第13話 人知れずレベルアップしていたサキュバスの君

「これは……俺のスキルを吸収した?」


 慌てて自分のステータスを確認する。

 しかし、最悪な予想は外れており、俺のカードにもスキルは健在だった。


「あれ? てっきり、レベルみたいに紫杏のものになったのかと思ったんだけど……」


「もう! 善に貢がせてばかりの女みたいに言わないでよ!」


「いや、でもレベルは毎日貢いでるし……なあ?」


「うっ……いつも大変美味しくいただいております……」


 まあそれはいいんだ。俺が食わせたいから食わせてるんだし。


「でもよかった……これでスキルまでリセットされてたらかなり困ってた」


「そのときは私が善のために働くよ。貢がれてばかりの女じゃないんだからね! 私は」


 根に持ってるな。そして、そうなったとしても紫杏なら、お荷物となった俺を抱えて一人でダンジョンを制覇できそうだ。


「でも、なんで【回復術:初級】だけ取得できたんだろう」


 紫杏の職業スキル……ではないよな多分。

 俺と同じスキルを急に取得できたということは、やっぱり俺が関係していそうだ。

 サキュバスである紫杏が精気を奪っている最中にスキルが増えたのだから、やはりそれがトリガーとなっている可能性が高いだろう。


「そうだ! もう1回やってみたら他のスキルも取得できるかもしれないよ?」


「いや、そんなふうにベッドを叩いてもやらないからな?」


 なんて色気のないサキュバスだろうか。

 こんな情緒のかけらもない誘われ方をする身にもなってほしい。

 というか、俺のレベル1だぞ? 精気吸われたら生命力が減ることになるぞ。


「ちぇ~。愛する彼女からのお誘いなのに」


「愛する彼女なら俺の生命力まで吸おうとしないでくれ」


 吸っていいのはレベルまで、そこはきちんと覚えておいてもらおう。


     ◇


「君たちだけなんか別世界の住人だったりしない?」


「いや、小学校からの幼馴染じゃないか」


「でも、僕たちと違う方向に進みすぎてもう共有できる情報もない気がするよ」


 職業スキルのレベルが上がったこと、紫杏がおそらく俺の職業スキルをコピーしたこと、これらを話したら大地はついに俺たちを奇怪なものを見るようになった。


「そういえば、紫杏に先祖返りが起きてるらしい」


「まあ、紫杏は昔から力持ちだったからね」


「愛の力だね!」


「私は、いつか紫杏が力づくで善の精気を奪わないか、心配だよ」


「大丈夫大丈夫、合意の上だから!」


「あんたたちがそれでいいならいいんだけどさあ……」


 二人に話していて思ったのは、俺たちだけおかしな状況になっているのは、すべて紫杏のサキュバスの力によるものだ。

 空腹自体は毎晩のレベル補給でなくなっているらしいが、本当にこのやり方が正しいのかもわからない。

 やはり、現世界では足りないのだ。サキュバスに関する情報が。


「う~ん……どうせ調べてもなにもわからないだろうし、異世界にでも行かないとサキュバスの情報は手に入らないだろうね」


 大地も俺と同じ結論に至ったらしいが、やっぱり一度異世界の情報を得る必要があるよな。


「別に異世界へ行かなくても、こっちにきてる異世界人から話は聞けないの?」


 紫杏が疑問を口にするが、残念ながらそう簡単な話でもない。


「難しいんじゃないかしら? サキュバスのことって、異世界人でさえ詳しく知ってる人は少ないんでしょ?」


「そうみたいだね。現世界に訪れた魔族の知り合いも、サキュバスの生態には詳しくなかった。きっと、サキュバス本人に聞くくらいしないといけないはずだよ」


 大地の知り合いでもだめか……。

 そうなると、わりと本気で異世界に行くことを目指さないといけないのかもしれないな。


「じゃあ行っちゃう? 異世界」


「そう簡単にはいかないだろ。審査局の許可がおりないといけないんだし」


「異世界に送り出しても問題ないと判断されないといけないからね。そのためにこっちの世界でダンジョンを攻略しないと」


 異世界は危険な場所だからな。

 最低限の戦う術があること、異世界でトラブルを起こさない人物であること。

 それらの判断をもって、異世界への渡航が許可されるのだが……この2つをかなり厳しく審査される。


 特に戦えるかどうか、異世界は現世界よりも強者が多いため、自分の身を守れるという最低条件でさえ、ボーダーラインがかなり高い。

 少なくとも、こちらの世界の【超級】ダンジョン程度は踏破できないといけないのだ。


「よし、決めた。【超級】ダンジョンをクリアしよう」


「まあ、そう言うとは思ってたけど……かなり厳しい道のりだよ? 特に……」


 そうだな。特に毎日レベルが1になるようなやつには、夢物語のような目標だろう。


「でも、紫杏のためだから」


「善は本当に紫杏のこと大好きだよねえ……」


「えっ! ほんとに!? どうする? 家帰ってベッドに行く!?」


「行かない。というか吸えるレベルないぞ」


「あったら行っちゃうんだ……」


 いや、言葉のあやというか……。


「……そうだねえ。僕と夢子も別々にダンジョンに挑んでいるし、いつかは4人でパーティを組んでみるのもいいかもしれないね」


「それは助かるけど……十中八九俺がお荷物になるぞ?」


「どうかな? 案外善が一番面白いメンバーになりそうだと思ってるよ。それに、紫杏だけで戦力は十分そうだしね」


「善に毎晩愛を注いでもらっているからね! レベルだけはどんどん上がってるよ」


 大地と夢子と一緒なら、ダンジョン攻略も安心して行える。

 だけど今は全員新人だからな。まずは個々人の強化が先決か。


「これまでどおり、俺は色々と検証しながら進めてみるか」


「そうね。どうせ紫杏は自分のことなのに何も考えてないでしょうから……あんたがなんとかしてあげなさい」


 言われるまでもない。

 しかし、自分のことにすら無頓着すぎるんだよなあ……いい加減俺以外への興味をもってほしい。


「はいは~い! 私もちゃんと色々考えているよ」


 ほう、それは初耳だ。


「サキュバスとして、どうすれば善が気持ち良くなるか! これでも毎日涙ぐましい努力を」


「それ以上は言わなくていいぞ。そしていつもありがとう紫杏」


 なるほど、その努力は確かに芽が出ている。

 おかしいと思ったんだよ。初日よりどう考えても疲労感が強くなってるからさあ!


「これからも善の精気を本気で吸い続けるね!」


「いや、もうちょっと手加減とか……してくれない?」


 笑って誤魔化された。

 やっぱりお前は根っからのサキュバスだよ……。


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