第97話 答え:1+1

「倒せなくはないけど、大量に狩るにはきついかもな」


「複数を相手取ると、下手したら帰還することになりそうだからね」


 一応サイクロプスは倒せた。だけど、さすがは【上級】と言うべきか、各自で目についた相手を片っ端から狩るような真似は難しそうだ。

 そうなると、経験値効率を考えるにサイクロプスよりも、ゴーレム乱獲のほうがいいのかなあ……。

 だけど、それは頭打ちだからこそ【上級】にきたわけで、もっといい方法がないかと考えてしまう。


「レベルが上がったみたいだ」


 思考に没頭する前に、大地からそんな報告をされた。

 レベルが上がった? たしかに、毒により削ったので大地に経験値が入ったのはわかるけど、たった一匹倒しただけでか?


「ゴーレムのときは、なんというかあれ以上レベルを上げられないように、一気に経験値の効率が下がった気がするけど、サイクロプスにはそういうのはなかった気がするよ」


 ということは、一定以上までレベルを上げた場合は、格下相手との戦いでレベルを上げるのは困難ということだな。

 きっとこのあたりも、探索者が上を諦めてしまう理由の一つなのかもしれない。

 上に行くためには、都度格上を倒してある種の壁を突破しなければならない。

 慣れた相手だけと戦うと、いつしかそこで成長が止まってしまうわけだ。


 それでも、金銭を稼ぐという意味でなら、そのまま同じ相手と戦い続けても問題ない。

 そりゃ、慣れない格上なんて危険な相手と戦うよりも、比較的安全な魔獣とだけ戦いたいという人も多いだろう。


 でも、異世界を目指すならそうはいかないんだよなあ……。


「とりあえず、大地にこのままレベルを上げ続けてもらって、毒の効果や制御を向上してもらうのがいいかもな」


「そうだね。いつかの善とは逆に、僕が弱らせて善や他のみんなにとどめを刺してもらうこともできるかもしれない」


 大地の負担が大きくて悪いが、その方針で探索を続けることにするか。


    ◇


「今日はこんなところか」


 やはりゴーレムとは違う。

 結局その日はたったの五匹しかサイクロプスは倒せなかった。

 しかし、一匹倒すごとに大地のレベルは上昇し、すでにレベルは46まで上がっていた。

 ゴーレムを相手にしていたら、いったい何日かかっていたかわからないので、効率は段違いだ。


「僕たちのレベルはまだ50未満だから、もしかしたら50までは簡単に上がるのかもしれないね」


「なるほど、【中級】相当の実力で格上に挑んでる間は、逆にレベルが簡単に上がるのか」


 ゴーレムたちのときは、【中級】とはいえすでに俺たちは上位のレベルだったということだろう。

 そのため、これ以上は【上級】で戦えというわけだ。


 たしかに、若干身に覚えがある。

 みんなの協力もあって、レベル1の状態でゴーレムを倒すこともできるようになっていたが、その状態では一気にレベルは30以上も上がっていた。

 格下である俺が、【中級】の魔獣を倒したことによるボーナスみたいなものだろう。

 なら、レベル1のままサイクロプスを倒せたら、きっと【上級】の一歩手前くらいまでレベルは上がるかもしれない。

 やはり、最初こそきついけど、そこさえ乗り切ればなんとかなりそうだな。


「それにしても、耐久力の高さにくわえて徐々に再生するなんて、本当に面倒な相手ね」


「まあ、一応僕と夢子も徐々に回復できるスキルはあるけどね」


「助けにはなってるけど、さすがに戦闘中に致命傷が治るほどではないわよ。それくらいの回復力なら、もっと無茶な戦いもできるのに惜しいわ」


「……」


 そうは言うが、痛みはあるだろうから無謀な戦いは難しいと思うぞ。

 現にあのサイクロプスに嫌がらせで目つぶしばかりしていたけど、そのたびに目を抑えて暴れていたからな。

 そもそも吸血鬼って、不死はさすがに昔の物語の中だけの話だろうけど、少なくとも人間より耐久力高そうだよな。


「夢子って、吸血鬼だから耐久力高かったりしないのか?」


