第77話 中級を越えろ新人たち
「さて、お待たせしました……」
なんだか疲れた様子の一条さんだが、聖女との会話のせいだろうか。
気がつくと、一条さんと話していたはずの聖女も現聖教会の人たちも、皆いなくなっていた。
「いや、なかなか面白いものが見れたぞ?」
「そう……なんですか? それはともかく、ニトテキアの皆さん。改めて、少々お話をお聞かせ願いますでしょうか?」
「ええ、俺たちは構いませんが」
勝手に俺たちと言ってしまったが、シェリル以外は特に異論はないらしい。
シェリルも異論はあるが、俺の言葉ということもあってか、葛藤しつつもうなずいてくれた。
「ほらな。面白い」
マイペースなデュトワさんの言葉に、シェリルが威嚇するので紫杏が手をつないで落ち着かせていた。
「部屋はすでに使用許可をもらっていますので、奥で話しましょうか」
「はい。伺っていますので、ご案内しますね」
すでにこのダンジョンの管理人にも話を通していたらしく、受付さんが俺たちを応接室に案内してくれた。
ここまで手回しされているとなると、思っていた以上に重大な話っぽいな。
少なくとも、シェリルの素行とかそんな話ではないと思う。
今さらながら、一体なんの話かと身構えつつも、俺たちは席へとついた。
「現聖教会が、魔力奪取に関する事件の調査内容を報告しました」
「犯人が見つかったんですか!?」
今の今までなんの情報もなかったというのに、本格的に調査したらこうもあっさり解決するものなのかと驚いた。
それと同時に、俺たちに話があると言われて呼び出されたこの状況に緊張してしまう。
……まさか、紫杏と話したかったということか?
「残念ながら、犯人はまだ特定できていないそうですね。しかし、現場の痕跡から魔族の仕業で間違いないとのことです……」
重々しい雰囲気に思わず唾を呑む。
あのシェリルですら、黙って真剣に話を聞いているほどだ。
「現聖教会はあの事件を、吸血鬼の犯行として調査を続けるそうです」
ん? 吸血鬼……なのか?
サキュバスではなく、吸血鬼の仕業だと?
「あの……吸血鬼ですか? 他の種族ではなく、吸血鬼に絞った理由ってなにかあるんですか?」
「どうやら、被害者の一部には目立たない外傷がありました。本人たちも気づいていなかったようですが、小さな穴のような傷が」
たしかに、そんなものが発見されたのなら吸血鬼のしわざと思ってもおかしくないが……。
けっこうな数の被害者がいるんだろ? 今まで誰もそんなことにも気づかなかったのか?
それに、吸血鬼が吸うものって生命力なんかよりも……。
「今までの被害者から、血が抜き取られていたことってありましたっけ?」
「いいえ、そのような報告はありませんね」
「だったら――」
「しかし、吸血鬼の中には極稀に血よりも生命力を吸うことに特化した者もいるようです。ほとんどは血と生命力を同時に奪うようですけどね」
偏食気味の吸血鬼ってことか? あるいは突然変異。
なんにせよ、紫杏が犯人である可能性がぐっと下がったということだ。
安心すると同時になんだか腑に落ちない感じがあるのも事実。
そもそも、その話なら俺たちだけに話す必要なんてあるんだろうか?
「そして、ここからがニトテキアへの話となります」
さて、一体何を言われてしまうんだ。
思わず身構えるように、身体に力が入ってしまう。
「近いうちに、現聖教会はこの事件を魔族のしわざによるものと公表するはずです」
しそうだな……。注意喚起だけではなく、いかに異種族が危険か説いてきそうだ。
「そうなると、この事件の主犯だけでなく、魔族そのものへの風当たりが強くなることも考えられます」
扇動しそうだなあ……。
そうなると、異種族と人間との間に確執が生じるかもしれない。
そんなことしたら、人間にも被害がありそうなもんだが、自分たちならすべての人間を守れるという自信の現れなんだろうか。
「ですから、この事件に無関係だとしても、あなた方も十分気をつけてください」
「気をつけると言っても……どうやって?」
「別に特別な行動は必要ないんです。ただ、その……その子は喧嘩っ早いので、余計な騒動を起こしそうなので……」
なるほど……やっぱりシェリルじゃないか。
ジト目でシェリルを見る一条さんに、彼もまたこの子の保護者として苦労しているんだろうなと思った。
「いいですね? 本当に頼みますよ。大地も夢子ちゃんも……」
「うん、そういうことならわかったよ」
「……わざわざありがとうございます」
ついには、うちのパーティの保護者にまでお願いする始末だ。
さすがに、シェリルだってそこまで考えなしに行動しない……しそうだな。
どうしよう。かわいそうだけど、紫杏と一緒に強めに注意しておいたほうがいいのか?
