第68話 目撃者のいないスピード解決

「ダンジョンの外でも活動できる魔獣!? たしかに、そう言ったのですか!?」


「はい。ゴーストダンジョンはそいつらで溢れています」


「情報提供感謝します。すぐに、このことは報告して対処しますので!」


 三人の体を解放してから、俺たちは急いで一条さんに事のあらましを説明した。

 さすがに、俺ですら危険な状況だと理解できているため、一条さんも大慌てで恐らく上の人たちに連絡をしている。


「……はい、そうです。一刻も早く……は? 現聖教会がすでに殲滅に? え、ええ、たしかに聖女であれば……」


 もしかして、現聖教会がすでに対処に動いていたのか?

 ならば、俺たちは運悪くその対応前にダンジョンの探索に行ってしまったのか。

 なんとも運が悪いことだと思っていると、一条さんは会話を終えてこちらに戻ってきた。


「すみません。すでに現聖教会が対処のために動いているそうです。連絡の行き違いで、ニトテキアの皆さんを危険な目にあわせてしまい申し訳ございません」


「い、いえ! 別に一条さんの管理しているダンジョンってわけでもないので」


 それでも一条さんは俺たちに深々と頭を下げ、あのシェリルでさえ居心地悪そうにしていた。


    ◇


「どうする? もう一度ゴーストダンジョン行ってみる?」


「いや、さすがにとり憑かれたんだから、もうちょっと躊躇しろよ……」


 大地は、さっきまでゴーストにとり憑かれていたことなんておかまいなしに提案してきた。

 夢子もすでに何事もなかったかのようにしている。なんとも切り替えの早い二人だ。


「わ、私はやめておこうかな~なんて思うのですが……」


 そうだな。シェリルの反応が普通だろう。

 もうすっかり怯えきってしまい、俺と紫杏の手を握り続けるシェリルを、責めることなどできないだろう。


「前回と違って、今回は変異種が危険視されて関係者以外は立入禁止されたらしいからな。協力依頼がされたわけでもないし、どっちにしろ俺たちはしばらく入れないだろう」


 俺の言葉に大地と夢子は不満そうに、シェリルは安心したように反応した。

 もしかして二人は、勝手にとり憑かれたため仕返しとして討伐したかったんだろうか?


「それじゃあ、どうするの?」


「近い。重い。柔らかい」


 俺を守るという名目ができたからか、紫杏が背に堂々と抱きついてきた。

 もうあのゴーストはいないのに、何から守っているんだこれは。


「女の子に重いなんて失礼な!」


「そんだけでかけりゃ重くもなるだろ」


「持ってみる?」


「……夜なら」


 いや、たまに頭に乗せられるから重みも知ってるんだけどな。

 紫杏へのセクハラも終えたところで、改めて次のダンジョンへと向かうことにする。


「ゴーレムのほうに行くか」


 元々ゴーストではなく、ゴーレムにしようと行っていたことだし、それがいいだろう。

 シェリルは再びゴーストダンジョンに行かずに済むからかホッとした様子だったが、大地と夢子は渋々承知していた。

 現聖教会が解決できなかったら、あのゴーストたちの討伐に志願しそうだな……。


    ◇


「ちっ……現聖教会が例のゴーストダンジョンの異変解決だってさ。余計なことを」


「ものすごい不満そうだな」


 翌日大地の端末に一条さんから連絡がきたらしく、わずか一日でゴーストダンジョンの変異種は討伐されたらしい。

 知能がある魔獣って、倒していいものなのかわからないし、俺だったら躊躇しそうだなとは思う。

 それでも、ダンジョンの外で行動できるうえに、大地や夢子みたいな実害が出ているのだから、討伐されるのもまたしかたないという思いはある。


 大地は自分の手で報復したかったのか、そんな現聖教会に不満そうだった。

 まあ、半分は冗談みたいなものかもしれないが……冗談だよな?