「う~ん。一応下半身とかぐちゃってなっても平気よ。ただ、血を飲まないと回復は難しいわね」


「それで、その量の血を提供したら僕は貧血どころじゃなくなるね」


 なるほど。なにをするにも血が一番の力になるって感じか。

 俺と紫杏の関係と同じなら、その血を提供できるのは大地だけだし、あまり無茶な戦いはできないことになるな。


    ◇


 翌日になり、相変わらずサイクロプスを倒していく。

 倒しにくいのはたしかだが、向こうの攻撃には慣れたおかげで安全には戦えている。

 シェリルは言葉が通じているかわからないというのに、ものすごい煽り散らかして囮役を務めてくれていて、たまにかすった攻撃も紫杏が治療している。

 ただ、回避はさらにうまくなっているし、要所要所での【板金鎧】も上手に使いこなせるようになってきているので、紫杏に頼らずにすむ日もそう遠くはないだろう。


「う~ん……50をすぎたらさすがに効率はがくっと落ちるね」


 まあ、そんなうまいことはいかないか。

 大地のレベルは51になった。つまり【中級】なら、どこでも比較的安全に探索できるレベルであり、【上級】の領域に足を踏み入れたレベルでもある。

 ここからは、大地でもそう簡単にレベルを上げることはできない。

 となると、当初予定していた大地強化作戦は難しいか?


「それで、一つ提案というか試してみたいことがあるんだけど」


「ん? よくわからないけど、いいぞ」


「せめて、内容を確認してから許可したほうがいいんじゃないかな……」


「まあ、大地の言うことだし」


 少なくとも、俺たちに不利益のあることではないだろう。

 こっちも良い案はないので、どんどん試してもらいたい。


「じゃあ、ちょっと夢子にも協力してもらうよ。ちょうど敵が近づいてるみたいだから、魔力を練っておいて」


「わかったわ。こんな感じかしら」


「うん。それにこうやって……」


 夢子の赤い魔力に大地の暗い紫の魔力が接触する。

 すると、赤と紫が混ざり合うような、なんとも見事な色になっていく。

 これは……二人の魔力を混ぜた魔法か?


「ヒントはあの聖女だね。善の魔法剣に自分の魔力を重ねて、魔法剣に結界の中和の効果を与えていた」


「ああ、あれってそういう理屈なんだ。結界同士ぶつかって割れたのかと思っていた」


「けっこう難しいけど、レベルが50をこえた今ならなんとかなりそうだ。これも、【上級】の領域に至ったってことなのかもね」


 そう言いながら、大地は魔法の準備が完了したらしい。

 不運なことに、そんな状況でサイクロプスは俺たちの目の前に現れた。


「じゃあ、まずは目をつぶしてっと」


 斬撃はやはりあっさりと目玉に命中し、サイクロプスは苦痛にもだえる。

 当然だけど、こいつらは仲間に情報を共有なんかしないからな。いつまでも同じ戦い方が通用するのでありがたい。


「それじゃあ、行くよ」


「愛の共同作業だね!」


「恥ずかしいこと言うんじゃないわよ、紫杏!」


 恥ずかしいかな? 別にそんなことはないと思うんだが……。

 夢子は顔を赤らめて、大地とつないでいた手を離そうとするも、大地は魔法が失敗するからやめてとやんわりと注意していた。

 その魔法はサイクロプスの目玉に吸い込まれていき、目玉が燃えながら腐っていく。

 えぐい……。そういや、この二人の戦い方を最初に見た時にそう感じたっけ。

 その二人の合わせ技とか、そりゃあえげつない技になるよな……。


「うん、効いてるみたいだね」


「ええ、効いてるみたいね」


 あの一層苦しそうなサイクロプスを見た感想、それだけなのか……。

 サイクロプスに同情はしないけど、たまに仲間である二人が怖くなる。


「鬼です……」


 怯えるシェリルを紫杏と一緒にあやしていると、死因は毒か炎かわからないが、サイクロプスが苦痛のすえに死んだことだけは確認できた。

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