第20話 敗北
「アルベド!」
側に腰掛けていたゴルドーが、背中の大盾を構えてアルベドの元へ飛び込んだ。
瞬間、背後の暗闇から青い光を放つ二振りの大剣が出現する。
ゴルドーは一振り目の剣を盾で受け止めた。しかし、その反動で盾が後ろに弾かれていまいバランスを崩した。その隙をついて、二振り目の剣が脇腹へと突き刺さる。
カン!と音を立てて金属音が鳴り響き、ゴルドーの銀色の甲冑は暗闇へと飲み込まれていった。
一歩遅れてアルベドが敵に向き直し、再び振り下ろされた剣を盾で防ぐが、まだ剣は一本残っている。
俺は飛び出しながら拳を作り、セットしていたラウンドシールドを発現させ、剣を弾き飛ばした。
完璧なタイミングで繰り出された盾の動作が、一瞬の閃光と共に大剣を高く跳ね上げる。この輝きは、パリィが成功したことを意味する。
「ゴルドー、無事か!?」
アルベドが暗闇に向かって叫ぶが、応答はない。
今のは大剣の熟練スキル<<フォアラツリー>>か?だとすればかなりの距離を飛ばされたのかもしれない。
奇襲を防ぎ終わり、若干の余裕が生まれたところで剣の主を確かめようと視線を送る。
そこには二体の人型モンスター、ガーディアンが立っていた。しかし、その姿は通常のガーディアンとは異なり、大きさが倍近くにもなっている。ビエルグの取り巻き<<ソードガーディアン>>だ。
「ビエルグの姿が見当たらん、どこかに隠れているはずだ」
「ガーディアンが奇襲なんてするのか」
「連中はそこまで頭が良くない。恐らく影でビエルグが指示を出している。まずはゴルドーと合流し、その後奴らを分断する」
「わかった」
武器を構えながら後退し、ゴルドーが吹き飛ばされた方向へと下がっていく。
剣ガーディアンは予想に反して追撃してこなかった。ビエルグの指示なのか、罠だと思っての事なのかはわからない。
アルベドが何度か声をかけたところで、ようやく背後から声が聞こえてきた。
ガルドーは床に腰掛け、HPの回復をさせている。
「すまん、だいぶ(ダメージを)貰った」
「俺の方こそ、すまない。完全に油断していた」
互いにフォローし合うが、あのタイミングでの奇襲は防ぎようがなかった。ゴルドーのダメージを見るに、あのままアルベドが攻撃を受けていたら確実にやられていた。戦闘前に戦力を削られるという最悪のシナリオを回避出来ただけでも、幸運だと思うしかない。
「やつらは?」
ゴルドーの問いに、俺達は視線で答えた。すると、剣ガーディアンの背後に、さっきまではいなかった人影が薄っすらと現れた。
ターバンとマスクで顔を隠し、小柄な身体を覆う大きなポンチョを見に纏っているボスモンスター<<ビエルグ>>だ。ビエルグは湾曲した刀<<シミター>>を左右に持ち替えながら、ふざけた様子でこちらを見ている。
「意外と小さいな」
「だが、頭はかなりキレるぞ」
「それならもうすでに体験済みだ」
ビエルグは弱点属性がないので、この隙に剣を3S3Aオニキスブレードに切り替える。
この動作はウェポンチェンジでは出来ないので、敵との距離が離れている今しかチャンスはない。
「作戦通り、各一体ずつ担当する。お互いにカバー出来るだけの余裕は持たせておけよ」
「了解」
「いくぞ」
アルベドの掛け声で、先に走った二人が<<挑発>>を発動し、互いに剣ガーディアンを引き付けながらビエルグと距離を取った。
そのまま交戦を始めたところで、俺はビエルグへと向かってオニキスブレードを構えた。
「お前の相手は俺だ」
しかし、ビエルグは俺を無視して三時の方向で戦うアルベドの元へと駆けだした。そして右手に持つシミターを空高く振り上げる。
