第73話 強い剣士は一撃で複数回攻撃するものらしい
近づくゴーレムから順に適当に四肢を斬っておく。
それを大地やシェリルが倒してくれるし、何匹かは自分で倒す。
夢子に近づくゴーレムも身動きができないようにしたので、夢子の前にも岩の塊が大量に転がっている。
しばらくすると、その岩は魔法ですべて焼き尽くされる。
「これで40っと」
そうして順調にレベル上げを続けて、俺のレベルはプレートワームを倒して以来の40代へと至った。
いいなこの場所。見慣れたゴーレムが大量に出現するってだけでもいい稼ぎになる。
それだけではなく、たまに出てくる赤い体のゴーレムは、少しだけ硬いけどやはり近寄る前に倒すことができ、しかも経験値も多い。
理想の稼ぎ場所じゃないか。
「やっぱり、僕たちよりもかなりレベルが上がるのが早いね。こうしてレベル上げをしてると、目に見えて違う」
「一匹倒すたびにレベルが上がってない?」
たしかに、一緒に作業してると顕著だな。
いつのまにか、シェリルのレベルさえ追いこしてしまった。
俺のユニークスキルも、ちゃんと役立ってくれてるようでなによりだ。
「それで、やっぱりレベル40が条件みたいだな」
最近停滞しがちだったスキルレベル上げだが、このたびついに新たなステージへ上がることができた。
「【太刀筋倍加Lv2】……。これだけで、効率が倍加するんじゃない?」
剣術や斬撃もレベルによる恩恵は実はかなりのものだったが、太刀筋倍加だけは話が変わってくる。
なんたって手数が増加するのだから、単純に考えて俺の剣撃は今後これまでの倍は強化されるってわけだ。
「とりあえず斬撃」
ちょうど俺たちに近寄るゴーレムがいたので、斬撃を飛ばしてみる。
すると、これまではバラけるように斬撃を飛ばすと、一度に三本の攻撃となっていたが、今回は五本だった。
「五か。レベル1で三倍だったから、レベル2だと六倍かと思ったけど、予想が外れたな」
まあそれでもこれまでの倍近い手数になったといえるだろう。
でも手足を斬るのに五本はいらないかな。二本と三本に分けられないかな。
「やってみるか」
片足を失ったゴーレムに改めて斬撃を飛ばす。
ああ、だめだ。二つの塊にはなったけど、それぞれ重なって強化された斬撃になってしまった。
ゴーレムの両腕が斬れるが、どちらも一度しか攻撃を受けていなかった。
「もっとこうやって、散らす感じか?」
あ、これっぽい。
今までで気にしてなかったけど、斬撃も自身の魔力が影響しているな。
魔法剣を使うようになって、自分の魔力の細かい操作を意識するようになったからわかる。
斬撃を飛ばす前に、ある程度魔力に指向性を持たせて纏うことで斬撃の種類は変えられるようだ。
「次は……」
「先生! 先生! もう死んでます!」
本当だ。でもまっさらの的が欲しかったし、ちょうどいいかもしれない。
次のゴーレムに視線を向けると、顔もないはずなのになぜかうろたえたように感じた。
「まあ、気のせいか」
今度は斬撃を五本バラバラに飛ばす。
両手足と胴体。すべて思った場所に命中した。
「さすがに胴体は真っ二つにできないか」
でも両手足が斬れたなら十分だろう。
攻撃したゴーレムは、手足を失い胴体にも浅くはない傷を負っている。
これで剣を一振りするごとに、ゴーレムを無力化できるってことだ。
「ああでも、太刀筋倍加のレベルも上げたいな」
「吸おうか?」
それもいいんだけど、レベル40を1にするとなると時間がかかりそうだな。
いつもの方法ですらそれなりにかかったから、【精気集束】だとなおさらのはずだ。
「う~ん……このくらいのレベルになると、ダンジョンの中で1にしてもらうのは現実的じゃないな」
そう結論を出すと、みんなは目や耳を抑えていた。
「私は見てないから、好きにしていいわよ」
両手で目をふさいだ夢子が言う。
「僕は聞いてないから、レベルを吸うならどうぞ」
両耳を指でふさいだ大地が言う。
「わ、私は嗅がないように気をつけますから、どうぞ! 満足するまで、精気を吸収しちゃってください!」
鼻をしっかりと押さえてシェリルが言う。
「お前ら……」
