第27話 バッドコンディションとの上手な付き合い

「う~ん、耐久力だけは面倒だな」


 インプの一番厄介な状態異常。紫杏に魅了されたことで無意味となった。

 二番目に厄介な即死対策能力。攻撃を二回当てなければならない。

 目立たないが意外と厄介な攻撃力。ゴブリンやコボルトに毛が生えた程度だ。


「さ、さすがです。インプたちが雑魚扱いでバサバサと斬られていきます」


「そういうシェリルも最強を名乗るだけあって、危なげなくインプを倒せるんだな」


 それも、一撃でインプに致命傷を与えている。

 俺と紫杏と同じく、インプの特性かあるいはスキルでこらえているだけだ。

 つまり、シェリルの強さは俺たちと変わらないということになる。


「え、えへへ。私最強ですからね!」


 照れ隠しをするように、最強を名乗るシェリル。

 なんだか、同年代ではなく年下の少女に見えるな。どことなく子供っぽい。

 すると、隣で轟音が響いた。あれでもまだ生きているんだから、インプすごいな。


「どう? 私のほうが最強だよ善。褒めて」


 しっかりととどめを刺してから、甘えるように抱きつく紫杏。

 褒めてなんて言うが、目が笑ってない。きっと、褒めろといいたいのだろう。


「強さで張り合う必要ないだろ、別に」


「嫌だ~! 善の一番は全部私なの~!」


「一番好きだけじゃだめなのかよ」


「うっ……そ、そんな調子のいいこと言って、私がごまかされるなんて、もう! ねえ!?」


 よし、機嫌が直ったし先に進もう。


「お姉さま、でれでれですね」


「だって、善が私のこと世界一愛してるって言ったんだよ?」


「間違ってないけど言ってはいないぞ」


 都合のいい耳だが、ちゃんとインプの接近は知らせてくれる。

 耳のよさとかステータスには表示されないけど、きっと紫杏は五感も俺より上なんだろうな。


「そういえば、今後はもう状態異常って全部効かなくなるのかな」


「えっ、一生私に魅了され続けたいってこと!? 結婚?」


「普段と変わらないから、別にそれでもいいけど、状態異常無効化って強いよな」


 大地とか、自分で自分に軽い毒かけとけばいいわけだし。

 そうなると、逆に今後大地が魔獣を毒にしようとして、無効化されることもあるのかな。


「でも、それだと状態異常系のスキルが不遇なことになっちゃうね」


「ですねえ。【初級】ダンジョンだからこその救済措置みたいな、抜け穴なんでしょうかね?」


「後から状態異常をかけようとした場合、効果が強い方が勝つとかもありそうだな」


 雑談をしながらも足は前へと進み、襲ってくるインプたちをしっかり二度攻撃して倒していく。

 非常に楽だ。なんせ、インプの初手は必ず状態異常魔法。

 それが通じないとわかると物理攻撃へと切り替わるんだが、その前に俺たちの攻撃が命中する。

 こうなると一撃では倒せないとはいえ、もはやゴブリンやコボルトよりも楽かもしれない。


「あ……先生、そんなこと言ったらお姉さまが」


「よくわかってるねシェリル! つまり、善はインプなんかの状態異常より、私の魅了のほうが強いって認めたんだよ! 私が好きで好きでたまらないから、状態異常なんか効かないってことだよね!」


「あ~……もうそれでいいや」


 シェリルが早くも紫杏の性格に順応している。

 案外協調性は高いのか? いや、でも休憩所の人たちの忠告は無視したっぽいし、こいつ力に恭順してるだけか?

 そういえば、獣人って力こそすべてみたいな種族なんだっけ?

