第十五層 ベイネスの街
第18話 ティール火山の三剣士
「ハァ……ちくしょう!あんなのいるなんて聞いてねぇぞ!」
息を切らしながら、男は暗闇に満ちた洞窟の中を走っていた。周囲には光源が一切ないが、溶岩の赤い輝きが微かに足元を照らしている。
その場所は火山地帯と呼ばれ、通常では近づくことさえ出来ない危険な場所だと言われている。しかし、彼が首や腰に巻いている耐熱装備が山への侵入を可能にしていた。
男は何かから逃げるように、時折後ろを振り返りながら隠れる場所を探していた。その背後からは、複数の足音が聞こえてくる。
「早くアレを使わなければ……」
男は大きな岩場を見つけると、急いでそこに身を潜めた。
震える手でメニュー画面を呼び出し、青い文字が刻まれた石板を具現化させた。この石板を掲げて街の名を唱えれば、作動した装置が安全な場所へと転送してくれる。
深呼吸をし、石版を掲げようとしたその時、ピタリと腕が止まった。
一瞬、岩が動いたように感じた。本来ならばあり得ないはずなのに、たしかにそう感じたのだ。
恐怖のあまり、違和感の正体を確かめずにはいられなかった。
男はゆっくりと視線を上げ、岩だと思っていたはずの影をじっくりと見つめた。
するとそこには、人の二倍ほどある巨大な
「う、うわああああ」
塑像は高く掲げた剣を振り下ろし、男の身体を真っ二つにした。赤と青の粒子が飛び散り、やがて光となって消滅した。
静寂の中、男が残した悲鳴だけが洞窟内に木霊していった。
◇ ◇ ◇ ◇
「ようラスタ、久しいな」
声のする方を振り返ると、黄金色の甲冑に身を包んだ大男アルベドが立っていた。
「久しぶりです、アルベドさん。今日は休みですか?」
「あぁ、ネイルゼアが用事でな。フリーだ」
アルベドは、前線組で活動しているギルド<<聖十字騎士団>>の副団長だ。
ギルドは第十層のギルドクエストをクリアすると結成することが出来るようになり、聖十字騎士団は第九層のボス、ティガーセルクを倒した時に指揮を担当していたネイルゼアが団長を務めている。
「クリスティーナは、いないのか?」
アルドベが周囲を見渡しながら尋ねた。
「いないよ。ていうか、いつも一緒にいる訳じゃないから」
「はっは、そうか。ということは、お前もフリーという訳だな」
アルベドは甲冑をカチャカチャと鳴らしながら近づいてきて、肩に手を置いた。
「ちょうどいい、タンクを探していたところだ」
「……へ?」
第十五層<<ベイネスの街>>は、厳選された石を積み上げて建てられた家々が立ち並んでいて、その光景はヨーロッパの街並みを連想させる造りになっている。
街の近くには巨大な山、<<ティール火山>>が聳え立っている。灼熱の風が吹き荒れる山は、対策なしでの侵入は不可能と言われている。
アルベドの話では、ティール火山でレベル上げをしていたプレイヤーがボスモンスターにやられたと聞いて、そいつを倒すために腕のいい剣士を探していたらしい。
「……でだ、そこに現れるボスモンスター<<ビエルグ>>を倒しに行こうと思ってる訳よ」
「それはわかったけど、俺は片手剣士ですよ。盾が必要なら他の人の方がいいんじゃ?」
「前に使っていただろう?」
「あれはティナがワガママを言うから仕方なく……それに耐熱装備も持ってないし」
「俺のを貸してやる」
「……拒否権はないってことね」
前にもこんなやり取りをしたような気がするなあと思ったが、仕方がないので詳細を聞くことにした。
ボスモンスターのビエルグは取り巻きに巨大な塑像のガーディアンを二体従えていて、合計で三体を相手にする必要があるとのこと。
ガーディアンは知能が低いが、ビエルグが司令塔になって魔法使いを優先して狙ってくるらしい。なので、今回は剣士のみのパーティを組むことになった。
「後一人、誰かいないか?いなければこちらで呼ぶが」
「う~ん、剣士の知り合いかあ」
ユリシーダは実力的に厳しいだろうし、カルは……そもそもまず連絡が取れない。ここはアルベドの知り合いを頼むのがベストだろう。
「まともなのがいないんで、アルベドさんお願いします」
「わかった」
数分後、全身を銀甲冑で纏っている<<ゴルドー>>というタンクが現れた。
ゴルドーなのに銀なのか。と思ったが勿論口には出さない。
「よろしくな」
「ゴルドーも聖十字騎士団のメンバーで、俺と同じタンクだ。基本の動きは変わらないから、連携は問題ないだろう」
「わかりました。よろしくお願いします」
ゴルドーと握手を交わし、担当について相談した。結果、本体のビエルグは俺が受け持つことになった。
ビエルグはプレイヤーと同じくらいの大きさで素早い動きをするため、全身甲冑の二人には荷が重い。
ボスの担当は責任が重いが、アルベドは何度か戦って負けているから気にするなと言ってきた。
そういう問題なのかとも思ったが、ブロードソードを持つガーディアンの相手も並ではないので、引き受けることにした。
◇ ◇ ◇ ◇
「そういえば、アルベドはどうして前線に?」
火山へと向かう道中、ふと疑問に思っていたことを口にした。
その問いに、黄金色の甲冑を纏ったアルベドが振り返って答えた。
「オニキスが貰えるクエストをやってる時、ネイルゼアに誘われたんだ。早い段階でクエストに気付いた奴らは、みんな声をかけられたんじゃないか?」
早い段階ということは、翌日にクエストを始めた俺は当然しらない事になる。そういえばカルも、俺が聞いた時にはもう黒剣をゲットしていた訳だから、もしかしたら声をかけられていたのかもしれない。
「そこから武器を手に入れた奴らで一層のボスを倒す流れになってな。その時の指揮を取ったのもネイルゼアだった。彼の統率力っつーのかな、そういうのに魅かれたやつはみんな前線に入った。俺もその一人だ。」
「その頃からずっと一緒だったんだ」
「あぁ、だから最初は剣士の仲間が多かった。だが、上の階で魔法しか効かないボスが出てきてな。リオナはその時にスカウトしたって聞いたな」
リオナは、ティガーセルク戦でティナと共に氷魔法で戦った魔法使いだ。彼女も聖十字騎士団のメンバーで、ネイルゼアの右腕的存在だと言われている。
「じゃあ彼女も前線の方に?」
「ああ、いたらしいな。一人ではなかったらしいが、その時一緒にいた仲間とはそれっきりらしい」
前線にいる仲間も、アルベドのように最初からネイルゼアについていた訳ではないのか。
彼らの話も、色々と興味深い。今度リオナにあった時は、彼女の話も聞いてみよう。勿論その時はティナも連れてになるが。
「ラスタとクリスティーナは、どこで知り合ったんだ?」
今度はアルベドが質問をしてきた。
「俺達も、黒剣のクエストだよ」
「あれは魔法使いには関係ないやつだろう?」
「そうだったんだけど、どうしようかなって掲示板を覗いていたら彼女が一緒にやろうって声をかけてくれたんだ」
「なるほどな」
するとここで、黙って話を聞いていたゴルドーが会話に入ってきた。
「……オニキスの輝きが、皆を導いたという訳か」
「……そう、だな」
意味心な言葉に、俺とアルベドは上手く反応出ず会話はそこで終わってしまった。
ようやくの麓まで辿り着いた俺達は、ビエルグ討伐のためティール火山へ足を踏み入れた。
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