第十層 鉱山の街 テントラルカ
第16話 武器精錬
洞窟の中、ランタンの明かりに照らされながら骨型モンスター<<ボーンワーカー>>が左手に持つツルハシを上段から振り下ろした。
その攻撃を薙ぎ払い、高威力の片手剣スキル<<ヴィクトリア>>を放つ。
V字に斬り込みを入れられた敵は骨ごとバラバラにはじけ飛び、粒子となって消滅。
続けて、リザルト画面に<<プラスコン>>の取得を知らせる文字が表示される。
「おっ、やっと出たか。これで強化素材は揃ったかな」
第十層からは武器の強化が可能になり、その素材集めのために炭鉱に篭ること四時間。時刻は夕方をすぎ、休憩するにはちょうどいい頃合いだ。
街へと戻る途中、昨日の事を思い出していた。
第九層の階層ボス<<ティガーセルク>>を討伐した後、ネイルゼア達から補給物資をもらって一時間以内に十層の転送門があるゲートを目指したのだが。
結果的には間に合わなかった。
荒野地帯を歩いてすぐに巨大な空洞を発見し、鉱山や炭鉱ならきっと街はこの下だ!と確信し下へ降りる場所を探した。
しかし、どこにも降りる場所が見つからず辺りをウロウロとし続け、ようやく見つかった時にはすでに一時間以上が立っていた。
やっとの思いで下に降りた時は、街は既にプレイヤーで溢れかえっていた。
一番乗りは出来なかったが、ゲートから出てくるプレイヤーのワクワクした顔が見られただけでも頑張った甲斐があったのかもしれない。
炭鉱を出て、視界右上の表示が安全地帯に切り替わったのを確認した俺は、視線を上へと向けた。
第十層の拠点<<テントラルカ>>。テントラルカは荒野地帯に空いた巨大な空洞を利用して作られた街で、所々に不規則に開けられた穴は宿屋や武器屋などの利用設備へと繋がっている。そして、最深部にはファルカにはなかった武具工房が設置されている。
これまでは武具の精錬が一切出来ず、現状一番強いとされている装備以外で火力や耐久を上げるためには、レベルアップによるステータス上昇しかなかった。
テントラルカでは武具工房と強化に必要な素材を落とすモンスターが揃っているので、しばらくはお世話になることだろう。
最深部行きのコンベアに向かう途中、顔見知りの人物を発見した。紫色に輝く斧を背負う、ちょび髭が特徴の男だ。
名前を呼ぶと男はこちらを振り向き、嬉しそうに返事をした。
「カル、久しぶり」
「ラスタじゃねーか。久しぶりだな、元気してたか?」
「ああ、今日はスキンヘッドのおっちゃんは一緒じゃないんだ」
「なんでぇ、お前あいつと知り合いだったけか?」
「いや、まぁ見かけた事がある程度だけど」
ゲームを始めてから最初にフレンド登録をした情報屋のカルと挨拶を交わした後、同じ行き先のコンベアに搭乗した。
カルは普段からよくログインしているのだが、こうして顔を合わせる以外基本的にWIS(個人チャット)を送っても返事をしてくれない。
ログイン以外の情報は基本的に見られないので、どこで何をしているのか知らない。
そういえば彼はクラフターのスキルを上げると言っていたので、もしかすると俺の目的と一致するかもしれない。
「そういえば、クラフトのスキル上げてたよな。武器精錬とか出来たりする?」
「ん?……ああ、やれるぞ。プラロク(+6)までか?」
「そうそう。オニキスブレードを強化して貰いたいんだけど」
「別に構わんが、今から絨毯の強化素材を集めに行こうと思っていてな。その後でいいか?」
「だったら手伝うよ。モグリンだったら何回か戦ったことあるし」
絨毯はクラフターが武器や防具の強化、アイテムの調合をする際に必須となる簡易工房で、正式名は<<エクスペット>>という。
第三層のクエスト報酬で貰える物は、一番性能が低いやつでNPCに頼むのと大差ない。街中ならどこでも使用できるという点がメリットだが、十層で強化素材が明かされてからは性能面でも優位になった。
「わりぃね。ほんじゃ頼みますわ」
ちょび髭の斧使いカルとパーティを組み、最深部から脇に逸れた炭鉱へと入って行った。
洞窟の中は薄暗く、等間隔に吊るされたランタンの薄い明かりだけが地面を照らしている。その足元には、直径五十センチの穴が四方に散らばっている。
「そっちだ!七時の方向!」
「おっしゃ、任せろ」
声と共にカルの持つ紫の斧が青い光を放った。
斧の刃は横向きになっていて、斧頭を叩きつけるように指示した方向に振り下ろされる。
それと同時に、穴の中から丸い毛玉のような生き物が顔を出した。茶色い身体と長く鋭い爪、きめ細やかなヒゲが特徴のモグラ型モンスター<<モグリン>>だ。
