第十六層 シディフトの街
第22話 強化週間
「おはよー、ラスタ」
ベイネスの掲示板を眺めていると、魔法使いのティナがこちらへと歩いてきた。
今日は彼女と遊ぶ約束をしていて、これから何をするか考えていたところだ。
「おはようティナ」
「あれから、答えは見つかった?」
「うん、まぁね」
ティール火山でビエルグに敗れてから、色々な部分がまだまだ未熟だったと思い知らされた。戦術やスキルの選択など、その中から一つずつ、強くなるために必要な事を埋めていくことにした。
「この間ティナに言われて、強くなるために次は装備を強化しようと思ったんだ。それで、武器はオニキスが一番良いみたいだから、次は防御面を強化しようと思ってる」
十階層のテントラルカが解放された事で武器の強化は可能になった。でも、防具の強化素材のドロップ報告は今のところない。
二十階層を超えた先ではないかと噂されているが、十九層のボスレイドを越えなければ手に入らない事を考えると、現状は製造品かドロップ品の中から良い防具を選択するしかないだろう。
アルベドのように全身プレート装備で固めれば防御力はかなり上がるが、それだと持ち味の機動力が失われてしまう。出来る事なら布やチェーンなど動きやすい防具でいいものを探したい。
「レインボーは強化出来ないの?」
「あれは武器レベルが三だから、今のところ強化出来ないんだ。属性値が高いから、相性のいい敵を選べばオニキスより強いんだけどね」
「そっか。じゃあ防具を探そう」
二人で掲示板を見ながら防具を探していると、ティナが肩を叩いてきた。
「これはどうかな?十六層に出てくるネコちゃん。
「うん、十六層なら行けそうだね。それに、ランダムエンチャントも狙えばかなり期待できそうだ」
ティナが見つけた十六層のフィールドに出現する猫型モンスター<<ニーブルキャット>>は、俊敏+2の性能が付いた<<シーフクロース>>をドロップする。防具の系統も布装備で、今装備しているチェーンメイルよりも軽い。
そして、十層から上のモンスターがドロップする装備品に新たな効果が追加された。それが<<ランダムエンチャント>>だ。
ランダムエンチャントは、ドロップした装備品にランダムでステータス上昇の効果が一つ付与されるというシステムだ。今のところ報告されている数値は最大で+3までだが、上限はわかっていない。
俊敏+3のシーフクロースを手に入れられれば、それだけで俊敏+5のステータスアップが可能という事になる。
恐らく相当な運が絡んでくるが、それ以外にも
ニーブルキャットについて調べていると、近くに生息しているワニ型モンスターが魔法使いの防具を落とすことがわかった。
今後のことも考え、ティナの防具も強化しようということで両方倒すことに決め、転送ゲートで十六層へと移動した。
◇ ◇ ◇ ◇
第十六層、シディフトの街は、炭鉱の山が聳え立っている山岳地帯だった。ここは石造りの家々が並ぶベイネスから一変して、再び鉱山の雰囲気に戻っている。地形は十層のテントラルカに似ているが、下へ続くテントラルカと違って、シディフトは上へと伸びている。
そして、今回はこのシディフトから南西に位置する湿地帯<<ドゥエラボ>>を目指す。ドゥエラボは浅瀬が広がる足場の悪い地帯で、出てくるモンスターもこれまでとはまったく異なっている。
ただ、ステータスが上がる装備をドロップするモンスターが多いため、わざわざここへ狩りにくるプレイヤーも多いと聞く。
ドゥエラボへと向かう途中、十八層のボス討伐のアナウンスが流れた。
「ネイルゼアさん達かな?凄いね」
「そういえば、昨日アルベド達が行くって言ってたっけ」
「誘われなかったの?」
「誘われたけど、別にいいやって感じかな」
「そっか……。でも、いよいよ十九層だね」
十九層は、これまでの流れでいけばティガーセルクのような大型ボスが待ち構えているはずだ。
この階層のコンセプトである鉱山や炭鉱にちなんだボスが出てくるのだろうが、果たして今回もクリアすることが出来るのだろうか。
「前回は人数が多すぎて大変だったみたいだから、俺らの出番はないかも」
「でも、大活躍だったし、どうなんだろうね?」
「声がかかるようなら、そん時考えればいいさ」
ネイルゼアがマスターを務める最前線攻略ギルド「聖十字騎士団」は、多くても三十名前後と言っていた。
ティガーセルク討伐時の八十四名に比べればだいぶ少ないが、その分プレイヤーの練度や連携力は上がっているはずだ。
レイドボスとまではいかないが、二~三日でフロアボスが倒されているのを考えると行けるような気もする。
道中の敵を倒しつつ、目的のドゥエラボへ到着した。
ドゥエラボは街や村の事ではなく、湿地帯そのものを指していたらしい。荒野地帯を抜けた先に広がる湿地帯は、不思議な光景だ。
足が常に水に漬かっている状態だが、幸いステータス自体には影響はないようだ。
「システム上は問題なく動けてるけど、なんかやりづらいよなぁ」
「……だね」
「とりあえず防具ドロップ目指して、頑張るか」
腰に下げたオニキスブレードを抜き、索敵を始めようとしたところでティナが話しかけてきた。
「ねぇ、ラスタ」
「ん?」
「ただ狩るだけじゃつまらないから、競争しようよ?」
「競争?」
「そう。どっちが良いエンチャントの防具を出すか勝負しよ」
ティナの提案は、お互いに目当てのモンスターを狩り、手に入れた防具の数値で勝負をするというものだった。
俺はこの湿地帯でニーブルキャットを、ティナは少し離れた場所に生息するワニ型モンスター<<アリゲーター>>を倒す。
エンチャントの内容は俺が筋力か俊敏の+3を、ティナは
確かにその方が効率的かもしれないが、ニーブルキャットはその名の通りnimble(すばしっこい)という意味からつけられており、実は剣士系が苦手としているモンスターだ。
一方で、アリゲーターは水属性でティナの得意とする雷魔法が弱点だ。この勝負、表面上はフェアに見えるが明らかに不利だ。
「いや~、一緒にやった方がいいんじゃないかなあ。ハハハ……」
「知ってるよ?ネコは剣士だと倒すの大変なんでしょ?」
ギクリ、と心臓が跳ねたような感覚に襲われた。子供の頃に宝探しをしていて、隠し場所を探されている時と同じような感覚だ。
「それじゃあ、日没までね。何かあったらパーティチャットで知らせる事。スタート!」
ティナは今日一番の満面の笑みを浮かべて、水しぶきを上げながら去って行った。
「拒否権は……ないのか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます