第74話 申しわけございません。異常種は売り切れました。

「あなたたちは、これまで異常な魔獣に三度も遭遇していますね?」


 一条さんが改めて確認するように聞いてくる。

 たしかに、その内容に間違いはないので俺は頷き答えた。


「はい。プレートワームと、プレッシャーだけすごい狼と、知能があるうえダンジョンの外で活動するゴーストですね」


「上位のダンジョンで発見されている個体なので、プレートワームはまだいいのですが、他の魔獣についてはこれまで発見されたことのない魔獣です」


 まあそうだろうな。特にゴーストのほうなんて、似たような魔獣が増えたら悠長にダンジョンの周囲で生活なんてできない。

 俺の考えは、一条さんにとっても同じものだったらしい。


「特にダンジョン外で活動できるゴーストは大問題です」


 しかし、そのいずれもすでに解決済みではあったはずだ。

 ゴーストの件は最後までかかわってないのでわからないが、現聖教会が解決し管理局がそれを確認したはず。

 ならば、今さらそれについての調査ってこともないと思うのだが。


「そして、ニトテキアだけでなく、様々な探索者からここ最近異常な魔獣と遭遇したという報告があがっています」


「俺たち以外もですか?」


「ええ、一つ目のトカゲや、四肢がないマンイーター、勝手に体が溶けて死亡するグリフォン、ゴブリンやコボルトが混ざったようなローパーを見たという探索者たちがいるようです」


 単眼っぽいのや、キメラっぽいのは、まだそういう新種かなと思わなくはない。

 だけど、四肢がなかったり、ましてや勝手に溶けて死ぬ魔獣となると、明らかにおかしいな。それで調査というわけか。

 そう考えて一条さんとデュトワさんを見ると、デュトワさんは困ったような顔をした。


「……俺の目は二つある」


 どういうことだ?

 ……ああ、なるほど。一つ目のトカゲの話題の直後に見たから、蜥蜴獣人であるデュトワさんを心配したと思われたのか。


「いえ、すみません。別にそういう理由で見たわけでは」


「そうか」


 変な間があいてしまってどうしようと思っていたら、一条さんが軽い咳払いとともに会話を戻してくれる。


「ともかく、このダンジョンでもおかしなゴーレムの出現が報告されています。私とリーダーはその調査に来たのです」


「えっ、俺たちさっきまで潜ってましたけど、変なゴーレムには会いませんでしたよ?」


 あの狼のような強敵も、あのゴーストのような危険な存在も、話に出た欠陥のある魔獣も見ていない。

 ボス部屋と岩切場までしか行ってないので、別の場所を根城にしているんだろうか。


「そうですか。よかったら、ダンジョン内のどこを探索したか教えていただけますか?」


 たしかに、無駄な調査をしないためにも、俺たちが今日行った場所は後回しにしたほうがいいだろう。

 俺は一条さんが端末に映した地図を見て、それぞれの場所を説明した。


「……おかしいですね。その目撃者の発言では、この岩切場と呼ばれた場所で見たとのことですが」


「えっ!?」


 その発言に反応したのは、俺たちに岩切場を教えてくれた先輩探索者たちだ。

 この様子だとこの人たちは、異常な魔獣のことを知らずに俺たちに岩切場を教えたってことだろう。


「ご、ごめん! 私たちそんな魔獣がいるなんて知らなくて……」


「いえ、良い稼ぎ場所でしたし、俺たちもそんな魔獣とは出会わなかったですよ?」


「となると、様々な場所を移動しているのかもしれませんね」


 運よく出会わずにすんだってわけか。

 まあ、そう毎回毎回異常な魔獣ばかりに遭遇されても困るしな。


「でも、すごいわね。岩切場ってすごい数のゴーレムがいたでしょ? そこを良い稼ぎ場所と言えるなんて」


「近づく前に対処できたから、かなり効率よかったですよ。特にあの赤いゴーレムは経験値も多かったので」


「赤いゴーレム……? なにそれ」


 おや、先輩たちも知らない個体だったのか。もしかして上位個体には会わずにボスを倒したのか?

 ……あれ、そういえばここの上位個体って、通常より大きなゴーレムだったよな。

 あの赤いゴーレムは、もう一種類の上位個体ってことか?


