第17話 形態変化

「ついたぞ、ここだ」

 

 カルに案内された場所は一層の拠点、ファルカの南西にある鍛治師ギルドだった。鍛治師ギルドはクラフトスキルを習得できる場所で、クラフター志望のプレイヤーが最初に訪れる所だ。

 剣士とクラフターはジョブシステムがまったく違うので、クラフトノータッチの俺には一切関係ないように思えるがどういうことだろうか。


「十層が開放された時に新しいギルドクエストが追加されたらしくてな」

「何がもらえるんだ?」

「中身については俺もまだわかっていないが、どうやら武器に属性が付与出来るようになるらしい」

「属性か……たしかにそれは剣士にとっては嬉しい話だな」


 これまでも属性がついているモンスターは数多くいたが、弱点をつけるのは魔法使いのみで剣士は一定のダメージしか与えることが出来なかった。

 物理職でも弱点を突けるようになれば、今後の戦闘がだいぶ有利になるだろう。

 ギルドクエストが追加されたということは、騎士団の方も追加されているのかもしれない。時間がある時に行ってみよう。


 受付に行ったカルが、クエストの情報を仕入れて戻ってきた。


「ん-と、これだな。貰えるのは携帯炉の一種で、属性石のかけらを塊に出来る装置らしい。」

「依頼内容はなんだ?」

「エレメンタルウィスプを百体。討伐」

「ひゃ、ひゃくだって……」


 唖然とする俺の肩をバシバシと叩くと、カルはニコッと笑顔で言葉を続けた。

 

「パーティでもカウントされるから、五十体ずつだな。まぁすぐだろ」


 

 ◇ ◇ ◇ ◇



 エレメンタルウィスプは、テントラルカの最下層にある炭鉱を更に奥へと進んだ鍾乳洞エリアにのみ生息している。

 ドーム型の巨大な鍾乳洞の所々にはクリスタルが埋め込まれていて、それらが光源モンスターであるウィスプの光に照らされ神秘的な空間を作り出している。

 モンスターがいなければデートスポットの一つになりそうな場所だが、今はムードを感じられることはないだろう。

 その理由は、ギルドクエストと属性石を求める大勢のプレイヤーでウィスプ出現場所が埋め尽くされているからだ。


「どこか空いている場所はあるか?」

「う~ん、深夜前のいい時間帯だからなかなか無さそうだなあ」

 

 入口に辿りついた俺とカルは、定点狩りをするために空いている場所を探していた。

 すると突然後ろから声をかけられた。

 

「ねぇ、あなた達もギルドクエストをやりにきたの?」


 声の方を振り向くと、水色のショートヘアに銀色のプレート装備、そして背中に槌を背負った小柄な少女が立っていた。


「そうだが、あんたは?」

 

 カルの問いに、少女は胸に手を当てて答える。

 

「ユリシーダよ。クエストをやるなら、私も混ぜてちょうだい。二人より三人のほうが早いでしょ?」

「いや、別にいらん。二人で十分」


 横柄な態度が気に入らなかったのか、カルは即答で答えた。

 あまりにも早い返しに思わず吹き出しそうになったが、ギリギリ耐える。

 

「ちょ、ちょっと!そんな言い方ないじゃないの!私こう見えて結構強いんだからね!」

 

 ユリシーダは背中の槌を手に持つと、ブンブンと振り回した。隣にいるカルもそうだが、クラフターは斧やらハンマーやらゲームのイメージを大事にするやつが多いのだろうか。別に魔法使いのクラフターでも……いや、たしかにイメージはあまりないか。


「へっ、下らねえ。こっちにゃMVPの称号を持つ最強の剣士がいるんだぜ。お前なんざ足元にも及ばねーよ!」

「お、おい。恥ずかしすぎるからやめてくれ」


 カルが大袈裟な返事をすると、ユリシーダが上目遣いで俺の顔を覗き込んできた。

 

「ふーん、あなたが?見たところそんなに強そうに見えないけど」

「は、はぁ」


 返事に困っていると、カルが横から体当たりをかました。ユリシーダは吹き飛ばされ、手に持っていた槌が音を立てて転がる。


「俺らは暇じゃねーんだ。ガキは引っ込んでな!」

 

「ちょっと、痛いじゃない!……もういい、知らない!」


 地面に転がった槌を拾い上げると、彼女はこちらを一切見向きもせずに奥へと歩いて行ってしまった。

 

「ケッ、最初からそうしろ!行くぞラスタ」

「あ、あぁ」


 二人のやり取りに何も言えず、罪悪感を抱えながらも空いている場所で定点狩りを始めた。



 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 「うっし、二十五体目!」


 ようやく目標の半分を倒したカルは、斧を背負いながら額に流れる汗を拭っている。狩りをはじめてから二時間が経ち、俺の方は三十体目を倒したところだ。

 