まったく……こんなときばかり、息がぴったりあうじゃないか。とんだ三猿だ。
いくら効率よくレベル上げたいといっても、俺はこんなダンジョンの中で精気を吸ってもらう気はないぞ。
「よしっ! やろうか!」
相変わらず情緒もくそもない。それでも抗うのが難しいのだから度し難い。
しかたがないことだ。サキュバスの誘惑なんて、健全な男子学生には刺激が強すぎる。
むしろ夜以外は耐えている自分を褒めるべきだ。
「はあ……とりあえず、俺のレベル上げは今日はこのへんで終わりにしておく」
なんとか誘惑を振り切ることができたので、そう告げる。
みんなそれを聞いて帰還の準備をするが、ちょっと待ってほしい。
「いや、まだ帰らないぞ? 俺のレベル上げはもう終わりでいいけど、残りの時間で俺と紫杏以外のレベルを上げよう」
嫌そうな顔をされた。
だが、最強を自称するならもっと貪欲にレベルを上げるべきだぞ。シェリル。
「ということで、シェリルのレベルを重点的に上げるか」
「どういうことですか!?」
そろそろ、シェリルたちのレベルも40に上げたいな。
そうしたら、俺や紫杏みたいに新たな職業スキルを覚える気がする。
ひとまずはそれを【中級】での目標とするか。
さっそくレベル上げにとりかかると、シェリルもわかってくれたようで淡々とゴーレムを狩り続けてくれた。
◇
「もう食べられません……」
大地におぶられて、マンガでしか見ないような寝言を発するシェリル。
もう食べられないというのは、食事する夢を見ているのか、それともゴーレムのことなのか。
ともかく、シェリルのレベル上げは順調に終わった。
【戦闘狂】という、なんだか狂戦士らしい名前のスキルを習得したところで、シェリルは糸が切れた人形のようにぱったりと倒れた。
さすがに焦って駆け寄ったら、とてもいい顔で眠っており今に至る。
「明日は僕たちの番かなあ……」
「私も紫杏みたいに善の経験値吸おうかしら……」
疲れて眠るシェリルを運びながら、大地と夢子は自分たちも同じ目にあいたくないと黄昏る。
「善は私のだから!」
夢子の冗談にもしっかりと反応する紫杏だけが元気な様子だ。
やっぱり同じ魔獣を狩り続けるのは疲れるのかなあ。
それでも、みんなで強くなっていきたいし、悪いがレベル上げの作業にもなれてもらおう。
「紫杏にレベル1にしてもらって、太刀筋倍加のレベルを上げて、大地たちのレベルも40にする……楽しくなってきたな」
明日の予定に思いをはせていると、知っている顔を見かけた。
「あれ、一条さん。こんばんは」
「おや、ニトテキアの皆さんですか。こんばんは。もう夜ですから、あまりこんをつめてはいけませんよ?」
ゴーレムダンジョンも一条さんの管轄なんだろうか?
いや、見た感じだと探索のための装備を身につけているし、何よりもパーティメンバーらしき人も一緒だ。
ということは、管理人としてではなく探索者として、このダンジョンを訪れたのだろう。
「ほう、お前たちがニトテキアか」
一際目立つ、二足歩行の大柄な蜥蜴のような人が俺たちを観察するように見てきた。
異世界では蜥蜴獣人と呼ばれているが、現世界ではリザードマンという名前のほうが有名な種族だ。
一応魔族じゃなくて獣人らしいが、その違いは正直よくわからない。
「初めまして、ニトテキアの烏丸善です」
「ああ、氷鰐探索隊のデュトワだ」
見た目は随分といかつい人だが、なんだか礼儀正しそうな人のようだ。
ウルフダンジョンやここの先輩探索者たちはわりと荒っぽい人が多いので、この人もそのたぐいかと思ったが違うらしい。
「今日は管理人の仕事じゃなくて探索ですか?」
「そうですね。特にニトテキアの皆さんには関係していることですが、ちょっと気になることがありましてね」
「気になること?」
この人が気にするほどのことで、俺たちに関係しているとなるとワームダンジョンのことだろうか?
なんだか話を聞いておいた方がいいような気がして、俺は一条さんたちに続きを聞くことにした。
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