第108話 弱点:性癖
「アア、オ前人間ニシテハ珍シク、オレタチミタイナ魔法ヲ使エルミタイダカラナ」
俺たちみたいな魔法っていうのは、別に元素魔術を指してるってわけじゃなさそうだ。
会話の流れから察するに、きっと魔術を発現させる手段のほうなんだろう。
たしかに、夢子が言ったとおり魔術は自身の体内の魔力を消費して発動すると学校でも習う。
だけど、俺は周囲の空気を使って炎を燃焼させようとしたことで、結果的に無意識に周囲の魔力を消費して炎を強化したらしい。
そして、精霊にとってはその魔術の使い方が当たり前なので、人間にしては珍しく自分たちのような魔術を使う俺に興味をもったってわけか。
「オイ。オ~イ? ナンダコイツ、固マッチマッタゾ」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事をしていた」
精霊の声に思考から抜け出す。
ともかく、もしも精霊が俺に少しでも興味を持ってくれるというのならありがたい。
もしかしたら、水の精霊のときのようになにかスキルを授けてくれるかもしれないし、そうでなくてもなにか戦うヒントのようなものを得られるかもしれない。
「変ナ奴ダナオ前。マアイイヤ。オ前ハ面白ソウダカラ、オレモミーチャンミタイニ何カ、チカラニナッテヤル」
「それは助かる。ありがとう」
お礼を言うと、精霊は無邪気に笑った。
さて、願ってもない話だが、いったいなにを教えてくれるんだろう。
「ミーチャンカラ聞イタゾ。オ前、魔法剣ガアッテルンダッテナ。ダカラ、オレモ火ノ魔法剣ヲ教エテヤル」
「えっと……」
もう使える。というか、ついさっき使えるようになって、それが原因でこの子がきた。
「ナンダヨ。遠慮スンナッテ、ホラ」
そう言って精霊は俺の腕を握った。
燃えている体に接触したことによる火傷の心配とか、一応女性判定されたのかぴくっと反応した紫杏とか、考えるよりも早く、なんというか頭の中に一気に情報のようなものが流れてくる。
習得したスキルの効果を知るときと同じだ。名前を知り、実際に使ってみて、そこで初めてスキルの詳しい効果が頭に浮かんでくる。
それと同じように、勝手に頭の中に情報が浮かんでくるというか、精霊から伝わってくる。
だけど、漠然と浮かんできた情報は炎のイメージというか、姿かたちやら、色やら、熱やら、匂いやらだ。
スキルに関する情報は一切ない。――ないのだが、なんだか今ならさっきよりもうまく魔法剣が使えるような気がした。
「ヨシ、ヤッテミロ」
「ああ、わかった」
炎属性の魔法剣を発現してみる。
一度成功しているからか、はたまた先ほどの精霊がくれた炎のイメージのおかげか、すんなりと魔法剣を発現することができた。
そして、再び周囲の空気というか空気中の魔力を消費して、炎を燃え上がらせるようなイメージをする。
「おっ、さっきよりも制御しやすい」
先ほどは一度燃え広がっていくと、もはや魔法剣を消さない限りはその勢いを弱めることなどできなかった。
だけど、今回はしっかりと魔力を燃料として少しずつ勢いを強めることも、反対に燃焼を中断して勢いを弱めることもできるようだ。
これなら、周囲に被害をおよばさずに、強力な魔法剣として扱うことができるかもしれない。
「ありがとう。助かったよ」
お礼を言うも、火の精霊はなんだか腑に落ちないような顔をしていた。
「ウ~ン……ナンカ弱ッチイナ、オ前ノ火。ソレシカデキナイノカ?」
どうやら、火の精霊にとっては制御可能となった魔法剣ですら、まだまだ物足りないようだ。
まあ、しかたないか。相手は精霊。それも伝承になるような超大物の四大精霊の一人。
たかだか人間の俺の魔術程度では、精霊を満足させるには至らないのだろう。