「結局、知能があったり外でも活動できた理由はわかったのか?」


「それが、現聖教会がダンジョンに入った途端に、全員に憑りつこうとしたらしくてね。捕獲や対話なんてする余裕もなく殲滅だとさ」


 こっちがダンジョンに入ったときは、紫杏の強さに怯えていたみたいだったけど、自分たちより弱い相手には容赦なく襲いかかるってことか。

 う~ん……知能もあり、外でも活動できて、攻撃的な魔獣とか、危険な要素しかないな。

 大地には悪いが、再びかかわることになる前に現聖教会が処理してくれて助かった。


「となると、もう一度ゴーストダンジョンの探索もできるってわけか」


「いや、念のために他にも危険なゴーストがいないか調査中だから、まだ封鎖されてるらしいよ」


 そうか。となると、今日の予定は一つしかないな。


「それじゃあ、ゴーレムダンジョンのほうに行ってみるか」


「そうね。シェリルもそのほうが喜びそうだし」


「そこでも変なことが起きないといいね」


 悪気なく言ったんだろうけど、紫杏の言葉に素直に頷けない俺がいた。

 なんだか、【中級】になってからというもの、まともなダンジョンにほとんど挑めてないな……。


    ◇


「そ、そうですか! いや~、残念ですね。お化けなんか怖くないんですけど、封鎖されてるならしょうがないですね!」


 怖いのか。まあ、もともと幽霊が苦手なうえ、昨日は憑りつかれたんだからしかたない。

 きっと、シェリルは昨日の一件で、余計にホラーなできごとが苦手になったんだろうなと同情してしまう。


「はっ……なにやら温かい目が……」


「気のせいだと思う。それじゃあ、ゴーレムダンジョンに挑むとするか」


 不思議そうに首をかしげるシェリルだったが、ダンジョンに到着したころには気にしていないようだった。

 相変わらず丁寧に対応してくれる受付さんに挨拶を済ませ、ダンジョンの中へと進んでいく。

 想像していたことではあるが、やっぱりここもこれまでと異なる内装が広がっていた。


「岩だらけだな。落石とかにも注意した方がいいか?」


 岩石が露出したままの高い壁は、まるで崖の底を進んでいるような気分になる。

 天井はあるけど、壁自体は天井まで伸びているってことでもないので、もしかしたら崖の上にも道があるかもしれない。

 まあ、当然ながらこんな場所なので、環境適応力は俺はもちろんのこと、大地と夢子のも発動してないだろうな。


「う~……せめて数種類だけなら、環境適応力習得しようと思ってたのに」


「よしよし」


 紫杏が頭をなでてくれたが、大地と夢子は少し呆れたように笑っていた。


「本当にこのスキル好きだね」


「【初級】で俺を助けてくれたことは忘れない」


 たしかに【中級】となり、レベルも上がりやすくなったし、スキルレベルが上がったことで戦闘はしやすくなった。

 だけど、あのステータスが雑に上がる強さは一度体験すると、なかなか忘れることは難しい。

 いっそのこと二人のように砂漠地帯用の適応力を習得し、俺は砂の民になるべきなのかもしれない。


「またくだらないこと考えてるでしょ? そんな暇があったらゴーレムに備えて魔法の準備したら?」


「はい……」


 そうだ。ゴーレムも物理攻撃が効きづらい魔獣。

 だから、俺は相変わらず魔法を鍛えるために、魔術師のまま職業は変更していない。

 昨日は夢子もどきの助言で、一度しか魔法を発動できなかったからな……。

 しかも、あれは今思うとわざと無意味な攻撃させて、こちらの魔力をすっからかんにする罠だった気がするし。

 今度こそはまともな魔術師としての戦闘経験を積まなくては。


「あっちからきてるみたいだね。ゴーレムだからかな? ボスくらい体は大きいみたいだけど、魔力はなんか低そうだよ」


「むぅっ……匂いじゃわかりません」


 うちの優秀な索敵役が、さっそく敵の接近を知らせてくれる。

 残念ながらシェリルの鼻は通用しないらしいが、それもしかたないかもな。

 なんせ、周りは岩だらけ、ゴーレムも岩の体らしいから、区別をつけるのは至難の業だろう。


「それじゃあ、さっそく魔法の準備を……」


 昨日と同じく水魔法を発動させ、俺は水の円錐を作って射出の準備をする。

 一応、この後の戦闘も考えて昨日よりは魔力の消費を抑えているが、威力は足りるだろうか?

 そうして、ゴーレムの接近を待っていると、俺の耳元に急に女性の声が聞こえた。


「コノ、ヘタッピ!!」


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