第19話 ティール火山攻略
ティール火山の入り口についた俺達は、メニュー画面から装備欄を開き、耐熱効果のあるアクセサリー<<耐火のストール>>を装着した。
熱ダメージを一定の時間無効にするポーションもあるが、ビエルグとの戦闘中に再度使用する余裕はないと考えこちらを選択。
二つあるアクセサリーの枠を一つ使用してしまうが、今は少しのステータスが向上する程度のアクセサリーしか持ち合わせていないので外しても問題はないだろう。
「行くぞ。まずは一階で軽くウォーミングアップだ」
アルベドの掛け声で、俺達は火山の中へ足を踏み入れた。
ティール火山は大まかに分けると二つの階層に別れていて、一階には岩に変形したルッピの<<スタピ>>や炎獣モンスター<<イグザル>>が生息している。
イグザルは全身が燃え上がる炎に包まれている獣型のモンスターで、火属性魔法を使用してくるがこれは発動を見てからでも十分避けられる。
この階層は街で受けられる簡単なクエストがあるため難易度はそこまで高くない。
メインで狩るのは二階層に多く生息している飛行型モンスター<<フェニーサ>>で、フェニーサはイグザルと同じ様に全身を炎で纏っていて、見た目は火の鳥そのものだ。今のところHdOに出てくる飛行型モンスターは少ないので、フェニーサで対飛行型の練習をするプレイヤーも多い。
剣士で狩る場合は、攻撃のタイミングにカウンターを入れるのが有効だと言われている。
一階の奥地にあるフェニーサの出現地帯に到着したのでメニュー画面から武器を変更。
レインボゥソードを装着し、コンバートボタンで水の属性石<<アクアリット>>を選択する。すると、グリップから勢いのある水が噴き出し一定の位置で止まった。
水属性の片手剣<<リバーシェイド>>。形態変化した事で攻撃力が若干落ちてしまうが、属性値はフレイムタンの三百六十二を上回る四百六十と表示されている。
この属性値は、同LV帯の魔法使いが使用する初期魔法のファイアボルトやコールドボルト一発分と同じで、弱点を持つモンスターを相手にする場合、詠唱のない魔法を振り回しているのと変わらない。
近接職の中でも手数が多い片手剣との相性は、抜群といっても良いだろう。
リバーシェイドでフェニーサと交戦していると、左側に立つアルベドが口を挟んでくる。
「そいつが俺の命と引き換えに入手した剣か」
「いや、その節はほんとすいません……」
「冗談だ。それにその剣はお前が持っていた方が有効に使えるだろう」
アルベドは冗談めかして言ってくれているが、実際は本当のことだ。
あの時俺が油断してティガーセルクに放った<<クイックリッパー>>を外さなければ、彼が盾になってやられる事もなかった。そしてレインボゥソードは、生き残ったアルベドかネイルゼアのどちらかが手に入れていただろう。
勿論それは憶測でしかなく、場合によってはそのまま全滅している可能性もあった。だから彼も、ネイルゼアも俺を責めることはしない。
「おい、戦いに集中しろ!」
反対側で戦う銀甲冑の剣士、ゴルドーの怒鳴り声で敵を前に下を俯きかけていた事に気が付き、慌てて気持ちを入れなおす。
交戦中のフェニーサが、翼を大きく広げながらくちばしを上に突き出している。あの態勢から繰り出されるスキルは、火属性魔法の<<ファイアーボール>>だ。この位置で被弾すると、近くにいるアルベドとゴルドーにもダメージが入ってしまう。となると……。
急いで前方へと駆けだし、真横に伸ばした左手で拳を二回作る。
何も装備していない状態の左手が一瞬輝き、盾装備の<<ラウンドシールド>>が出現した。持ち手のベルトを握りしめ、攻撃に備える。
同時にフェニーサがくちばしを大きく前に出してファイアーボールを放った。盾を前方に構えて攻撃を受けきり、ギリギリの範囲で二人へのダメージを防いだ後、駆けだした足でそのまま攻撃へと移行する。
右上段から構えた剣がスキル<<スラッシュ>>の発動でフェニーサを斜めに斬り抜いた。フェニーサは少しだけ後ろへと吹き飛んだが、追撃を貰わんと上空へと羽ばたいた。
続いて、くちばしを前方に大きく伸ばし突進の構えを繰り出している。それに対し回避行動に入るため少しだけ後ろに下がる。突進のタイミングを見て左へと避けた。
後ろへ少し下がった事で、フェニーサの突進が真横で止まった。突進とはいえ攻撃スキルの一つなので、一定の距離で止まることはわかっている。
