第98話 保護者の騒乱、大人しい子供

「いい感じだったね~」


 紫杏の言うとおり結果は上々だった。

 大地と夢子の魔法を重ねたことによって、サイクロプスにとどめを刺したのは二人という判定になったらしい。

 そのため、大地だけでなく夢子も経験値を得ることができたのだ。


 もしかして完全に同時に攻撃した場合とかも、経験値は二人に入るのか?

 そして経験値は分配されるのか、それともそれぞれに一体分入るのか。

 色々と検証してみたい。というか、この辺の情報なら掲示板に書いてないだろうか。


「レベルはどうなった?」


「私は1上がったわね」


「僕は変わらないな。もう何匹か倒してみようか」


 それを聞いて、シェリルが次のサイクロプスを引き寄せる。

 もうすっかりサイクロプスの動きに対応できていて、非常に頼りになる存在だ。

 大地と夢子も、おかげで安心して魔法を重ねることに専念できている。


「じゃあ、俺もサイクロプスの邪魔をちゃんとしないとな」


 シェリルを見習って自身の役割を果たす。

 相変わらず囮として動いているシェリルに夢中なようで、斬撃は簡単に命中しサイクロプスの動きが中断される。

 そして、その隙にできたばかりの傷に毒と炎が襲いかかる。

 あとは毒の効果で息絶えるのを待つだけだ。


 いい感じになってきた。

 さすがにゴーレムのように複数相手はまだ厳しいが、一体だけ相手だというのなら、みんなで協力すれば比較的簡単に倒せる相手だったな。


「う~ん、多分経験値が減ってるわね」


 何匹かサイクロプスを倒し終えてからの夢子の感想だ。

 レベルの上がり方が、昨日の大地と比べるとたしかに遅いような気がする。

 さすがに、二人に魔獣一体分の経験値が入るなんて虫のいい話はなかったか。

 となると、とどめを刺した人数で経験値が分割される可能性が高そうだ。


    ◇


 何匹か敵を倒し続けていたため、休息をとる。

 携帯食やらお菓子や飲み物を口にしつつ、今後の方針を改めて確認することにした。


「僕のレベルを重点的に上げるって話は一旦忘れよう。それよりも、夢子のときと同じく毒を付与して、善とシェリルにもサイクロプスに有効な攻撃をしてもらったほうがいいかもね」


「でも、俺もシェリルも魔法苦手だぞ」


 夢子みたいに他者の魔法に合わせた構築なんてできるようなら、水の精霊も俺の不甲斐なさに怒って出現していないだろうしな。

 ……水か。そろそろ他の属性も試してみるか?

 習得した魔法剣は水属性だったから、他の属性はてんで使えないままなんだよな。


「まあ、そこは僕ががんばるよ。魔法剣に混ぜれば、斬撃でそのまま倒せそうだからね」


 やはり、聖女のときと同じような戦法というわけだ。

 それならいつも通りの戦い方だし、こちらとしても楽なのだが、大地に任せきりというのが申し訳なくもある。


「私、魔法使えないです」


 なので、問題はシェリルのほうだ。

 魔法を重ねるもなにも、シェリルはそもそも魔法を使った戦闘ができない。

 しかし、大地はそちらも考えがあるようだった。


「なんとか、シェリルに毒魔法を使ってみるよ」


「ええっ!? 悪いことしてないのにお仕置きとか、ただの虐待じゃないですか!」


 お腹を押さえながらシェリルが俺の背に逃げてきた。

 悪いことしてる自覚はあるんだな。

 あと、おそらく大地が言っていたのは、そういうことではないと思うぞ。


「それでも、爪に魔力は纏ってるでしょ。そこに毒を付与してみるって意味だよ」


「なんだ……よかった。まったく、ついに理由なく毒を使うつもりかと思いましたよ」


 言いたいことはわかったけど、俺の魔法剣に毒魔法を重ねる以上の難易度なんじゃないか?