 戦闘中、地面に設置されているクリスタルの隙間から槌使いの少女ユリシーダが見えた。彼女の戦い方が気になったので、次の敵がポップするまでの間観察する事にした。

 エレメンタルウィスプを倒すコツは、魔法陣の詠唱が完了するタイミングで回避行動を取り、後隙に大技を叩き込むことだ。しかし、彼女はお構いなしに攻撃しているせいで毎回被弾しては回復している。あのペースでは、仮に所持量限界まで回復を積んだとしても保たないだろう。


「なぁカル、あのユリシーダって子、仲間にいれてやってもいいんじゃないか?」


 俺の提案に、戦闘中のカルは声だけで返事をする。

 

「なんだ。あいつのこと気に入ったのか?」

「そういうわけじゃないけど、あのペースだと回復が保たなそうだからさ」

「だったら、あの脳筋バカに倒すコツだけ教えてやるといい。ちなみに、カウントは進めておくからな」


 たしかに殲滅するスピードはこちらとたいして変わらないように見える。時間はかかるだろうが、被弾さえ抑えられればソロでも余裕でクリア出来そうだ。


「そうする」とだけカルに告げると、ユリシーダの元へと小走りで近寄った。


 

「あの、ユリシーダさん?」

「は!?なに?いま忙しいんだけどワプッ!?」

「あ」

 

 突然声をかけられ驚いたユリシーダは、ウィスプの水魔法が顔面に直撃したせいで顔から下がびしょ濡れになった。


「ウィスプの倒し方はまず魔法を避けることが大事なんだ。だから魔法陣を……」

 

「ちょっと!あんたがいきなり話しかけたせいでびしょ濡れになったじゃないの!ムキィー!」


 その後説得するのに数十分かかり、ようやくカルの元に戻ってきた時にはカウント差が十体近く離れていた。


 そのまま狩りは俺の負けで終わり、去り際にユリシーダの方を覗き込むと彼女はしっかりと回避行動を取っていた。


 

 ◇ ◇ ◇ ◇


 

 鍛治師ギルドへと帰還し、報告が終わった頃には0時近くをまわっていた。

 無事に<<属性の携行炉>>を手に入れたカルは、狩りで手に入れた原石で火、水、風、地の属性石の塊を何個か作って分けてくれた。

 

「どのくらい属性値が付くんだろうな」

「いきなり実戦で使うのもなんだし、ちょいと試してみるか」


 カルがこちらに見えるように装備欄を可視化すると、武器欄に<<6Sクリスタルアックス>>が装備されている。

 そこから新たに追加された<<コンバート>>の文字を押し、<<フレイムジェム>>を選択した。すると、手に持っていた斧がジュッと音を発し、刀身がほんのりと赤くなった。装備欄を見ると、名称が<<6Sクリスタルフレイムアックス>>に変化している。

 

「属性値は二十くらいか?劇的に変わるわけじゃないが、手数があれば結構違うかもな。まあ、魔法使いがいるんだしこんなもんか」

「いや、十分でしょ。ティガーセルクで使いたかったなぁ……」


 九層の大型ボス、ティガーセルク戦では弱点持ちの魔法使いが二人しかいないせいでだいぶ苦戦してしまった。もしこの機能があれば、剣士の火力が上がりだいぶ楽になったことだろう。


 そういえば、ティガーセルクから手に入れたあの武器はどうなるのだろう。気になった俺は、メニュー画面を開いて武器を切り替えた。


「そいつが、MVPから出たっていう剣か?」

「あぁ、もしかしたら……」

 

 オニキスブレードが腰から消え、銀色の板で出来た剣<<レインボゥソード>>が装着される。剣を鞘から引き抜き、カルと同じ操作でフレイムジェムをコンバートした。すると、グリップから先の刀身が消え、ユラユラと燃える炎が勢いを増して吹き出した。炎は変化前と同じ刃先の位置で止まり、少しだけ左右にはみ出て広がっている。

 

「な、なんじゃあ?!」

「やっぱり、形態変化するからレインボウなんだ」


 装備欄を見ると、名称が<<フレイムタン>>に変化していた。属性値はフレイムアックスの二十を遥かに上回る三百六十二と表示されている。

 

「うおぉ……つええな。まさに属性武器って感じか。他の属性石の変化も気になるところだな」

「そうだな、でもあんまり属性石がないからまた今度にしておこうか」


 その後色々検証した結果、属性はエリアが切り替わるまでは継続し、上書きもできるようだ。ただし、今のところは石がそこまで安価でもないので使い所は選ぶ必要があるかもしれない。


「今日は色々ありがとう、お陰でだいぶ強くなった気がするよ」

「俺の方こそ、色々やってもらってありがとな。あと、いいもん見させてもらったわ」


 結局一日中カルの手伝いに付き合うことになったが、目的だった武器の強化と本来の使い方を知ることが出来たのでよかった。


「そんじゃ、またなんかあったらよろしくな」

「そんなことより、たまにはWIS返せよ!」


 カルと別れ、時間もだいぶ遅くなったのでその日はすぐログアウトした。

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