 俺のレベルとステータス見られたら、態度がころっと変わるかもしれないな。


「ここからは群れだね」


「ああ、やっぱりそうなるよなあ」


 他の魔獣のように、階層が進むと魔獣は群れで現れる。

 だけどインプがそれをすると若干面倒だ。なんせどの個体にも二発の攻撃が必要なんだから。

 できれば、事故の要素は減らしておきたいし、なんとか一撃で倒せないかな。


「……ちょっと、試してみるか」


「いいんじゃないですか?」


「よくわかんないけど、善がやりたいようにやればいいと思うよ」


 全面的に俺を肯定してくれる二人だからか、俺の思い付きは話してもいないのに許可された。

 なら、その信頼に応えないとな。


「こうして……」


 それは、コボルトたちの素早さに慣れてなかったときの魔法。

 威力は度外視で、とにかく当てることだけに特化した、広範囲の攻撃魔法だ。

 それを、インプの群れへと向かって放つ。

 当然インプたちは、攻撃を受けても平然として、俺たちへと向かってくる。


「え、失敗ですか?」


「いや、ちょっと試してくる」


「あれ? 先生!?」


 俺は単身でインプの群れへと飛び込む。

 インプたちがいっせいに状態異常魔法をかけるが当然効かない。

 ……というか、誰か一人がかければいいだろ。状態異常が一種類しか発症しないなら、他のやつの行動意味ないぞ。


「よっ」


 そんなインプたちに飽きれつつも攻撃をしかける。

 状態異常が効かないと気づくまでに、しっかりとすべてのインプに一度ずつ攻撃を当てる。

 思った通り、インプたちは一匹残らずに斬殺されて消えていった。


「え、す、すごい……なんで一撃で倒せるんですか?」


「私の善だからね!」


「インプの耐久力の高さもこれではっきりしたな」


 検証結果はとても満足いくものだった。

 予想どおりの結果というのは気持ちのいいものだ。


「インプは無傷の状態だと、どんな攻撃も一度だけ耐えられるみたいだ」


「あっ、それで最初の魔法ですか?」


「ああ、威力は最低限でいいから、群れ全体にダメージを負わせれば、あとは一撃で倒せる魔獣になる」


「さすがお姉さまの先生ですね!」


 それだと、俺が紫杏の教師みたいだな。

 でも、自分のだと言われてまんざらでもないのか、紫杏は機嫌がよさそうだった。


    ◇


「さて、ボスまでも問題なかったな」


「ここまできたんだし、ボスも倒していくんでしょ?」


「ほ、本当にこんなにあっさり……私はすごい人たちと組んでしまったみたいです」


 攻略法があるダンジョンだし、その攻略法もすぐに教えてもらえたからな。

 【中級】以上はこんな楽にはいかないだろうけど、せいぜい【初級】のうちは楽させてもらおう。


「ボスインプはやっぱりでかいな」


 ゴブリンもコボルトもそうだけど、ボスになるとやけにごつくてでかいんだよなあ。

 ボスインプは俺たちを視認すると、魔法の発動を準備した。

 でかい図体だから、魔法ではなく肉弾戦をするタイプかと思ったけど、やっぱり初手はそれなのか。

 なら、ついている。せいぜいこの隙に攻撃させてもらおう。


「悪いけど、それは効かないぞ」


 斬りかかる寸前で、ボスインプの魔法が発動する。

 攻撃魔法ではない。やはり、状態異常を……。

 あれ? なんだっけ?


「ん? なんでインプが。あれ、紫杏がなんかすごいかわいい。あれ、ここどこだ」


「せ、先生しっかりしてください! というか、急に真っ暗なんですけど! お二人ともどこですか!」


 え、なんだこれ。なんかよくわからないけどまずいかも……。

 俺に叩きつけようとしている剛腕を見て、混乱している頭が危険を知らせた。


「善に触るな」


 その太い腕が紫杏にあっさりと受け止められる。

 なんだか少しだけ落ち着いた。もしかして、俺混乱の状態異常が発症していた?

 となると、何も見えなくなっているシェリルは、暗闇の状態異常に?


 なんでだ? 俺はまだしっかりと紫杏に魅了されているし、シェリルも狂化は解いていないはず。

 こいつだけ、複数の状態異常をかけられる?

 もしかして、状態異常をかけられる種類の上限は、その術者ごとに変わるのか?


「シェリル! 俺に【高揚】をかけてくれ!」


「ええ!? 彼女の前で堂々と浮気宣言!?」


「ごめん紫杏! 今夜なんでも言うこと聞くから、今は許してくれ!」


「許す!」


 俺たちのやりとりに、シェリルまで混乱の状態異常にかかりそうだったが、なんとか意図は伝わったらしい。

 シェリルは、しっかりと俺に【高揚】をかけてくれた。


 幸いなことにボスインプにかけられた混乱は、持続時間が短かったのかもう治っている。

 これで、魅了と狂化二つの状態異常にかかっているわけだが……。


「善! こいつ、また魔法使おうとしてるよ!」


「シェリルは……まだ、暗闇のままだから大丈夫だな」


 上限が2であってくれよ!

 再びボスインプの魔法を無視して、俺はボスコボルトの剣で斬りかかる。

 硬い肉体だが、ここにくるまでに上がった【剣術:初級Lv4】と、【環境適応力:ダンジョンLv5】のおかげか、やすやすと斬り裂くことができる。

 そんな俺の攻撃に怒りを感じたのか、ボスインプは俺めがけて魔法を行使した。


「善、平気!?」


「……よし、問題ない!」


 混乱してない。視界も正常。ボスインプを好ましくも思っていない。

 俺に新たな状態異常は付与されなかった。

 であれば、あとはあの剛腕による攻撃に気をつければ問題ない。


「こうなれば、ボスコボルトどころか、ボスゴブリンにも劣る魔獣だ! このまま倒す!」


 ボスインプは、状態異常が通用しない俺に混乱しているのか、隙だらけだった。

 その隙に何度も斬りつける。混乱から立ち直る前に致命的なダメージを与えることに成功し、ようやくこのダンジョンの終わりが見えた。


「自分が混乱してたら世話ないな」


 結局、ボスインプは混乱した頭のままで、なすすべなく俺に両断された。


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