第4話 クエスト攻略【一】


 街に戻った頃には、すっかり日が沈みかけていた。

 まずは道具屋に向かい、ドロップ品の整理をした後一旦解散。午後六時頃に再度合流し、クエストを受注するためにNPC<<鍛冶師ケイド>>の元へと向かった。

 ケイドの話では、冒険者のために打った渾身の力作があったらしいのだが、その冒険者が盗賊に襲われ命を絶たれ、大事な剣も奪われてしまったらしい。そして奴らは、昨日狩りをしていた荒野地帯の洞窟を根城にしているとの事だ。

 クエストを受注し、目的地に向かうため街を歩いていると、すぐ横を歩いているティナが口を開く。


 「それにしても、凄かったね」

 「何が?」

 「ケイドさん。NPCだってわかっていても、ちょっと可愛そうだなって」

 「ああ、ハハ……」

 

 ケイドは両膝を着き、力いっぱいにこちらの手を握り頼み込んできた。「頼む、息子の仇を取ってくれ!」とでも言うかのような迫真の演技だ。あくまでもクエストであって、プレイヤーが実際に動いている訳ではないのだが……流石のフルダイブ型とでも言うべきか、リアル感が半端ないなと思った。もしあれが綺麗な美女で、付き合ってください!的な言葉だった日には迷わず「はい、喜んで」といってしまわずにはいられないだろう。

 

 冗談はさておき、クエストは受けたので今度は中身についての打ち合わせだ。身体の前で指をパチンとならし、表示されたウィンドウを操作して地形のマップを開く。

 マップには、四つに枝分かれした細い道と、中央に向かって大きく広がる空間が映し出されている。枝分かれの先は全て行き止まりになっていて、その全てに赤い丸が記されている。この丸い印は敵がいる事を表していて、中央の空間には全部で六つの丸がついている。


「ティンゼル達が言っていたように、この辺りは各個撃破でよさそうだな」


 隣にいたティナが画面を覗き込むように顔を寄せてきたので、画面右上の可視化ボタンを押して見える状態にする。


「一、ニ……全部で十体かあ。この一つだけ色が違うのは何?」

「これは……盗賊の親玉みたいだね。えぇと、名前はケイニッヒ。足を狙った投げナイフによる一時的な転倒と、高速で繰り出される短剣スキルのスタブに注意だとさ」

「飛び道具かぁ。転倒状態でも魔法は詠唱出来るのかな?」

「どうなんだろう。打てたとしても、当たらなそう。ほら、盗賊って素早いイメージあるし」

「う~ん。そうなるとやっぱり今まで通り凍らせてからの方がいいかな」

「そうだね。そこは変わらないと思う。……ん?」

 

 街の外に向かって歩きながら作戦を練っていると、前方から「お~い」と声がした。顔を上げると、金髪のショートヘアに尖った耳が特徴的な子供……ではなく妖精族エルフのティンゼルが手を振っていた。ティンゼルは近寄ってくると、可視化されていた俺のマップを見た。


「君たち、これから洞窟にいくの?だったら私もついていっていいかな?」

「え、本当?一緒にいこう!」


 ティンゼルの言葉に即答したのはティナだった。彼女は間髪入れずにパーティ申請を出し、秒速でパーティにティンゼルが加わった。そして二人は意気投合し、瞬く間に女子トークが始まった。

 女子トークといったが、HdOでのアバターの性別は現実世界と同じ方でしか選べない設定になっている。これはネトゲ特有の性別詐称防止対策というやつなのかもしれない。それはそれで色々と問題が起こりそうな気がするのだが、ようするに俺は俺であって、彼女らは彼女らということだ。そして俺はティンゼルに「他の人は?」という疑問を投げかけたが、「今日はみんなログアウトしたから大丈夫!」と即答で帰ってきたので最早何も言えない状態のまま目的地へ向かう事となった。

 

 

 街を出て洞窟へ向かう途中、ティンゼルとティナは前を歩きながらずっとお喋りをしていた。橋を抜けた荒野地帯まではアクティブモンスターがいないので問題ないとはいえ、よくもまぁ会話が途切れないものだと感心する。その思考が既に冴えない男のソレなのかもしれない。

 会話の途中で何度かティナがこちらをチラチラと見ていたので非常に内容が気になるところだが、恐らく教えてはくれまい。そしてこの構図どこからどうみても、ショッピングモールで買い物に付き合わされている男だ。周りに誰もいなくてよかった。


 しかしそれも、橋を渡って東に広がる荒野地帯までの話だ。そこからは二人も後ろに下がり、正しい前衛と後衛のポジションに変わる。

 ティンゼルは強かった。彼女の放つ火属性魔法の<<ファイアーボルト>>は、詠唱時間こそ長いものの俺達が苦労して倒していたウルフを一撃で仕留めてしまうほどの威力だった。そして索敵も早く、後ろに沸いた敵にもすぐに対応して倒してしまうのだ。

 正に、「サーチアンドデストロイ」という言葉が一番適しているといえるだろう。

 

 そんな彼女の協力あって、難なく盗賊の根城がある洞窟へ辿りつくことができた。

 洞窟の前には半透明の薄いカーテンのような幕が張ってあり、近づくとクエスト名と入場するかどうかの表示が現れた。これは、クエストを受けたものだけに表示されるインスタンスダンジョンへの入場確認だ。受けたものは盗賊のいる洞窟を、そうでないものは地形のまったく同じ洞窟に入ることができるというもので、そうすることでクエストが独占されることなく皆平等に受けられるという方法になっている。

 ティンゼルは既にクエストをクリアしているが、クリア済みであっても未クリアの人とパーティを組んで入ればクエストを受けることが出来るという仕様らしい。


 俺達は互いに目を合わせて頷き、入場のボタンを押した。すると薄い幕がゆっくりと消えていき、洞窟の中へ侵入できるようになった。俺が先頭を歩き、ゆっくりと入っていく。

 洞窟の中は暗くて視界がかなり悪かったが、ティンゼルの持つ火属性魔法の<<サイト>>には周囲を明るく照らす効果もあるらしく、今回はそれを頼って進めることになった。その代わり敵にも気付かれやすいので注意する必要があるとのことだ。道具屋にランタンが売っていた事を思い出したが、あれはこういう所で使うという事がよくわかったのでメモしておこう。


 サイトの有効射程は直径で約十メートル。隊列に関しては変わらず俺が前を歩くが、ティンゼルは照明役ということもありあまり距離を離さず歩く事になった。

 四方に別れた道には一体ずつしか敵がいないため、先手必勝で片手剣スキルの<<バッシュ>>を叩き込み、スタンさせている隙に容赦のない攻撃を繰り出して処理をしていく。わざわざ各個撃破する理由は、この後行われる中央での戦闘で挟み撃ちに合わないためでもある。行き止まりのいくつかには宝箱が設置されており、ゼニーやアイテムの回収も同時に行った。

 

 ようやく四方の処理が終わり、中央の広場に辿り着いた俺達は、岩場に隠れて様子を伺った。

 広場には全部で六人の盗賊がいる。その中の一人、大柄の男は他のとは違ったオーラを放っている。

 

「情報通りだな。中央の少し大柄の男がケイニッヒで間違いなさそうだ」

「まず最初に私達からでいいのよね」

「うん、最初の一撃は時間をかけていいから、特大のをお見舞いしてくれ」

 

 これまで二人があまり魔法を打たなかった理由。それはティンゼルのメンバーが言っていた「魔法は、ここぞという場面で打つ」という言葉の意味がわかったからだ。狭い洞窟の中で魔法を打つことは敵が来た事を知らせるも同然なので、これまでは自分が主体で敵を倒してきた。だが、この広場でそれを行う事は不可能に近い。逆をいえば、この場面こそが打つべき時なのだ。


 俺は腰の鞘からブレイドを引き抜くと、二人を岩場に残して広場へ向かった。

 今までの敵と違い、人型のモンスターは知能が高いと聞いている。この作戦がどこまで通用するかわからないが、やるだけやってみるさ。

 配置についた俺は、二人に向けてゆっくりと剣を掲げ合図を送る。こうしてクエストにおける初めてのボス攻略が始まった。

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