第35話 電車がまいります

「ところで……さっきから、なにしてんだあいつら……」


「な、なんでだよ! あんな子供でも勝てた相手だぞ!」


「ちょっと! ちゃんと守ってよ! あんたが前衛じゃない!」


 シェリルと違って、赤いスケルトン一体だけなのに随分と苦戦している。

 勇敢というか無謀に突っ込んで、盾で殴り飛ばされる前衛。

 スケルトンに追われて魔力を無駄に消費しながら、なんとか回復魔法を使おうとする回復術師。

 遠距離からの魔法攻撃はまるで見当違いの方へと飛んでいき、下手したら味方を巻き込みかねない魔法使い。


「スケルトン一体に大騒ぎだな」


「わ、私も無謀な戦い方をしているときは、あんな感じだったんでしょうか……」


「シェリルはもう少しだけマシだったよ? もう少し”だけ”、だけどね~」


 いじわるする紫杏を止めることはしない。

 シェリルには、ぜひあの集団を反面教師として、自分に合った戦い方に自信をもってもらいたい。


「あ~あ……魔法を変なところに飛ばすから、別のスケルトンがこっちにきてるぞ」


「な、なんだって!? くそっ、ここは退却だ!」


 決断だけは早いようで、一応リーダーだったらしい男の声に従って逃げ出そうとする。

 しかし、肝心の下の階への階段の前には、赤いスケルトンが陣取っていて、下の階には逃げられない。

 どうするのかと思っていたら、ダンジョンの奥へと逃げてしまった。


「おいおい、そんなことしたら他のスケルトンにも追われることに……」


「わかります。逃げた先にもインプがいて、無我夢中でその階層のインプを集めるように逃げ続ける……ああなると、もうどうしようもないんです」


 経験者が語る。

 まあ、冷静さを欠いてしまっているようだし、仕方がないのだろう。

 自分たちがピンチになったときは、帰還の結晶を即座に使えるように練習しておこうかな。

 でも、あれ高いんだよなあ。


 俺たちと例のパーティの間にいたスケルトンは、どうするのか迷っていたが、結局近くにいる俺たちへと向かってきた。

 まあ一体だし、俺もこのスケルトンがどれほどか試したかったから、ちょうどいいか。


「インプよりは強いな」


 でも一撃でバラバラになるので、まだまだ問題ないようだ。

 こうなってくると、【初級】ではなく【中級】を視野に入れるのもいいかもしれない。


「それにしても、大騒ぎしてるなあ……相当離れたはずなのに、こっちにも音が聞こえてくる」


 入り組んだ場所だけど、広さはそこまでではないためか、連中はスケルトンを引き連れながら走り回っているようだ。

 ところどころで別の探索者たちと遭遇して、スケルトンの群れのいくつかを押しつけてしまっているらしい。

 シェリルのときは、ちょうどインプを狩ろうとしていたから俺たちで対処したけど、下手したらシェリルがこんな迷惑な探索者になっていたんだよな。

 もう、そんなことも起きないと思うけど、注意してもらおう。


「ああいうことすると他の探索者に迷惑だから、やっちゃだめだぞ」


「は、はいぃ……その節はご迷惑をおかけしました……」


 自覚してるなら問題ない。

 さて、尻ぬぐいってわけじゃないけど、急にスケルトンを押しつけられて他の探索者も迷惑だろう。


「スケルトンを狩るついでに、他の探索者を手伝おう」


「そうですね! お邪魔じゃなければ、さくさくっと倒しちゃいましょう!」


    ◇


「ふざけんなっ! あいつら! 魔獣を押しつけてきやがって!!」


「あの~」


「なんだっ!」


「手伝いましょうか?」


「助かるっ!」


 よし、これで横入りではないな。それじゃあ、背後から悪いけど攻撃するぞ。


「うおっ! 一撃かよ……いや、助かった。ありがとな!」


「いいえ~」


 さあ、どさくさに紛れて、この階のスケルトンを全滅させるぞ。


「死ね! 死ね! あの糞パーティ絶対殺す!」


「手伝いましょうか~?」


「お願いしますっ!!」


 さっきは二体だったけど、ここはひどいな。

 探索中のパーティが十体くらいのスケルトンに囲まれている。

 それでも、しっかりと守りを固めて持ちこたえてるのは大したチームワークだ。

 俺たちもこういうパーティになりたいものだな。


「じゃあ、【斬撃】で!」


 大きく素振りすることで、大きめの斬撃でスケルトンを横薙ぎに一掃する。

 同じタイミングで倒したからか、復活するまでのタイミングもまったく同じだったため、もう一度【斬撃】を当てたら綺麗に全員倒すことができた。

 なんか、ボウリングでストライクをとったときのような感動だ。


「う、うそっ……こんな簡単に」


「あ、ありがとうございます! 助かりました!」


「いえいえ、それでは~」


 もはや、このフロアのすべてに迷惑行為をしたのでは?

