第14話 男の子の加速的成長

「【環境適応力:ダンジョンLv3】。間違いないなレベルが5になるたび、スキルのレベルが上がっている」


「それなら善はスキルのレベル100を目指しちゃおうよ! 私は善のレベルを吸って100を目指すから!」


 あながち無茶な発言ってわけじゃない。

 毎日レベルを5にするだけでいいわけだし、俺のスキルは3か月後にはレベルが100になる想定だ。

 ただ、スキルレベルって最大いくつなんだろう。


 職業をマスターする際のレベルは100だから、同じく100で極めたとしてそこが上限となるのか。

 それとも、レベルみたいに上限はなく無制限に上がり続けるのか。

 まあ、こればかりは試してみないとわからない。

 それよりも、もっと優先して試したいのはレベルが上がったスキルの効果についてだ。


     ◇


「というわけで、悪いが今日も実験につきあってもらうぞ」


 翌日再びレベルが1に戻ったことを確認して、【初級】ダンジョンへと挑むことにした。

 ゴブリンたちを前にするも、慣れたもので恐怖心は一切ない。

 だけど油断だけはしないようにして相手をする。


「なるほど……レベル3ってところか」


 ゴブリンを倒すまでに必要な攻撃回数。あとは体感だが、相手の攻撃の速度や自分の速度。

 それらを加味するに、俺はレベル1なのにレベル3相当の強さで戦えたはずだ。

 そしてゴブリンを倒したことでレベルが2になったので、次の獲物と対峙する。


「それで今回はレベル5より上だった」


 間違いない。ダンジョンの中で戦う場合に限って、俺のレベルはスキルレベル分だけ倍になっている。

 【環境適応力:ダンジョンLv3】なので、現在のレベルの3倍の強さを発揮できるわけか。

 それじゃあ、スキルレベルが4になれば4倍か?

 さっき100を目指すって言ってたけど、そうしたら俺はレベル1でもレベル100相当の強さになれるのか?

 改めてとんでもないなスキルレベル……。


 しかし、こうなるとスキルレベルをどんどん上げていきたい欲求に駆られてしまう。

 一度帰って紫杏にレベルを吸ってもらえば……。

 ついそんな考えが頭によぎり、紫杏のほうを見てしまう。

 紫杏は不思議そうに俺に微笑んだ。


 いや、だめだろ。なにを考えているんだ。

 毎晩精気を与えているのは、あくまでも紫杏の生命の維持に必要だからだ。

 レベルを下げるにせよ、俺の欲求のためにそれをねだるのは違うだろ。


「ははあ? さては私とえっちなことしたいんでしょ!」


「なんでわかるんだよ……」


「えっ! まじ!? 言ってみるもんだね! じゃあ、帰ってしよう!?」


「違うってば! 魔が差したんだ!」


「差せばいいじゃん! ほら、早く!」


「だから、またこんな風に騒いでたら他の人たちに怒られるぞ!」


 ちょっと隙を見せるとこれだ。

 これもサキュバスになったせいなんだろうか……いや、前からこんな感じだな。

 限りなく肉食系の女の子。それが紫杏という生き物なのだ。


 というか、力強いな……。

 レベル6相当の俺が抵抗できない力ってなにこれ?


「むう……また善が怒られるのは嫌だから我慢してあげるよ。その分今夜はすごいからね」


「怒られたの俺だけじゃないんだけどなあ……」


 あと、不穏なこと言うのやめてくれない?