斧はモグラの頭部に直撃し、一時的なスタンを発動させた。その隙に体勢を低くした状態から発動する刺突スキルクイックリッパーで距離を詰める。
オニキスブレードの鋭い刃先がモグリンの身体を貫くと、粒子となって消滅する。
「噂の階層ボスを倒した腕前、お見事」
「あんたこそ、ちゃんと戦闘職も上げてたんだな。ていうか武器だけ見たら俺以上じゃないか」
「最初は自分で素材を集めにゃならん事の方が多いからな。そのおまけだ」
肩に大きな斧を担ぎながら、カルは余裕な表情を見せる。
クラフトスキルは、街中でアイテムの製造をしたりすることでレベルが上がっていくシステムだ。
クラフトをメインに活動すると、狩りに行く時間が取れずに戦闘が疎かになりがちだと聞く。そのため、クラフトを上げつつ戦闘職も上げているプレイヤーは少ない。
十層が開通されて一日が経つが、未だボスは討伐されていない。つまり此処が最前線になるのだが、ボス戦には参加していないとはいえ、クラフトと戦闘両方をしっかり上げているという点でも彼がかなりの努力をしていることがわかる。
視線の先、彼の背中に見える紫色に輝く両手斧<<クリスタルアックス>>は既に安全圏の+6まで強化されている。
俺ですら、4時間篭ってようやくオニキスを6にするための素材が揃ったというのに、一体彼の行動力はどこから来ているのだろうか。
もしかしたら、情報屋のみが知る特別なショートカット方法があったり……いや、あるわけがないか。
「うし、だいたいこんなもんでいいだろ。そろそろ戻ろうぜ」
メニュー画面を操作していたカルが、ウィンドウを閉じて提案してきたので街へ戻ることにした。
◇ ◇ ◇ ◇
街へ戻ると、カルは絨毯を強化してくるといってファルカへ向かった。
アイテムの整理をして待っていると数分で戻ってきたので、そのまま大通りから少し離れた場所へと移動する。
カルは手をこすり合わせ、指を鳴らしてメニュー画面を開いた。新調したばかりの簡易工房<<エクスクロペット>>を広げ、その上に金床やトンカチを出現させていった。
「そんじゃ、やりますか。<<プラスコン>>は六個あるな?」
「ああ」
プラスコンは炭鉱に出現するボーンワーカーがドロップする精錬用の素材で、主に武器レベルが1の武器を強化するのに必要となっている。
現状はドロップ品やクエスト品、店売り含めほとんどの武器が武器レベル1なので、このプラスコンさえあれば安全圏内の6までは誰でも強化できるようになっている。
俺はオニキスブレードを鞘ごと腰から抜き出し、カルに手渡しした。
受け取ったカルは、鞘から剣を引き抜くと携行炉へと入れていく。しばらくすると炉に入った剣の刀身が赤く輝き始めた。
すかさず金床に運んでいき、右手に持つ専用のハンマーで一回、二回と大きな音を立てて叩いた。
すると剣がポッと音を立てて輝きを失い、中から黒光りを増した刀身が現れた。
その動作をあと五回、リズムに合わせるかのように行った。
「ほらよ、まあ安全圏だから失敗することはないんだけどな。お陰で絨毯も強化出来たから助かったわ」
「いやいや、俺の方こそありがとう」
受け取った剣を鞘から抜き出してみると、見ただけでわかるほどに鋭さを増したオニキスブレードの刀身がキィンと音を立てて輝いている。
「ステータスはどれに振るんだ?」
「とりあえず
「片手剣使いのお前らしい振り方だな。いいと思うぞ」
HdOの精錬システムには、精錬値による
筋力のパラメータを表すSTRに振った場合はSオニキスブレードという名称になり、今回のケースでいえば筋力と敏捷に3ずつなので、取引等に使う際は3S3Aオニキスブレードという名称で扱われる。
パラメータの振り方は人によって違うので、同じ精錬値、同じ武器でも個性が現れやすくなっている面白い仕様だ。
ボーナスのステータスを振り終わった後、ステータスを確認するとしっかりとパラメータが変化している。
自分が強くなっていることを実感できた時が一番ゲームを楽しんでる時だよなぁとシミジミしていると、絨毯をしまいながらカルが話かけてきた。
「ところで、まだ時間あるか?」
時計を見ると、時刻は21:00をまわっている。そういえばもともと休憩するつもりだった事を思い出したが、ここまで来たらとことん付き合うのも悪くないか。
「あるけど、なに?」
「実はな、この街に剣士が更に強くなっちゃうクエストがあるんだが、やるか?」
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