第78話 三番目の仲間との別れ
「今までのことを考えると、たぶんこれで打ち止めかな」
【太刀筋倍加Lv5】。一つの到達点といえるまでレベル上げができた。
試しに剣を振ると、ものすごい数の斬撃が発生する。
「あれ、十本より多い気がする」
きりがいいので十本かと思ったけど、見た感じではもう少し多かったか?
「十二本ね」
遠くから見ていたからか、夢子には数えきることができたらしい。
そうか十二か。これ振ってるだけでも、そのへんの魔獣なら倒せそうだな。
「どうする? 今日はこのへんで終わりにしておくか?」
紫杏を除いた三人に聞いてみると、三人ともまだレベル上げは続けるようなので、俺は適当に斬撃でサポートに徹することにした。
もうちょっとスローペースでのレベル上げになるかと思ってたけど、昨日の一条さんの言葉に思うところがあったのかもしれない。
「なあ、俺のせいで無理させてないか?」
ちょっと不安になって嫌なことを思い出しそうになり、つい聞いてしまう。
「いや、事情が変わったからね。のんびりと進むよりもちょっと気合い入れて強くなりたいんだ」
「面倒ごとに巻き込まれるにしても、戦えるほうが選択肢は多いからね」
「最強になる覚悟はできたので、今までの分もがんばります!」
なんだかみんな気合十分だが、気合十分すぎてちょっと怖い。
「そうか、俺あんな感じなんだな」
根を詰めすぎないようになと言いたかったが、俺には言われたくないだろうとぐっと言葉を飲み込んだ。
まあ、シェリルはともかく大地と夢子が塩梅を間違えることはないだろうし、このままゴーレムを狩り続けるとしよう。
……ゴーレムか。そろそろ、次のステップに進みたいところだな。
なにか手頃な魔獣はいないものか……。
そう考えながらも三人のサポートとして剣を振るう。
すごい量の斬撃が飛んでいくため、数を調整しないと下手したら俺がそのまま倒してしまいかねないな。
いっそ紫杏にレベルを吸ってもらうか? さすがに、低レベルなら倒しきれないだろうし。
「……なんですか?」
「呼ばれた気がしたので」
音もなく忍び寄る紫杏に尋ねると、なんか俺の考えを察してきたようだ。
普段ならわりと嬉しいけど、ことここに至ってはあまり嬉しくない以心伝心だな。
「やめとくよ。レベル下げてダメージ与えられなくなったら意味ないし」
「我慢しちゃって~、気が変わったらいつでも吸ってあげるからね?」
お前が思ってる方の吸い方を頼む気はないからな。
いや、これを言うと紫杏が思ってる方ってなにと聞かれる。
逆セクハラの挙げ句に俺が悪いことになると知っているから、何も言わないけどな。
ちょっと気が抜けて駄弁りながら斬撃を飛ばす。
だから罰が当たったんだろう。振り下ろした剣から、ビキッと嫌な音が聞こえた。
「……なんだ、今の音」
なんだと言いつつも、俺はその音から嫌な予感がしていた。
恐る恐る剣を見る。そして、それを見つけてしまう。
「お、俺の剣が……!」
その声がよほど情けなく響いたのか、ゴーレムたちの相手をしていた三人が何事かと振り返る。
ああ悪い。邪魔をしてしまった。気にせずにゴーレムたちを……ちょうど、倒し終わったみたいだな。
さすがに戦闘中によそ見はしないみたいで何よりだ。
「ど、どうしましたか、先生!」
「剣、壊れちゃったの?」
「ずいぶん使ってたからねえ」
俺のもとに集まった仲間たちに剣を見せる。
その根本には、無惨にも大きなヒビが入っていた。
まだ形は保っているが、この状態だとあと何度か振っただけで根本から折れることは明らかだ。
「直るかなあ……アキサメとかドワーフなら、なんとかならないかなあ……」
「寿命じゃない? 新しいの買ったほうがいいかもね」
やっぱりそうか……ありがとうボススケルトンの宝剣。
思えばお前にはずいぶんと世話になった。