 サキュバスの本気とか、ダンジョン内の強化すら失った俺には太刀打ちできないからな。


「じゃあ、またゴブリンたち倒す?」


「そう……だなあ。せっかくなら上げられるところまで、レベルを上げてしまうか」


 スキルレベルばかりにかまけて他をおざなりにしちゃだめだしな。

 紫杏に与えるレベルを増やせば、レベルが1になるまで吸われなくなるのかも検証したいし。


「悪いけど今日も夜までかかると思う」


「は~い。こうして焦らされた分、夜が激しくなることに善は気づいていないのであった……」


「だから、変なこと言うのやめてくれって……」


 それが本当なら俺は次から1人でダンジョンに行かなきゃならなくなる。

 いや、それはないな。

 日中離れたらそれこそ、その反動がすごそうだ。


「もうゴブリン程度ならまったく問題ないな」


 それも当然だ。

 さきほどレベルが5になったため、俺のスキルは【環境適応力:ダンジョンLv4】へと変わった。

 単純計算でレベル20相当の強さになっているわけだ。

 レベルが3もあれば安全に、5もあれば無傷でも倒せるゴブリン相手では、もはや負ける要素がない。


「こうなると、もっと強くて経験値を稼げる魔獣を相手にしたいなあ」


「【中級】ダンジョン行っちゃう?」


「行くにしても、許可が下りないだろうな。【初級】を攻略して、実力に問題がないって判断されるのが正規の手段だから」


 一応、ステータスやレベルを確認してもらうことで、明らかに【中級】レベルだと判断されたら、いきなり許可をもらうこともできるらしいが、俺のレベルじゃ絶対無理だろうなあ。


 それに、そんなことをして俺のスキルのことを知られるのもまずい。スキルをというか、こうなった経緯を根掘り葉掘り聞かれるのが嫌だ。

 なぜレベルが下がったのかという話へと行きつき、紫杏がサキュバスになったことがばれてしまう。

 幸いなことに見た目こそ変化しているものの、悪魔化した人たちと同じ見た目のため、今はまだ紫杏がサキュバスだとばれていない。

 だけど、紫杏がサキュバスだとばれたら絶対に面倒なことになる。


 異世界でも腫れもの扱いみたいなサキュバスという存在が現世界にいたら、きっと差別されることもあるだろう。

 そしてなによりも、スキルレベルがあまりにも有用すぎるのが一番まずい。

 スキルレベルを上げるためにはレベルを下げないといけない。それができるのは現世界唯一のサキュバスである紫杏だけ。

 国が紫杏確保のために動き、紫杏をレベルを下げるためだけの道具にする可能性だってあるはずだ。


 ……というか、俺以外の精気を奪う紫杏なんて嫌だ。


「お前は俺の精気だけを吸ってくれよ? 紫杏」


「えっ? 告白……は付き合うときお互いにしたから……プロポーズ!?」


「……たぶん違う」


「自信なさそうじゃん! つまり、ほんの少しはそういう意図もあるんでしょ!? いやあ、まいったなあ……かわいい紫杏ちゃんとずっと一緒にいたいだなんて、善ったらやきもち妬きなんだから~」


 かわいいのは間違いないな。それでずっと一緒にいたいのもあってる。やきもちは……妬いたな。

 くそっ、否定する材料が1つもない。

 仕方がないのでこの鬱憤はゴブリンへと向けることにした。


「【中級】ダンジョンに行くのなら、【初級】ダンジョンを制覇したり功績がいる。だから、そろそろ本格的にダンジョン制覇を目指すか」


 レベル8。これだけではダンジョンの制覇には心もとない。

 しかし、その4倍、明日になれば5倍になると思うと、決してダンジョン制覇は難しい話ではないはずだ。


     ◇


「そうそう、1つ言っておきたいことがあるんだ」


「な、なんだ……?」


 その日の夜、俺の両手を抑えつけて馬乗りになった紫杏が、淡々とした口調で俺に伝えた。


「私、善以外とは絶対こんなことしないし、想像するだけでも気持ち悪いから。善も二度とそんな可能性考えないでね?」


「いや、でも……」


「わかった?」


「はい……」


 お前の力はというか存在は危険なはずだから、考えられることは事前に考えておいた方がいいんだがなあ……。


「私は善だけを愛しているんだからね?」


 そう言われてしまうと何も言い返せなくなる。

 その晩はいつも以上に疲れが溜まることとなり、当然のように翌朝確認した俺のレベルは1に戻っていた。


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