 そう思えるほどに、被害にあっている探索者たちは多かった。

 よくもまあ、そこまで逃げ回る体力があるなあ。


「今度はシェリルがやってみるか?」


「は、はいっ! 最強になりたい人狼シェリルがいきます!」


 まあ、シェリルが一人で複数の赤スケルトンを倒せることは知っているけど、俺ばかりが経験値を得るわけにはいかないしな。

 紫杏と二人だったときはそれよかったけど、今後はむしろシェリルが最優先で経験値を得るべきだろう。


「なにあいつら、ふざけたことして……絶対管理人に報告してやる……」


「あ、あの!」


「見てわからない? 今忙しいの」


「お邪魔でなければ、助けましょうか……」


「ごめんなさい。頼めるかしら」


「はいっ! 人狼シェリルいきます!」


 名前を名乗る癖はやめたほうが良い気がするような……。

 いや、でも有名な探索者とか、名前は知られてしまうわけだし、いずれ最強になるのなら問題ないか。


「……ごめんなさい。助けにきてくれたのにひどい態度で返してしまって」


「い、いえいえ! わ、私は別に!」


「人狼ってすごいのね。ありがとう助かったわ」


 これはもしや、シェリルが自信をつけるのにちょうどいいんじゃないか?

 となれば、あとはシェリルに任せてしまおう。


「先生! 私、はじめて人狼がすごいと認識されました!」


「よかったな。この調子でこのフロアにいる全員にすごいと思われてしまえ」


「はいっ!」


    ◇


「明日はこの調子でボスを倒したいな。それに、大地が言っていたことも検証したい」


「腹黒の……いえ、今度こそボス戦で活躍してみせますよ!」


「いっぱい吸ってあげるね?」


 今日の探索が終わったためか、遠慮なく抱きついてきた紫杏が小声で囁く。

 そんな彼女の頭をなでながら入り口に向かうと、なにやら騒がしかった。

 なんだろう。夜も遅いというのに、やけに人が多いな。


「はい。皆さまの証言はすべて正しいことがわかりました」


「頼みますよ本当に。助けてもらわなかったら、帰還しないといけなかったんだから」


「何人かは、帰還の結晶使って脱出したんじゃねえの? そいつらの帰還の結晶の代金弁償させるべきだろ」


「というか、こんなことばかりされてたら、今後の探索で迷惑なんですけど」


 見覚えがある顔ばかりだ。

 いまだに受付に残っていたのは、どうやら不運にも赤スケルトンを押しつけられた探索者たちらしい。

 そして、話の内容を聞く限りだと、迷惑なパーティに魔獣を押しつけられたと訴えているようだ。

 大変そうだなと思っていると、人だかりの一人が俺たちに気がついた。


「あ、あの人たちです! 私たちのことを助けてくれたの!」


「ありがとうございました! 今月もう金欠で無駄な出費したくなかったんです!」


「私、帰還の結晶とか高くて買っていなかったので、本当に命の恩人です……次から絶対に準備します」


「え~っと……こっちもちょうど魔獣を狩りたかったので、そこまで感謝しなくてもいいですよ?」


 これだけの人だかりが押し寄せてくるのって怖いな。

 受付さんたちは、よくこれを対処できるものだ。

 

「そういえば、騒ぎの原因になったパーティは無事だったんですか?」


 スケルトンたちからは逃げきれたんだろうか? それとも、力尽きてそのまま……。


「はい、皆さんが帰還する前に走り去っていきました」


 受付さんが目撃していたらしく、あいつらが無事だったことを教えてくれる。

 そうか、ちゃんと逃げ切ったのか。


「ですが、これだけの迷惑行為となると、探索者としての資格は剥奪になりますね……」


「もうダンジョンに潜ることはできないってことですか?」


「騒動の賠償をして、講習後の試験に合格すれば再び資格を取得できますが……先に脱出した方々の帰還の結晶の弁償だけでも、彼らには難しいかと思います」


 何人分の弁償になるかはわからないけど、探索者として活動せずに稼ぐとなるとかなり大変だろうな……。

 せめて彼らが多額の借金を背負うことにならないように、祈るくらいはしてあげよう。


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