第12話 攻略本のないゲームの遊び方
「えっ、職業スキルにレベルなんてあるんだっけ?」
「いや、そんなの初めて聞いた……」
さすがに紫杏も驚きながら俺に確認する。しかし、俺もそんな話は聞いたことがない。
学校ではそこまで教えてくれなかっただけ?
いや、ネット上でもそんな情報誰も話していなかったぞ。
「ステータスはどうなってるの?」
「そっちは変わらないな。そもそも、元からスキルによる補正は反映されないみたいだし」
「そっか~、でもちゃんと意味があるんだよね?」
「ああ、なんか急に体が軽くなったようだけど、スキルのレベルが上がった影響だと思う」
それにしても、なんでスキルのレベルが上がったんだ?
もしかして次に取得する予定だった職業スキルが、この【環境適応力:ダンジョンLv2】だったのだろうか。
いや、それはないな。
なぜなら、俺の現時点でのレベルは5なのだから。
「同じスキルを取得したからか……?」
職業スキルの取得条件はレベルだったりステータスだったりと、まだまだわかっていないことが多い。
だけど、各職業の最初のスキルだけは、共通してレベルが5になるという条件だと判明している。
まさか、探索者の2つ目の職業スキルが、レベル5だということはないだろう。
なら、俺はレベル1から5になったとき、重複した職業スキルを習得したんじゃないだろうか。
「善? お~い、善~?」
と、考え込んでいるところを紫杏の呼びかけで周囲の様子に気づく。
まずい、また周りを忘れて思考に集中してしまっていた。
さすがにダンジョンでそんなことするのは自殺行為だ。次は気をつけないと。
「お、気がついたね? さすがに近づいたら気づいただろうけど、念のため善に近づく前に倒しておいたよ」
「あ、ああ……悪い」
「できる女なのさ、私は!」
俺を守るために、紫杏は淡々とゴブリンを撲殺しながら笑っていた。
う~ん。なんかすごい光景だな。
それにしても、やっぱり紫杏はとんでもない強さになってきている。
元々高かった身体能力に加えて、俺のレベルを毎晩吸うことでその身体能力が加速的に上昇しているんだもんな。
「そうだ、紫杏」
「ん~? 善が倒したかった? じゃあ変わろっか?」
「いや、そっちじゃなくて、前に言っていた紫杏の力について調べるってどうなった?」
「あ~……えっと……」
口ごもった様子だ。もしかして、忘れていて、まだ調べていないのか?
いや、いつも一緒にいるはずの紫杏が、一度だけ俺と別行動してユニークスキルのことを調べるって言ってたはずだ。
「私の力って先祖返りだって……」
「そっか、やっぱり他の人と同じで種族が変わるユニークスキルは、先祖の力が開眼したのが原因なのか」
「私のご先祖様、サキュバスだったってことだけど……嫌じゃない?」
「前も言ったけど紫杏の種族なんて気にしないし、紫杏の先祖も気にしないよ」
たまにしおらしくなるが、普段が普段なだけにそんな態度を見せられるとなんとも調子が出ない。
普段と今の中間くらいがちょうどいいと思うんだけど、それを言ったら本気でそんな性格を目指しそうだしな……。
うん、やっぱりそのままの紫杏でいてもらいたいし、変なことは言わないでおこう。
「善?」
「なんでもない」
きょとんとする紫杏の頭をなでると、彼女は嬉しそうに笑った。
◇
「さて……ここからどうしたものか」
「珍しいね? 善なら夜までゴブリンを殺すんだ~とか言いそうなのに」
「人聞きが悪い」
なんだその殺人が趣味みたいな不名誉な人物像。
たしかに普段ならぎりぎりまでレベルを上げようとするんだけど、今はレベルよりも気になることがあるからなあ。
「【環境適応力:ダンジョン】がレベル2になったろ?」
「うん、おめでとう!」
「ありがとう、それでこのスキルのレベルが上がったのって、取得条件を達成したからだと思うんだ」
「どういうこと?」
「この職業スキルはレベルが5になったら取得する。でも、ふつうはレベルが下がるなんてことがないから、もう一度取得するなんてことはないんだ」
たしかに職業を変えたらレベル1になるけど、一度その職業で上げたレベルはそのままだ。
だから、探索者のレベルを5に上げて、その後に別の職業を経由して再び探索者になっても、もう一度【環境適応力:ダンジョン】を取得するなんてことはありえない。
そして、俺も自分が体験するまではレベルが下がったなんて聞いたことはなかったし、現世界ではレベルが下がるなんてことまず起きないんだ。
「だから、ここでレベルを上げるのもいいんだけど、もう一度レベルを下げてから5まで上げたときにどうなるか。そっちの方が気になる」
「えっ……」
なんか思ってた反応と違う。
なんでそこでもじもじしながら顔を赤らめるんだ。
「じゃあ……夜じゃないけど精気吸う?」
「…………あ、あああ違う! 違うから! そういうことをねだったわけじゃないから!!」
これは俺が悪かった。
そっか、レベルをもう一度下げたいって、間接的に紫杏にそうされたいってことじゃん!
いやしたいけどね! したいけど、そういう意味で言ったわけじゃないし!
「おい、うるせえぞ!」
突然俺たちに注意をするような男の声が聞こえた。
ああ、そうか。初心者ダンジョンと違って、他の探索者とこうやって出くわすこともあるんだった。
たしかに、それなら騒いでしまって迷惑をかけたな。
それに今回はよかったけど、紫杏や俺のスキルのことももう少し慎重に話さないと。
「すみません」
「まったく……これだから新人は」
男たちの集団が通り過ぎていく。
どうやらこれからダンジョンの奥を目指すようだ。
紫杏……そんなにぶすっとした顔しないの。今回は俺たちが悪いんだから。
「とりあえず、今日はここまでにして帰ろうか」
「やっぱり、早くしたいんじゃん……えっち」
大声で否定したかったけど、ついさっき注意されたばかりなので、俺はなんとか叫ぶのをとどまった。
◇
「さあ、今夜は寝かせないぞ!」
「なんで、そんなにやる気なんだよ!」
「せっかくの善からのお誘いなんだよ? ここで引いたら女が廃るってもんだよ!」
「いや、だからあれは……」
一応あれは紫杏の中では俺から誘った判定になったらしく、やけに嬉しそうな紫杏にいつも以上に精気を吸い取られた気がした。
大丈夫だよな? レベル以上のもの吸い取られてないよな?
確認したレベルは、やっぱり1。
そういや、紫杏のレベルってどうなったんだろう。
それなりに俺のレベルを吸収したから、高くなってそうだけど。
「なあ、紫杏」
「な~に? 足りなかった? もうちょっと、食べてほしいの?」
「いや、そうじゃなくて……」
足りる足りないは、お前が判断することだろう。
お前の空腹を満たすためなんだって覚えているのか。……覚えていないかもしれないな。
「紫杏のレベルっていまいくつ?」
「ちょっとまってね~。え~と……8だって」
順調に強くなっているな。
たしかに、カードにはレベル8と記載されている。
……ん? なんかスキルが増えてるぞ。
「【回復術:初級】……?」
どうやら、また検証しないといけないことが増えてしまったようだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この作品が面白かったと思っていただけましたら、フォローと★★★評価をいただけますと励みになりますので、よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます