第11話 王道から脱線した次のステージへ

「また随分ととんでもないことしたね」


「でも初級とはいえこれだけのスキルがあると便利だな。レベル1でもやっていける気がするよ」


「それ、普通じゃないからね?」


 わかっている。きっと役所でも悪目立ちする寸前だった。いや、もう手遅れかもしれない。

 だけど他の人のようにレベルを地道に上げられない以上は、他と違うやり方で強くなる必要がある。


 職業スキルはたしかに便利だ。

 だけど、圧倒的なレベルやステータス差の前では、これですら心もとない。

 懐事情が許すのであれば、すべての職業をレベル5にしたいくらいだ。


「最低限の準備はできたから、今日からは【初級】ダンジョンに行こうと思う」


「ほう。スライムとの浮気はついに飽きたと?」


「浮気?」


 まだ言うかこいつ。

 大地と夢子は紫杏の発言に不思議そうな顔をしていた。


「でも大丈夫なの? 紫杏はともかく、善はレベルもステータスも初日と変わらないでしょ?」


「はっ! つまり、私が身を挺して善を守れば、善が私に惚れるんじゃないかな!?」


「もう惚れてるでしょ」


「その発言聞いたからには無理だと思うよ」


「そもそも、紫杏が危険な目に遭うのは俺が嫌だから却下」


 アホな発言をしている紫杏はさておき、夢子の心配もわからなくはない。


「だから、スライムよりは経験値くれるけど比較的安全な場所教えてくれない?」


「僕たちもそんなに詳しいわけじゃないけど、まあいくつかあてはあるよ」


「そういえば、アキサメで装備は買わなかったの?」


「……職業変更しすぎて金欠なんだ」


「馬鹿ねえ……」


 そう言いつつも、夢子は大地と一緒にいくつかの候補となるダンジョンを紹介してくれた。

 あとは、放課後に挑んでみるだけだな……。


「ところで、紫杏はなんでさっきから抱きついてるんだ?」


「大切にされているのが嬉しかったんでしょ」


 それはいいんだけど、二人の顔が見えないからちょっとどいてくれないか。

 というか、このままだと授業が受けられない。


    ◇


「じゃあ、さっそく入場するか」


 紫杏と二人でこれまでとは違うダンジョンを訪ねる。

 なんか、いつのまにか手をつないでいたけど、隙を見せた俺が悪いからそのままにしておく。


「ちっ、リア充が」


「なんだあれ、悪魔? 異世界人か?」


 初心者ダンジョンと違って、休憩所にはそれなりに人がいた。

 そのせいか紫杏と俺を見て様々な反応をされるが、直接なにかをされるわけでもないので無視しておくことにする。


「烏丸さんと北原さんですね」


「そうですけど、どこかでお会いしましたっけ……?」


 入場手続きを頼もうと職員のお姉さんに話しかけると、向こうは俺たちのことを知っているみたいだった。

 俺の言葉を聞いた紫杏が「ナンパだ……」とつぶやいているが、俺から声をかけたんじゃないぞ?


「初心者ダンジョンの仲間から、しっかりと経験を積んでいるカップルがいると聞いたんですよ。彼女、今どき珍しいしっかりした子たちだって褒めてましたよ」


「それは、ありがとうございます?」


 いつもの職員さんが情報共有の一環として、俺たちのことまで話していたのか。

 それなら俺たちのことを知っているのも納得できる。


「お二人には忠告は不要かもしれませんが、ここは初心者ダンジョンよりも危険な魔獣が出現します。危険だと思ったらすぐに引き返してください」


「はい、わかりました」


「ありがとうございま~す」


 いつもの職員さんも俺がレベル1のまま、次のダンジョンに向かったなんて思っていないんだろうな。

 ある程度レベルを上げて次のダンジョンに移ったと思われているのか、ここの職員さんに不当な信頼をされてしまった。

 だけど、わざわざ指摘することでもないので、俺たちはそのままダンジョンの中へと進むことにした。


    ◇


「見た目はあんまり変わらないね」


「結局は【初級】だからな」


 ダンジョンはなぜか危険度が高いほど、整備がされていないような内装になる。

 これだけ綺麗に整備されているのは、ある種の安心を保障しているともいえる。

 逆に岩肌のままの洞窟や、草木が生え茂っている森なんかは、気軽に挑むことは避けるべき場所ということだ。


「さあ、今回はどんな魔獣かな~」


「期待しているところ悪いけど、スライムよりは醜悪な見た目だぞ」


 すでに大地と夢子から聞いているので、俺は今日倒すべき魔獣のことは知っている。

 そんな俺たちの会話に引き寄せられるかのように、小さな緑色の肌の魔獣が姿を見せた。


「ほんとだ……スライムのほうがかわいかったよ」


 紫杏ががっかりするほどのその魔獣の正体はゴブリン。

 スライムよりも攻撃手段は豊富で狂暴だが、知能は低いため落ち着いて戦えば倒せる相手だ。


「うおっ! ほんとに乱暴だな」


 こちらが近づくまで何もしなかったスライムと違い、ゴブリンは俺たちの姿を認識すると走ってきてボロボロのナイフで斬りつけてきた。

 凶器を持った暴漢が襲いかかってくるようなものなので、大昔だったらこれだけでダンジョンから逃げ帰りたくなるだろう。


「まあ、今は昔とは違うんだけどな!」


 最低限、戦えるように学校では様々なことを習っている。

 単純な戦闘技術や魔法技術だけではなく、こういった魔獣との戦いの心構えもその1つだ。

 なので、いまさらこの程度の相手を怖がるなんてこともないし、スライムより強くてもやはり【初級】の魔獣にすぎないわけで。


「ギャギャ……」


 落ち着いて攻撃をかわして、剣で斬りつけるだけで倒せる。

 この辺はスライムと変わらない。


「おっ、すごいなゴブリン。一匹倒しただけでもうレベルが上がったぞ」


「お~、かわいくないから、そのくらいはしてもらわないとね!」

 

 紫杏の意見はともかく、これならなんとかレベル1でも倒せるな。

 そして、今はレベルが2になったので、先ほど以上にゴブリンを楽に狩れるわけだ。

 ……これは、なかなか期待できそうな狩場だな。


「あっ、善が単純作業モードに入っちゃう。しかたない、後ろで見守っててあげるよ。私はできる彼女だからね!」


 ありがたいけど、ダンジョンでほうっておいた分、夜が激しいんだよな……。

 まあ、それは夜の俺に任せるとして、今はゴブリンたちを倒し続けるとしよう。


 いやあ楽しい。

 ゴブリンを倒す。レベルが上がる。上がったステータスでさらに楽にゴブリンを倒す。

 その繰り返しが本当に楽しい。


 途中でどうしてもかわしきれない攻撃によって、足を軽く斬られてしまったが、【回復術:初級】のおかげでそれもすぐに完治した。

 回復術の検証もできたので、むしろありがたいとさえ思えたのだが……。

 そのゴブリンは紫杏の怒りの鉄拳によって、体中から嫌な音を響かせながら潰れた後に消滅した。


 そんなこともあったが、しばらく狩り続けていると急激に体が軽くなったように感じた。

 レベルが上がったときよりもさらに体が動かしやすいような……。


「なんだろう?」


「どうしたの? やっぱり、さっきのゴブリンに斬られたところ痛い? 帰る? 帰って一緒に寝る?」


「大丈夫だから、ちょっとだけ落ち着こうな」


 俺の手を引いて入り口に向かおうとする紫杏を手で制すと同時にカードを確認する。

 実は一気にレベルが2つ上がってたりして……。

 そんな都合のいいことを考えるも、当然ながらそのようなことは起きていなかった。


 だけど、それ以上に予想外のできごとが起きているようだ。


「【環境適応力:ダンジョンLv2】!?」


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