「とりあえず、今日は終わりにしようか。善の武器は明日、アキサメあたりで見てみようよ」
「そうだな。悪い、せっかくのレベル上げなのに、俺が足を引っ張ることになって」
よほど落ち込んでいたのか、なんだかみんなに気を遣われるようにしてその日は帰還することになった。
紫杏ですら、夜の精気吸収を優しくしてくれたが、それはそれでなんか変なことに目覚めそうだし、いつもどおりやってくれ……。
結局、レベル1になるまで吸うんだろうしな。
◇
「たしかに40越えてから、目に見えてレベルが上がらなくなってるからね」
「やっぱりそうだよな。ゴーレム相手なら安全だけど、できればもう少し経験値をくれる魔獣を狙いたいところだな」
武器の新調にレベル上げの効率。これらの問題をどうしたものかと考えこみながらシェリルを待つ。
するとシェリルが唸り声をあげながら、こちらへと歩いてきた。
「もう子供じゃないんですよ私は!」
「ついでだから一緒に行くだけでしょう。まったく、誰彼かまわず威嚇するもんじゃありませんよ」
「こうしていると全然変わってないな。やはりニトテキアの二人が別なのか」
「あれ、一条さんにデュトワさんまで」
なぜか一緒にいる一条さんとデュトワさんに対しての威嚇だったようだ。
こちらにも聞こえてきた内容から察するに、たまたま同じ方向だったから一緒に歩いていたけど、シェリルが恥ずかしがってるみたいだ。
「先生! お姉様!」
ふとこちらを見て俺たちを発見したのか、尻尾を振って俺と紫杏の元に駆け寄ってきた。
なんかますます犬っぽくなってる。狼も同じようなものなのか?
「一条さんとデュトワさんもこんにちは。お二人はまた調査ですか?」
二人だけで行動しているってことは、昨日話していたおかしな魔獣の調査なんだろう。
どうやら当たっていたらしく、デュトワさんは少しうんざりしたような様子で答えた。
「どうにも手ごたえがない。ニトテキアが遭遇したような狼やゴーストやゴーレムと違って、弱い魔獣とばかり遭遇する」
それ、単純にこの二人が強すぎて、そう思えるだけなんじゃないだろうか。
でも、さすがに調査ということは、しっかりと魔獣の強さも調べての判断ではあるか。
ということは、本当に俺たちが遭遇したような、一芸ある普通より強い魔獣とは出会えていないってことになる。
「もういっそ、ニトテキアについていけば、面白い魔獣を発見できるんじゃないか?」
うちをレア物ハンターみたいな扱いにしないでほしい。
デュトワさんは冗談だと笑っているが、表情の変化が乏しいので、どこまで本音かわからないんだよなあ。
「弱いっていうと、例の体の一部が損傷していたり、自滅するような魔獣には遭遇したってことですか?」
「ああ、それなら何度か証言どおりのやつを発見している。なんというか、あれはあれで不気味だぞ。まるで魔獣のまがい物のようだ」
……あれ、なんか忘れているような。
今のデュトワさんの言葉がどうにも引っかかる。
「む? 俺、変なこと言ったか?」
「ああ、気にしないでください。善の癖なので」
「紫杏、今は人前だから変なことしちゃだめよ」
「今は何もしないよ。だって、せっかく善がなにか思いつこうとしてるからね。できる彼女の紫杏ちゃんは、邪魔になることはしないのさ!」
あの人も、まがい物って言ってなかったか?
『あのまがい物を倒していただけるなんて――』
たしかに、そう言った。
「なにかわかった?」
顔を上げると目の前に紫杏がいた。
よし、今日もかわいい。そしてその顔を見ることで落ちついた。
「デュトワさん、一条さん」
「なんだ?」
「もしかして、魔獣たちの件に心当たりが?」
「現聖教会が、なにか知っているかもしれません」
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