第2話 街の対策
特に、上司の命令には絶対服従という風潮だったこともあり、例えば、
「上司が会議をしていれば、部下は先に帰ってはいけない」
などというおかしな規則めいた暗黙の了解もあった。
ただ、それは、バブルが弾けて、
「残業はしてはいけない」
ということになってから、減ってはきたが、もっと言えば。上司が誘う飲み会なども、絶対参加などという時代もあったのだ。
今では、そんなことをすると、
「パワハラだ」
と言われる。
さらに、女性に対しての扱いもデリケートになってきた。昔であれば、
「まだ結婚しないのかい? 売れ残っちゃうよ」
などというのは、上司の部下に対してのジョークであり、コミュニケーションの一つだと言われてきたが。今では、そんなことはない。
そんなことを言えば、今では、
「セクハラに当たる」
と言われるのだ。
これは男女平等に絡んでくることだが、プライバシーの問題にもかかわってくる。
まずは、なぜ結婚しないのかというのは、いろいろな理由がある。
結婚はしたいけど、相手がいないということであれば、これを話題にするのは、相手が気にしている容姿や体形を攻撃しているのと同じではないだろうか。また、今の時代は、結婚せずに男と同じように仕事に人生を燃やす女性もいる。
それこそ、女性差別というものではないか?
さらに、男性が女性を結婚するのが女性の幸せだという、
「上から目線」
というのも、腹が立つことになるのだろう。
ただ、一つの問題としては、それらの意見は、あくまでも、
「そう考える女性もいる」
ということであり、大多数はそうでもないかも知れない。
そういう意味で、あまり必要以上に、セクハラを煽るということは、余計なトラブルを産まないとも限らない。
少なくとも、中年以上の男性社員は、
「何か世間話をしようと、女性社員に話しかけると、それがすべて、セクハラだって言われてしまって。何も言えなくなる」
というのは、問題だった。
仕事もスムーズに進まず、頼み事は男性社員にしかできない上司が出てくると、今度は、
「上司が仕事をくれない」
などという意見が出てきたりもするのだろう。
そんなことを考えていると、どうすればいいのか、
「これは、中年以上の男性社員の、共通の問題だ」
と言ってもいいだろう。
それが、どんどん深くなっていって、ちょっと顔を合わせただけで、
「私をいやらしい目で見た」
という女性も出てくる。
こうなってくると、女性側にも大きな問題があるのではないだろうか?
自意識過剰な女性が、男性に見られたというだけで大騒ぎするというようなことは、ちょっと考えれば、
「自意識過剰なんだ」
ということが分かりそうなものである。
前述の姦通罪でもそうだが、確かに、日本人の男女の感覚というのは、少し歪なものがあるかも知れない。それは否めないが、ただ、世界にはもっとひどいところもあるわけで、すべてを、
「民族性」
として解決させようとするのは、あまりにも乱暴だと言えるのではないだろうか。
しかし、今の世の中、ちょっとしたことで、
「セクハラだ」
と言われるようになると、おちおち会話もできたものではない。
特に怖いのは、電車の中での痴漢事件の問題だ、
「この人に触られた」
と言って、騒いでしまえば、まずその時点で、その人の人生は終わりになるのではないだろうか>
実際には、ちょっと触れただけなのかも知れないが、相手が悪くて、自意識の塊のような女だったら、たまったものではない。
完全な冤罪なのに、今の世の中では、誰も助けてはくれない。
もし、助けようものなら、
「何、あの人、痴漢の味方なの? あんな人が次に何かの犯罪を犯すのよ」
というレッテルを貼られてしまう。
これはまるで、
「苛めを見ていて止められない」
という状況にも似ているのかも知れない。
苛められている子がいて、何とかしてあげたいけど、
「もし、苛めっ子に逆らえば、今度は苛めっ子のターゲットが自分に向くかも知れない」
と感じることだろう。
苛めも、そのうち同じ子ばかりを苛めているとそのうち飽きてくるもので、新たなターゲットが見つかれば、
「これで当分は飽きることはないよな」
と、自分が今度は苛められることになるのは必至だろう。
それが分かっていて、助けに入る人はいない。
確かに、苛めが行われている場面にて、
「傍観している連中も、苛めている連中と同罪だ」
と言われるのだろうが、その場にいたら、とてもそんなことは言っていられない。
「どうせ、そう思っているのは、いじめられっ子だけで、そんな言葉を真に受けて、助けたりなんかすれば、損をするのは自分なんだ」
と思うと、とてもではないが、助ける勇気などないというものだ。
だが、そんな連中こそが、痴漢の現場に居合わせれば、女の子や、第一発見者が、
「こいつが犯人だ」
と言ってしまえば、百パーセント、痴漢の現行犯にされてしまう。
特に、自意識過剰な女性であれば、
「自分から勇気を出して。痴漢を捕まえた英雄扱いされてしまい、もうこうなると、誰も助けてはくれない」
もし、女の子が、
「あ、あの人ではない」
と後から思ったとしても、それを訂正する勇気はないはずだ。
「何だ、あの女、このままでは冤罪を作るところだったじゃないか」
と言われてしまうのが恐ろしいのだ。
それを思うと、女も庇うことができなくなってしまうのだ。
女性を英雄視するようになると、女性も痴漢されたと思えば黙っておかないだろう。
中には昔のように、ここで名乗り出るのは恥ずかしいという、殊勝な女性も多いのだろうが、自意識高い女性は、そうでもない。
ここで自分を目立たせるチャンスなどと思ったら、もう男に逃げ道はないのだ。
そうなると、今の女性が強くなるというのは、
「冤罪を産む」
という意味で、大きな問題になりかねない。
それを思うと、
「本当にそれでいいんだろうか?」
と思わずにはいられない。
また、昔からいる、いわゆる、
「美人局」
のようなやり方をするやつで、わざと、満員電車に乗り込み、気の弱そうな男の近くに女の子を立たせておいて、ちょっとでも電車の揺れに乗じて、まるで男が触ったかのように、男性に思わせ、そのまま警察につき出すわけではなく、屈強な男たち二人くらいが、
「お前、さっき、この子に触っただろう?」
と言って、脅迫するのだ。
「警察に通報されたくなかったら、金よこせ」
とばかりに、免許証であったり、身分証明のようなものを取られて、今後もしつこく付きまとわられ、警察にいうこともできず、そいつらに脅かされて、金を巻き上げられるということにもなりかねない。
実際に、そんな犯罪も少なくはないだろう。
そうこうしているうちに、金がなくなり、サラ金に借金をしたり、ひどい場合には、会社の金に手を付けたりすることもあり、どうにもならなくなると、最悪、自殺に追い込まれるということだってないわけではない。
そういう最悪の状態を考えると、筋は違うのかも知れないが、コンプライアンスの、特にセクハラであったりする状況が、冤罪を引き起こしたり、脅迫という犯罪を産みやすい環境に持って行ったと言ってもいいのではないだろうか?