「なっ!?」
予想外の行動に動揺するも、急いで刺突スキル<<クイックリッパー>>を発動させ、間に割りこんでシミターを弾き飛ばした。
そのまま距離を取り、ビエルグへと向き直す。しかし、ビエルグはこちらに見向きもせず反対側で戦っているゴルドーの元へと攻撃を仕掛けにいった。
「こいつ……バカにしやがって!」
腰を低く構え、剣を後方へ下げる。青い光を放ちながら突進するクイックリッパーを再び、シミター目掛けて放った。
しかし、それはビエルグの罠だった。
スキルを発動し前方へと駆け出すと、奴は横へとひらりと飛び、攻撃の軌道上へと剣を振り下ろした。
低い姿勢で飛び込んだその背中に、ビエルグの強烈な一撃が刺さる。
ドスッと鈍い音を立て、剣は身体を貫通した。スキルが発動し終わるまで突進は止まらず、やがて勢いのままその場に倒れた。
敵の一撃をモロに喰らってしまい、HPが六割近く削られる。
奴はスキルの特性を理解した上で、仲間を攻撃させると見せかけカウンターを狙ったと言うのか。
「ラスタ、無事か!」
アルベドが近づき、カバーに入る。その隙に回復ポーションを取り出し、急いで使用した。
「ダメージが大きすぎる……スキルを貰ったら一撃かもしんない」
「どうした?随分と弱気じゃないか」
「違う。冷静に分析しただけだ」
膝に手を置き、ゆっくりと立ち上がる。
アルベドにありがとうと伝えると、彼は再び剣ガーディアンの注意を引き付けるために向かった。
ビエルグの方に視線を向けると、今度はしっかりとこちらを見ている。マスク越しにも、ニヤニヤした態度が伝わってくる。
「くそ……」
剣を構え、再びビエルグへと向かって駆け出す。
先程の動きで力量を計ったのか、ビエルグは舐めた態度で上段に振り上げたシミターを振り下ろしてくる。
明らかに無計画な攻撃に腹が立った俺は、ウェポンチェンジで発現させたラウンドシールドでそれを弾き返す。
突如現れた盾によって攻撃を弾かれ、ビエルグの顔に焦りが見えた。
「……お返しだ!」
高く振り上げた剣で相手を斬りつけ、勢いを保ったまま身体を捻って回転斬りを叩き込む二連撃<<オービットレイン>>を繰り出す。
衛星の軌道を描くような流れる動きが、油断していたビエルグの身体に二本の切り傷を残した。
斬り口から青い粒子が噴き出し、ビエルグは片膝を地面につける。
いける……!
オービットレインの軌道が左側で止まった。この位置からなら、左上段からの高威力スキル<<ヴィクトリア>>を打ち込める。
スキルの硬直が解けると同時に、再び剣をしっかりと握りしめる。黄色い光を放つオニキスブレードが、ビエルグに向かって振り下ろされる。
「うおおおお!」
「ラスタ!ダメだ!」
ガキンッという聞きなれない音が鳴り響き、一瞬何が起こったかわからなかった。
身体が動かない。この硬直はスキルが発動した時に起こるものだ。硬直?ばかな、剣はまだ振り切っていない。
視線で刀身をなぞっていくと、その答えがわかった。
二体の剣ガーディアンが持っている大剣が、ヴィクトリアの発動を阻止したのだ。
なぜ……ガーディアンは彼らが抑えてくれているはずだ。
しかし、その疑問を投げかける間は与えられなかった。
ティール火山のボスモンスター、ビエルグの湾曲した刀が青い輝きを放ちながら、俺の身体を鋭い一撃で斬りつける。
その攻撃は、切り口がVの字になる事から名付けられた高い威力を誇る片手剣のスキル「ヴィクトリア」だった。
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