第15話 新たな世界
最後の一撃を放ち、そのままの体勢で地面に落下した俺はティガーセルクを見上げた。
動く気配はすでに消え、身体の上半分が消滅していた。
粒子が消えていくのを呆然としながら見届け、最後の一片が完全に消え去るのを確認したところでようやく口が動いた。
「倒した……のか?」
やっとの思いで漏れた言葉に続いたのは、低くて力強い声だった。
「ああ、見事だった」
声の主を振り返ると、すぐそばに手を差し伸べる人影があった。
長い銀髪を後ろで束ねた盾使い、ネイルゼアだ。彼の手を取り、ゆっくりと立ち上がった。
剣技を放つ瞬間、彼がティガーセルクの腕を払わなければやられていた。
アルベドが倒れ、動揺してヴィクトリアを放ってしまった俺を、冷静にサポートしてくれた。
それに……こちらへ駆けてくる二人の魔法使いに視線を送る。
彼女達が攻撃ではなく状態異常を狙ったのは偶然だったのだろうか。そうであっても、あの数秒が勝敗を分けたことは間違いない。
「ラスタ!やったね!」
「素晴らしいサポートでした」
ティナが駆け寄り、抱き着いてきたのでそっと背中を抱きしめる。リオナの方は、ネイルゼアと握手を交わしていた。
やがて、他の生き残ったメンバー達も集まりだし、俺達は互いに称賛し合った。
クリア困難と言われた階層ボスの討伐は、勝利をもって幕を引いた。
一人一人の判断が、勝利を掴み取る一本の道に繋がったのだ。そして、それはやられてしまった五十名以上のプレイヤー達にも当てはまる。
それから間もなく、階層のクリアを知らせるアナウンスがワールド中に流れた。
『おめでとうございます。たった今、九層のボスが討伐されました。一時間後に、街へのゲートがアクティベートされます』
経験値とゼニーの獲得画面が視界に表示され、その上には普段とは異なる新しい画面が現れた。
『MVPを獲得しました。MVP獲得者には特別経験値とアイテムが贈呈されます』
片手剣<<レインボゥ・ソード>>を獲得しました。
ドロップアイテム、やはりあるのか。
俺はウィンドウ画面を開き、手に入れたばかりの武器に装備を切り替えた。
名前からは虹色のカラフルな剣を想像していたが、目の前に現れたのは銀色の薄い板でできた平凡な剣だった。
これがどうしてレインボウなのか。性能を見ても、オニキスブレードの方が僅かに優れている。
もしかしたら、何か特別な使い方が出来るのかもしれないが、今はまだ何も予想が出来ない。
それにしても、俺が貰ってもいいのだろうか。たしかに最後の一撃を入れたのは自分だが、そもそもこのパーティを作ったのは……。
不安に駆られ、討伐部隊のリーダーであるネイルゼアに視線を送った。
「MVPアイテムは、最後の一撃を放った者にのみ与えられる。それはお前の物だ」
ネイルゼアは、当然のことのように言葉をかけてくれた。複雑な部分もあるが、一先ずは「ありがとう」と返し、他のプレイヤーの目もあるので一度武器を戻しておいた。
◇ ◇ ◇ ◇
ネイルゼアは、アルベドや前線で共に戦ってきたメンバーと足並みを揃えたいから一度街へ戻ると言ってきた。アルベドには申し訳ない事をしたので、街についたら一度謝りに行こう。
生き残った他の面々も、ほとんどが同じ理由で帰還するらしい。
上へ行くならポーションをいくつか分けてくれるとの事なので、俺とティナはそのまま十層の街を目指すことにした。
一時間以内に辿り着ける自信はないが、仮に間に合わなくてもあと数分で開くし問題はないだろう。
その他にも死んでもいいから行ってみたいという剣士が数名いたが、彼らは既に柱を登り始めている。
これで事実上、ボスを倒す臨時パーティは解散となった。
次に大規模な部隊が組まれるのは十九層かもしれないが、ネイルゼアは勘弁してくれと言っていたのでもしかしたら少数やれる方法を考えるかもしれない。
ネイルゼアは、前線で一緒にやらないかと誘ってきてくれたが、今はそこまで急いでいないのでゆっくりやると伝えた。
少し残念がっていたけど、きっとまたどこかで共闘する時があるだろう。それも、遠くない未来で。
その後みんなに別れを告げ、俺達は十層へと続く柱を登った。
柱の中は螺旋階段になっていて、途中からは壁の装飾が現れた。壁には鉱山で採掘をしている絵画や宝石、ツルハシのオブジェが飾られていた。
それらを見ながら、ティナが質問をしてくる。
「この宝石とかツルハシって、何を表しているのかな?」
「多分、次の階層のテーマなんじゃないかな。九層までは草原とか洞窟が描かれていたけど、次からは炭鉱とか鉱山がメインなんじゃないかな」
鉱山があるということは、いよいよここからがRPGの本番ということか。
細かいシステムについてはまだわからないが、人によってはゲームにハマってしまう最大の要素の一つでもある、あの……。
「あ、見えてきたよ!」
ティナの声で顔を上げると、視線の先には階段の終わりを告げる門が見え始めた。
期待に胸を膨らませ、門へと向かって一段飛ばしで階段を駆け上がった。
「あ、あれ?」
門を潜り抜けると、そこに広がるのは草や木のない荒れ果てた大地だった。
容赦なく照り付ける太陽の光と、無数に置かれた巨大な岩が新たなフィールドを連想させた。
第十層のフィールドは荒野地帯なのだと。
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