スキルの硬直時間で動けないフェニーサに、横から高威力スキル<<ヴィクトリア>>を放ちトドメを刺した。
あらかじめセットしていた装備を、拳を二回握る動作で呼び出す事が出来る剣士のスキル<<ウェポンチェンジ>>。
ウェポンチェンジは、ファルカの騎士団ギルドで受けることが出来るギルドクエストの最初の報酬だった。
呼び出す場所に障害物がある場合は不発となるが、戦闘中メニュー操作を短縮できる優秀なスキルだ。
もう一度同じ動作をすれば、引っ込める事が出来るようになっている。
左手で拳を握りラウンドシールドを収納すると、同じく戦闘を終えた甲冑の二人がこちらへと声をかけてきた。
「ヒュ~、上手いもんだな」
「二人は最初から盾を持ってるんだから、わざわざやる必要ないじゃないか」
「盾を持つと攻撃速度が結構変わるからな。使いこなせるならやっているさ」
「だったら、まず装備を軽くしないとな……甲冑じゃ、盾を外してもうまく動けないだろ」
二人が耐久面を重視した防御力特化なのに対し、俺の場合は布やチェーンなど軽装な防具を好んで着ている。
甲冑と比較したら防御面は紙同然だが、その分攻撃速度を大きく上げられている。
食らわない前提の組み合わせではあるが、上手く使いこなせばある程度の攻撃は盾で防ぐことが出来るようになった。そういう面では、ウェポンチェンジとの相性はかなり良いと言えるだろう。
「準備運動はこの辺りにして、そろそろ二階へ行くか」
アルベドの提案で、ビエルグのいる二階へ向かうことにした。
二階層には、フェニーサの他に炎のトカゲ<<サラマンダー>>が出現する。サラマンダーは真っ赤な鱗と鋭い牙が特徴の四足歩行モンスターだ。
姿勢が低いため視線が下に行きがちだが、飛行型のフェニーサもいるため同時に相手にする場合は注意が必要になってくる。
他にも、土や粘土を固めた
一階には狩りやクエストをしているプレイヤーがチラホラといたが、二階層へ入るとほとんど人の気配がなくなった。
狩りをしているプレイヤーがいない場合、マップに再出現したモンスターが一カ所に固まりやすく、いわゆる
八層にいたリグローのリザードマンや、九層のティガーセルクと違いビエルグは出現場所がランダムになっている。もしもMHに一緒にいた場合はおびき出すのに相当苦労させられるので、それだけは御免被りたい。
事前の打ち合わせでは、無属性のガーディアンはアルベドとゴルドーが、その他の火属性モンスターは自分が担当する事になっている。
属性石での属性変化は基礎攻撃力が若干落ちてしまうので、本来ならばガーティアンと他の場合で切り替えたいところではあるのだが、属性石もそれほど安くはないのでビエルグが見つかるまではこの形を取った方が効率的だろう。
しばらく進んでいくと、前を歩くアルベドが手をかざし後ろに合図を送る。
「モンスターハウスだ、少しずつおびき寄せるので、担当ごとに殲滅を頼む」
俺とゴルドーは「了解」と短く返事を返し、部屋の中を少しずつ掃除していった。
マップの半分を埋め尽くしたところで、大きな広場に出る道の前まで来た。ビエルグがこの先にいるかもしれないと踏み、アルベドの指示で手前の道で休憩を取ることになった。
「いないな。すでに倒されたんじゃないのか?」
ゴルドーが近くの岩場に腰を下ろし、少し疲れたかのように肩の力を抜きながら言葉を発した。
それに続いて、アルベドが壁を背にもたれ掛かって休み始めた。
「難易度を考えても、それはないだろう。そもそもビエルグは無理に倒す必要がないフィールドボスだしな」
「だが、何かいいドロップがあるのだろう?」
「剣士系の武器を落とすんじゃないかと言われているが、どうだろうな」
同じように壁にもたれ掛かって二人のやり取りを聞いていた時、不意に違和感を感じた。
アルベドの背後の岩が、一瞬動いたように見えた。
目を凝らして覗き込んでみるが、どこからどうみても岩だ。見間違いか……?
しかし、それは気のせいではなかった。
ビエルグはガーディアンと違い、知能が高いモンスターだ。奴が他のモンスターと違うのは、ある程度自由に動くという部分だったのだ。
ここまで順調に狩りを進めていき、来るボス戦前の準備で俺達は油断していたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます