第99話 業務効率化推進期間
「ぎゃ~~! 毒が! 毒が体の周りに! おのれ大地! 私を倒そうと先生とお姉様には敵いませんよ!」
「うるさいなあ……集中できないから黙ってくれる? 本当に毒に侵されたいなら、話は別だけど」
「本性を現しましたね! この邪悪ショタ!」
大地になんとかしてくれと目で訴えかけられる。
いつにもまして吠えてるなあ。やっぱり、仲間の魔法とはいえ毒魔法が体の周囲を囲ってるのは怖いのかもしれない。
「いい子だから我慢しようね~」
紫杏はシェリルの隣で手をつないでいる。
まるで注射を怖がる子供と付き添いの母親みたいだな。
「よしっ、できた」
自身の魔法とシェリルの魔力の統合が終わったのか、大地は額の汗をぬぐってからシェリルの頭をぺしっと叩いた。
たぶん大変だったのに、近くで騒がれて余計に集中力を必要としたんだろうな……。
「ぶ、ぶたれた……お姉様!」
シェリルが大地を指差すが、紫杏は困ったように頭をなでるだけだった。
まあ、軽くはたいただけだし、治療は不要どころかダメージなんてないだろう。
「馬鹿なことしてないで、さっさと準備しなさい」
茶番を繰り広げる中、一人真面目に周囲を観察していた夢子にお叱りを受ける。
どうやらサイクロプスがまた近づいてきているようだ。
「あっちか?」
「そうね。その方角であってるわ」
俺だけは至近距離に近づかれるまで存在を感知できないので、方角とタイミングは誰かに尋ねながらとなる。
今回は戦闘に不参加である夢子が、隣でこちらのサポートに徹してくれていた。
「今よ」
「おう」
不意打ちの斬撃を放つと同時、命中したかを確認する前にシェリルが霧の中に駆けていく。
斬撃による傷が再生されると判明した以上は、できるかぎり間を置かずに攻撃を当て続けたいからだが、もしも外れていたら危険な行動でもある。
それだけ、俺を信じての行動なんだろうけど、ちょっと心配だな。
「その大きなお目目をえぐり取ってやります!」
なんか怖いこと言ってるけど、えぐり取ったら毒が体に回りにくくなるんじゃないか?
無論言葉のまま行動するわけではなく、自分を奮い立たせるような言動だろうけど。
シェリルの声に反応はするものの、まだ俺の攻撃によるダメージが抜けていないようで、サイクロプスはシェリルを相手にする余裕がなさそうだった。
巨体を暴れさせているので、不用意に近づいたら危険ではある。だけど、そこはさすがと言うべきか、シェリルは危なげなく避けながら近づいていき顔の目の前に立った。
「腹下しクロー!」
「そっちの毒じゃないから」
経験者として苦しみを知っているためか、やけに感情のこもった叫びとともに爪が振り下ろされる。
追加で目玉を攻撃されたサイクロプスは、命を蝕むほどの凶悪な毒に侵されたことで、さらに苦しみ悶えている。
「ふははははは~! その毒の苦しみ、私はよく知っているんですよ!」
その毒、シェリルが知ってるのとは別だぞ。腹を下す程度の軽いものではない。
それを知ってか知らずか、上機嫌にサイクロプスに煽り散らかしている姿は、いつものシェリルだなとほほえましくなる。
「あとは、効果が切れないようにすれば、大丈夫そうだね」
「継続ダメージはあくまでも毒によるものだけど、毒を与えた攻撃はシェリルと大地の協力って扱いなんだよな。じゃあ、夢子と協力しても一撃で倒せなかったら、経験値は二人には入らないか」
そう考えると毒魔法ってずいぶんと便利だ。
まあ、効果がない相手とかもいるから、それくらい便利でもいいだろう。
それに、あくまでも大地の魔法の技術力が高いからこそ、こうやって各自の魔力に合わせた技へと昇華できているわけだろうし。
「むっ! もう二匹くらいきています!」
「そうみたいだね。一匹はシェリルが足止めして、もう一匹をすぐに倒したほうがいいかもしれない」
まだ先ほどのサイクロプスは倒せていない。
しかし、運悪く複数の相手が近づいてしまっているようだ。
こういうときに、各自で一匹ずつ相手をできないのが、やはり少し戦いにくい。
「とりあえず俺はちくちくと目を狙っておくよ」
「ええ、お願い。私と大地でさっさと倒しちゃうわ」
急に忙しくなってきた。
最初のサイクロプスも立ち上がって体勢を立て直しているし、とりあえずひたすら斬撃で目を潰し続けよう。
シェリルが挑発しているサイクロプスの目を潰す。それでも、シェリルは念のためにサイクロプスを煽り続けている。
毒で動きが鈍くなっているサイクロプスの目を潰す。気力で立ち上がっていたのか、見るからに弱点である目へのダメージに再び膝をつく。
大地と夢子の魔法がそろそろ完成しそうなので、無傷のサイクロプスの目を潰す。タイミングはばっちりだったらしく、その直後に二人の魔法も直撃し、ひときわ大きい叫び声を上げながら倒れる。
「なんか善だけ、シューティングゲームみたいだね」
たしかに……。
最近接近して斬れてないな。このままじゃいくら剣術があっても鈍りそうだし、そろそろ魔獣を斬りたいものだ。
レベルが上がってきたら相談してみよう。
「さすが先生! あんなデカブツ、物の数じゃありませんね!」
「いや、三匹でけっこう忙しかったぞ。あまり増えすぎると辛い相手かもしれない」
そもそも、硬くてタフなのが面倒なんだよなあ。
そうじゃなければ、わざわざ斬撃をすべてたばねて強化する必要もなさそうなのに。
もうちょっと斬撃一発の威力が上がれば、それこそ一振りで十二匹の目を同時に狙えて効率も上がるんだが……。
なんとかならないかな。やっぱりレベルを上げるしかないのか。
「ああもう。また立ち上がろうとして」
あとは消滅を待つだけかと思っていたが、サイクロプスは再び立ち上がる。
なので、その隙に順番に斬撃を叩きこんでいくが、毒が完全に回って消滅するまでの時間もちょっと厄介か。
何度も立ち上がって行動されてしまうと、他の魔獣まで相手できなくなりそうだし。
「あれ? 毒が効くのなら、先に麻痺させればいいんじゃないか?」
その後に改めて殺すための毒を使えば、少なくとも再び立ち上がったやつを処理する手間はなくなりそうだ。
「たしかに……なんだか、倒すことだけを考えていたよ。ちょっと試してみようか」
ということで、魔法剣に改めて麻痺毒の魔法を重ねてもらう。
そして、シェリルが囮になって相手していた一匹だけが健在だったので、そいつに向けて攻撃をしてみるとそいつは静かに倒れた。
生きてはいる。だけど、暴れることはできないらしく、体は痙攣したようにわずかに動くだけだ。
「いけそうだな」
「そうだね。ということは、まずは善と僕で麻痺させて、その後はレベルを上げたい人ととどめって感じかな」
よし、大体決まった。多分この倒し方が一番効率がいいはずだ。
やっぱりレベル上げはこうでなくてはいけない。
なるべく同じ手順でルーチン化した作業をこなし続ける。それが楽しい。
「じゃあ、次は複数相手で試してみるか」
こうして俺たちはちょうどいい数のサイクロプスたち目指して、ダンジョンの中を進んでいった。
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