ。

 事故が起こらないように、これまではボス部屋のスライム退治は試していなかったってところか。

 そうなると、この試みは効果が期待できるんじゃないかと思ってしまう。


「それでは、これで当ダンジョンのスライム殲滅を終了いたします。ご協力ありがとうございました」


 再びデバイスを確認し、受付さんはダンジョン中のスライムが完全にいなくなったと判断したらしく、そう締めくくった。

 あっけないといえばあっけないが、ランクが下の得意なダンジョンだったし、なんなら受付さん一人でも戦えそうなほど強かったし妥当な結果だろう。

 きっと他のダンジョンの探索者もうまくやっていることだろう。


 だから問題はこれからだ。

 スライムたちをひとまずは全滅させた。

 あとは、このままスライムが二度と湧き出てこなければ異変は解決する。

 逆に、今後もスライムが出てくるようなことがあれば……対処する方法は果たしてあるんだろうか。


    ◇


 受付さんに渡された帰還の結晶を使用して、ダンジョンの入口に戻る。

 受付さんは会釈をしてから、いつものカウンターへと戻っていき改めて備え付けの端末でダンジョン内を確認しているようだ。


「帰ろうか。邪魔したら悪いし」


「うそ……たしかに確認したはずなのに」


 一仕事終えたので帰宅しようとした俺たちだったが、後方から聞こえてきた受付さんの声に、歩みを止めることになった。


「……もしかして、スライムがまだいたんですか?」


 見落としたのか? あいつら魔力がわずかしかないから、魔獣として探知しようにも難しいらしいからな。

 なら、すぐにダンジョンに引き返して倒してしまえば……。


「まだ、なんてものじゃありません……。見落としていたとは思えないほど、大量のスライムたちの反応が検知されました……」


 思っていた以上にあっさりと終わってしまったなと思ったせいか、どうやらことはそう簡単に終わる話ではなかったようだ……。

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