「……あの、烏丸さん。その話もう少し詳しく聞かせていただけますか?」


「詳しくと言われても……岩切場に、なんか赤いゴーレムが少し混ざってたので倒したんです。あ、普通のゴーレムよりちょっと耐久力高かったので、上位個体かもしれませんね」


 とはいっても、ちょっとだけ硬い以外のこと知らないんだよなあ。

 あれじゃないか。経験値が多めにもらえるボーナスキャラみたいな魔獣なんじゃないか?


「……ええっと、烏丸さんは剣士としての接近戦が得意と伺っています」


「そうですね。最近は斬撃が使いやすいから、遠くから削ることのほうが多いですけど」


「ざ、斬撃で削る? ごほんっ、物理攻撃が主体なんですよね?」


 斬撃の話で少しうろたえていたようだが、続けて質問をされる。

 別に知られて困ることではないし正直に答えるが、なんか俺が疑われている?


「ええと……魔法剣が使えるようになったので、それと斬撃を撃ってたら倒せました」


「魔法剣……それならたしかに? いや、斬撃で? あの……斬撃だけで倒したということでしょうか?」


「そうですね。手足が斬れたら動けなくなりますし、近づかれる前に全部」


「全部!? う、ううむ……どうやら私たちの調査は必要なくなったようですね」


 一条さんはしばらく眉間に指をあててなにやら考えていたが、そのように結論付けた。

 でもそれだと、俺が倒したあの赤いゴーレムが異常な魔獣だったってことになるのか?

 知らないうちに、また異常な魔獣に逢ってたのか俺は……。


「くくっ……面白いじゃないか、浩一。どうやら彼に感謝する必要がありそうだぞ」


「そうですね……烏丸さん。ご協力感謝します。恐らく異常個体はすでに烏丸さんが全滅させています」


 やっぱりか。ということは、今回の異常個体は経験値が他より多い魔獣だったってわけだ。

 そんな異常個体なら大歓迎だし、どんどん出てきてくれないかなあ……。


「いや、本当に大したもんだ。剣士には太刀打ちしようがない魔獣を労せずに全滅とはな。恐れ入った」


 剣士には太刀打ちできない?

 デュトワさんの不思議な発言に、首をかしげると一条さんが補足してくれる。


「私たちは、物理攻撃を完全に無効化するゴーレムと遭遇したと報告を受けて来たのです」


「これでもうちのパーティは魔法はそこそこ得意だからな。物理が無理なら魔法をということで、俺と浩一が調査にきたってわけだ」


 物理攻撃無効か。なるほど、たしかに面倒なゴーレムだな。

 幸いなことに精霊のおかげで魔法剣を使えたことで、俺にとっては相性がいい相手になっていたというわけか。

 そういえば、あのゴーレムはシェリルたちではなく俺が全部倒しちゃったからな。

 そんな特性にはまったく気づかなかった。


「依頼料は後日浩一がニトテキアに渡す。それに、管理局にはニトテキアの活躍を伝えさせてもらおう」


「ふふん、先生ですからね。なんならもう【上級】に昇格してもおかしくないんじゃないですか?」


 しまった。うちのわんこを見ておくのを忘れた。

 油断しているうちに、尻尾をふりながらデュトワさんに自慢げにシェリルが話す。


「そのようだな。おい、浩一。どうやら俺たちもうかうかしていられないようだぞ。【超級】として少しは仕事しないとな」


「わかってますよ。それはそうとシェリル。一応公の場なので、最低限の礼儀は払うように」


「うう……す、すみません」


 素直に謝るシェリルに、一条さんだけでなくデュトワさんまで目を丸くして驚く。


「犬の嬢ちゃんがこんなに素直に……」


「烏丸さん。北原さん。いつもこの子がお世話になっています。どうかこれからも見捨てずに仲良くしてあげてください」


 一条さんが俺の両手を握って真剣な顔でお願いしてきた。

 デュトワさんの様子からして、彼もまたシェリルの知り合いなのだろうとはなんとなくわかるが……。

 シェリルよ。お前、ただ謝っただけで驚かれるって、昔はどんな子だったんだよ。


 俺は周囲すべてにわんわんと吠えて威嚇するシェリルの姿を思い浮かべながら、一条さんの頼みを聞き入れるのだった。


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