「そういうわけで、悪いがお前たちへの【上級】昇格の話は保留だ」
今まで一条さんに説明を任せて黙っていたデュトワさんから、急にとんでもない発言が飛び出した。
「えっ!? 【上級】ですか?」
俺たちが昇格? そんな話初めて聞いたぞ。
「デュトワ……」
「ん? 別に知らせることは禁止されてないだろ」
「ですが、せめてもう少し話が確実になってからでないと、ぬかよろこびさせることにもなるでしょう」
「……なるほど、すまん。忘れてくれ」
「たぶん、無理です……」
そうか、いくつか【中級】ダンジョンも攻略してきたが、評価してもらえているみたいだ。
この調子で色々なダンジョンを攻略しないと、そのためにはレベル上げが必要だな。
よし、明日からも思う存分レベルを上げよう。
「……なんか、変なこと考えてない?」
「いや、今後のことを考えていたんだ」
不安そうな大地の言葉を否定する。
そうか、やっぱり大地でも【上級】に太刀打ちできるか不安なんだな。
それなら、なおさらみんなのレベルをもっともっと上げないと。
「……ちょっと、本格的にレベル上げしないといけないかもね」
「……そう、ねえ。もうちょっとゆっくりと進むつもりだったけど、もっと早く、パーティを組んだ時点で覚悟すべきだったのかもしれないわ」
大地と夢子もこれまでハイペースのレベル上げは望んでいなかったが、【上級】目前となるとそうも言ってられないようだ。
そうだよな……あのプレートワーム級の敵が出てくるダンジョンだろ?
レベル上げはしておいたほうが安心できる。
「……30と50と100」
一条さんが突然数字を羅列する。
不思議に思い顔を向けると、一条さんは話を続けた。
「各難度の最上位で推奨されるレベルの目安です」
「ということは、レベルが30あれば【初級】ダンジョンはどこでも攻略できるってことですか?」
「あくまで目安ですけどね。【中級】は50もあれば、どのダンジョンでも通用すると言われています」
まあ、例外は除いてってことだろう。
運が悪ければプレートワームとか出るからな。
「あの~、それよりもその次の100って」
紫杏の言葉に、一条さんは頷く。
「ええ、【上級】は、これまで以上にピンからキリまでのダンジョンです。100あればどこも踏破の可能性はありますが、それだって決して油断していいわけではない」
100か……。今の倍以上。それほどの魔獣たちの巣窟に、俺たちはいずれ挑むことになる。
「大地、夢子、シェリル。明日からもみんなでがんばろう」
三人とも頷いてくれる。
一人名前を呼ばれなかったことが嫌だったのか、紫杏が背にのしかかってきたけど、別に仲間はずれにしたとかそういうんじゃないから。
「あなた方がすでに推奨レベルを満たしているのなら、出過ぎた真似を言ったと謝罪します。ですが、この短期間で駆け上がってきたのならば、まだレベルは50にすら至ってないと思い、不躾ながら忠告させていただきます」
そのとおりだ。
なんせ、40をすぎて上げにくいからと困っていたところなのだから。
紫杏以外は……。
「大地、夢子ちゃん、シェリル。手段はともかく、あなたたちのリーダーの考えは正しいですよ。しっかりとレベルを上げておいてください」
「はい」
一条さんからのお墨付きまで出てしまった。
やっぱり今後もレベル上げは怠らないようにしないとな。
あれ、手段はともかくって言われた気がする。一条さんにとっても、今のレベル上げっておかしいんだろうか……。
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