 そこまでのことが本当にできるのかと思うが、提案したからには大地には算段がついているのかもしれないな。


    ◇


「というわけで、まずは魔法剣の準備をしてくれる?」


「おう」


 剣に魔力を通す。わずかな消費量で魔法剣は発現する。

 今までは長時間維持することはわりと大変で、さっさと斬るか斬撃に乗せて飛ばしてしまっていた。

 だけど、厚井さんの武器はやはり優秀なようで、こうして大地の魔法を付与する間も問題なく展開できている。


「こんな感じかな? じゃあ、サイクロプスに撃ってみようか」


 もう分散させる必要もないので、斬撃はすべてたばねてしまう。

 そのほうが威力も上がるし、なんとなく毒も一つに固まりそうな気がするからな。


「うわっ、うるさいです……」


 目に直撃すると、他のサイクロプス同様に両手で目を抑えて苦しみだす。

 しかし、今回はいつも以上に苦しそうにもがいているし、叫び声もやたらとうるさい。

 シェリルが嫌そうな顔をしてこちらに戻ってくる程度には、やかましかったようだ。


「なんかすごい暴れようだな」


 もちろん、離れた位置にいる俺たちに実害はないが、その姿はやたらと迫力がある。

 なんで今回はこんなことになってしまっているんだ?


「もしかして、今までの戦いではあの短時間でも、わずかに眼球の再生がされていたのかもね」


 興味深そうに大地がそう推測する。

 ああ、そういうことなら納得できる。

 いつもは眼球を傷つけて、そこに毒や炎をぶつけていたが、若干のタイムラグがあった。

 だけど、今回は眼球を傷つけた攻撃そのものに毒の効果がある。

 そのため、今まで以上に毒の浸食が深かったのだろう。


「あ、死んだっぽい」


 結局、そのサイクロプスは起き上がることなく消滅した。

 そして一気にレベルが上がっていく感覚がする。

 まるでプレートワームを倒したときや、特殊個体のゴーレムを一度に倒したときのようだ。


「おお、50まで上がった」


「おめでとうと言うべきか、そのユニークスキルのすごさに驚くべきか、わからなくなりそうね」


 たしかに、一匹倒しただけでもう50だもんな。

 改めて、他の人よりもレベルは上がりやすいということが実感できる。

 だけど、日ごとにリセットするつもりだから、あまり過信もできない。


「とりあえず、夢子のときみたいに何匹か倒してみるか。それでどこまで上がるかだな」


 数匹倒して足手まといにならないレベルまで上げられるのなら、俺もなんとか【上級】でやっていけるかもしれない。

 そしてこの戦法が、明日からの初期化された状態でのレベル上げに、非常に有効なのではと薄々感じている。

 レベルが足りなくて斬撃の威力では魔獣を倒せなくても、大地の毒魔法も合わさっていれば話は別だ。


 なんならレベルが1の状態で、ここに挑むなんてこともできるかもしれない。

 俺のレベルを上げるために、【中級】の適当なダンジョンに寄らずにすむのはありがたい。


 そんなことを考えながら、大地と二人で淡々とサイクロプスを倒していく。

 ああ、やっぱりこうやって決められた手段どおりに、次々に経験値を稼ぐのはいいものだな。


「友情ぱわー」


「恥ずかしいからやめてくれない?」


 茶々を入れるような紫杏の言葉に、大地は手を離して抗議する。

 おい待て、構築前に手を離したから魔法が中断されたじゃないか。


「なんで、私のときは平然としていたのに、善のときは恥ずかしがるの!?」


「いや、それはちょっと事情が違うでしょ。落ち着いて夢子」


「紫杏、あんたの彼氏と私の彼氏が浮気してるわよ」


「ええ!? 困る!」


 おい、なんでそんな話になる。

 サイクロプス早くこっちにこい。さすがにお前がきたらみんな真面目にやるはずだ。

 おい、なんで止まってんだ。お前本当は知性あるんじゃないのか。


「おまんじゅうおいしいです」


 珍しく他の四人で大騒ぎしているため、一人残されたシェリルは携帯食かおやつかわからないが、持参したまんじゅうを食べながら遠い目をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る