「ナルホド、ヘッポコダナ。デモ、少シハ面白ソウダカラナ。気ガ向イタラ見ニ来ルカラ、モット強クナットケヨ」
一応、及第点はもらえたらしい。
それにしても、結局へっぽこという評価なのか……。
おのれみーちゃん。絶対あの子が精霊仲間に吹聴したせいだ。
火の精霊は、ある程度満足したらしく、炎のゆらぎが再び大きくなっていく。
きっと、もう用事が済んだというか、飽きたので帰るのだろう。
徐々に炎とともに体が消えていく中、精霊はふと夢子のほうを見た。
「オ前」
「な、なに……?」
急に話しかけられたことで、夢子は少々驚き返事を返す。
そんな様子を気にすることもなく、精霊は一方的に夢子へ言葉を告げた。
「ソイツヨリ火ノ扱イハウマイナ。ダケド、ソイツヨリ火ノイメージガワカッテナイ。ソレニ自分ノ魔力シカ使ワナイノハナンデダ? ソレジャア、イズレ限界ガクルゾ?」
「そ、そんなこと急に言われても」
これまでの魔術の使い方が違うというのだから、そりゃあ夢子だってすぐには飲み込み切れないだろう。
しかし、イメージが足りてないか。夢子と大地は現実的な考えに基づいて行動するタイプだしな。
もしかしたら、案外常識のないシェリルとかのほうがイメージだけはできるので、とんでもない魔術を使えたりするのかもしれない。
いや、気のせいか……。
「オ前ノ魔法ハ上手ダケド面白クナイ。面白クナッテ気ガ向イタラ、オ前ニモナニカ教エテヤル」
「消えちゃった……」
それだけを言い残すと、火の精霊は今度こそいなくなった。
「どうする? なにか強くなれそうな機会が与えられたみたいだけど」
「そうはいっても、いきなり今までと違う方法で魔術を使うっていうのもねえ……」
今の魔術に慣れている分、他の方法を急に言われても困るよな。
その点俺は慣れるほど魔術使ってなくてよかった。よかったのかな?
「まあ、試すだけは試してみるわよ。水の精霊よりはとっつきにくそうじゃなかったし」
たしかに、水の精霊よりは口調こそ荒いものの素直な感じだった。
なんとなく、厚井さんを思い出すというか、ドワーフ的な口調だったな。今思うと。
◇
「さてと、それじゃあ私も久しぶりにサイクロプスの相手をするか」
そういえば途中からこの人のこと忘れてた。
おとなしくしていたのは、さすがに赤木さんでも精霊の出現には驚いていたためだろうか。
ともあれ、この人は調査に来たって話だったな。
「あれ……サイクロプス倒せるんですか?」
つい気になって、赤木さんに尋ねると、当然だとばかりに胸を張って答えられる。
「うむ、斬れるならば倒せない道理はない」
めちゃくちゃな理屈だけど、この人が言うのなら本当に倒せちゃうんだろうなあ……。
見せてやるとばかりに、近くにいたサイクロプスに一瞬で近寄ると、赤木さんはかろうじて目で追える速度で剣をふるった。
相変わらず無茶苦茶だな。ステータスのなせる業なのか、彼女自身の技量によるものなのか、あの速さは上位の探索者でもとんでもない部類な気がする。
でも、あくまでも普通の剣による攻撃だ。
あれだと、結局サイクロプスが再生してしまって、致命傷にはならないんじゃないか?
「よし、終わった」
「え?」
その言葉と共に、サイクロプスは倒れて動かなくなる。
それだけではなく、魔獣が消滅するとき特有の魔力が漏れ出し、黒い煙が確認できている。
「ど、どうやって、再生を無視したんですか?」
「ん? 再生したところも斬ればいいじゃないか。そうすれば、いずれ再生が間に合わずに消滅する」
……ただの変態剣術だった。どうやら、俺には参考にするにはまだまだ実力が不足しているようだ。
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