第7話 強くなる

 盗賊のアジトを攻略し、クエストで必要なアイテムをゲットした俺達は、洞窟を抜け街へと向かって歩く。

 一本橋を抜け、モンスターの危険度が下がったところまで来たところで、俺は今回の戦いについて振り返っていた。

 

 三人がバラバラに行動し、敵の動きを分散させるという作戦を提案してきたのはティンゼルだった。

 まとまって行動した場合に前衛の俺がやられると勝ち目がなくなるというのが理由だが、パーティの中で一番レベルが低く、足手まといになりかねない俺としては同意せざるを得なかった。

 結果的に敵が分かれたことで戦力は分散出来ていたし、あそこでティナを助けにいかせる判断を取ってくれたことで、最終的にボスとタイマンする場面まで持ってこれた。

 しかし、ケイニッヒをティンゼルに任せたのはあまりにも負担が大きすぎていた。だが、今にして思えば……。

 ティンゼルは、ある程度自分の犠牲を計算に入れていたのではないだろうか。

 そもそも、このクエストをやるには圧倒的に人数が足りなかった。どう頑張っても、中央の六体との戦闘は避けられない。最低でも同程度の人数は確保してから挑むべきだった。そのことを誰も言わなかったのは、舐めていたからなのか……それとも。


「どうしたの?難しい顔してるけど」


 ハッと声のする方を振り向くと、隣を歩いていたティナが心配そうな顔でこちらを見ていた。


「あ、あぁ。ごめん。ちょっと色々考えてた」

「……ティンゼルのこと?」

「それもあるけど、もっと上手くやれる方法があったんじゃないかなって」

「ラスタは上手にやれてたよ。やれてた」


 ティナは足を止め、下を向いて俯く。俺もそこで足を止めると、ゆっくりと言葉を待った。

 

「悪いのは、動けなかった私の方だよ」

「……」

「私もね、こういうゲーム初めてじゃなかったし、目の前で人がやられるところも見てきたりしてたんだ。でもね、今回は違うの。うまく言えないけど……違うの」

 

 彼女は俯いたまま、地面に膝をついてしまった。もしかしたら俺は、知らない間に彼女を傷つけてしまったのかもしれない。昨日、声をかけてくれただけで、俺は彼女の事を何もしらないんだ。

 どう声をかければいいかわからず、ただそこで彼女の震えが止まるのを静かに待った。


 しばらくすると、彼女は顔を上げ「もう大丈夫」と言った。その言葉を信じ、俺は再び彼女の手を取り街へと歩きだした。

 

 ここはゲームの世界だ。でも、それをプレイしている人達はそれぞれ人には言えない事情を抱えている。そして、俺も……。


 もっと強くなろう。俺も、君も。

 その言葉は声には出さずに、深く心に刻み込んだ。




 



「二人とも、おかえり~~~!」


 南門の前についた俺達を、ティンゼルは笑顔で迎えてくれた。生き返った元気なティンゼルを見ると、なんだか少しほっとする。

 彼女はティナに飛びつき、互いにごめんねといい合っている。

 

 ダンジョンで戦闘不能になったプレイヤーは、強制的にセーブ地点へ戻されることになっている。上の階にいけば蘇生アイテムもあるのかもしれないが、現状では防ぎようがない。今回はティンゼルが事前にクエストをクリアしていたから良かったが、場合によってはもう一度やらなければいけない可能性も起こりうる。なるべく全員が生き残った上でクリアするという選択肢が、今後一番重要になってくるだろう。

 掲示板の情報だけではわからない部分も多かった。安全対策を取りつつ、作戦をしっかりと練ったうえで臨機応変に対応できるように頑張ろう。


「それにしても、あの状況からよくクリア出来たね。本当にスゴいよ!私達の時だって、結構苦労したんだからね」


 ティンゼルは俺達を凄く褒めてくれた。それだけでなんだか救われた気がするし、不思議と嬉しい気分になる。


 その後ティンゼルは、「色々と聞きたいこともあるけど、まずは報告にいっておいでよ」と言い残し、一度ログアウトした。どうやら俺達が戻るまで待ってくれていたらしい。彼女が落ちるのを見送ると、俺達はクエストの報告をしに<<鍛冶師ケイド>>の元へと向かった。


「あのままこの剣が盗賊達に使われ、悪行を担ぐはめになると思うと、居ても立っても居られなかったよ。君たちには感謝してもしきれない、本当にありがとう。お礼といってはなんだが、そいつを使ってやってくれ」

「いいんですか?」

「盗賊達に使われるくらいなら、その方がずっとマシさ。それに、そうしてくれた方がアイツも喜ぶだろう」

 

 ケイドに「冒険者の剣」を渡した俺達は、お礼にと剣を頂いた。展開的に予想は出来ていたが、ついに黒剣<<オニキスブレード+1>>を手にいれた。

 

 黒光りする剣を手に取り、思わず笑みがこぼれる俺の顔を見て彼女は「頑張った甲斐があったね」と笑顔を見せてくれた。

 昨日会ったばかりで、ひょんなことから一緒にクエストをしてくれた彼女に精一杯のお礼をした後、「よさげな杖が出るクエストあったら、絶対手伝うから!」と約束をした。


 その後、再びログインしたティンゼルとあの後の事についてゆっくりと話しをした。

 最後に、また一緒に遊ぼうと約束をして、ゲームをログアウトした。


 

 今日は、なかなかに濃い一日だった。

 すっかりこのゲームにハマってしまった俺は、布団の中で今日の戦いでの動きについて復習しつつ、眠りについた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る