確かに、セクハラを中心としたハラスメントは、決していいことではないが、一歩間違えると、冤罪を産みやすくなるという裏の面も孕んでいる。
それを思うと、
「何事も、行き過ぎというものは、悲劇しか生まない」
と言えるのではないだろうか?
時々、2時間サスペンスなどを見ると、そういう犯罪への警鐘になるようなドラマがあったありする。
痴漢として逮捕されたが、実は冤罪で、その人がその半年後どのような運命になっているかなどという話である。
また、逆に、
「女を蹂躙する」
という意味で、婦女暴行事件というのも、描かれたりしている。
最近では、法律改正となったようだが、以前は、婦女暴行罪というのは、
「親告罪」
だったのだ。
親告罪というのは、
「被害者が訴えを出してこそ、検察が起訴できる」
というものである。
特に昔から言われているのが、暴行犯が、未成年だったりした場合。
暴行犯も、被害者も未成年だったりすると、被害者も、自分から告訴はできない。必ず、親権者である、親の代理が必要となる。
ドラマなどでは、加害者の犯人は、たいてい、お金持ちのボンボンで、受験勉強のイライラから女性を襲うという、
「ベタな犯行が多い」
というのも、その方が、ドラマとして進行しやすいからである。
金持ちの家庭だから、弁護士も優秀な人を付けられるし、金に糸目もつけない。そうなると、被害者宅に赴いて、まず、謝罪は当然のことであり、その後に徐々に事情を説明することになる。それは、
「告訴することの無意味さ」
を訴えるものである。
まず、
「この手の犯罪で、犯罪が立証されても、未成年であり、初犯であれば、まず、執行猶予がついて、実刑にはならない」
ということをいう。そして次に、
「裁判ということになると、お嬢さんは警察でその時のことを証言しないといけなくなり。恥ずかしい思いをしたうえに、まわりに、暴行されたことが分かってしまい、どこに行っても、さらし者になってしまう」
ということをいうのである。
そこで、示談金の束を出して、
「これで示談ということにしていただければ」
ということを言い出すのだ。
親は悔しいと思うだろうが、娘がさらし者になることを思えば、泣く泣く、示談にしようと考えるのも当たり前のことで、こういう事件が、
「金の力に物を言わせて、示談になる」
ということがほとんどだとすれば、実際に今公表されている婦女暴行の件数からすれば、実際に言われている件数は、その10倍くらいはあるのではないだろうか?」
と考えられるのだった。
そういう意味で、女性に関係する犯罪は、痴漢の冤罪という問題もあれば、婦女暴行という許せない問題もある。
ただ一つ言えることは、婦女暴行を受けて、苦しんでいる女性がいるのに、女性であるということを武器に、男性に罪を擦り付けて脅迫する女がいるというのは、ひょっとすると、女たちから見ても、許せないのではないだろうか?
それこそ、マナーを守らずにタバコを吸っている連中に対し、マナーを守って吸っている人たちが、感じるやるせなさと同じようなものなのではないだろうか?
もっとも、程度の違いは、
「天と地ほどの差がある」
と言えるのだろうが、それを考えたとしても、やはり、許せないものは許せないということであろう。
K市において、そんな婦女暴行事件は、ほとんど起こっていなかった。
いや、これも、敏腕の弁護士によって、示談が成立したことで、不起訴となった事件も少なくはないだろう。
特に未成年だったりすれば、大いにあることで、実際にどうだったのかは、今となっては確認のしようがない。
ただ、今回起こる暴行事件がどうなるか、今の時点では誰にも分からなかった。
そもそものきっかけは、時期的には、ちょうど三月の終わり頃のことだった。
いわゆる、
「年度末調整」
というのが行われていて、幹線道路が穴だらけになっている時期のことだった。
K市というところは、前述のように、駅前と言えども、それまで繁華街だったところが、半分以上はシャッターが下りていて、商店街を抜けると、空き家のところも多くなっていたりした。
しかし、その頃になると、かなりの人が立ち退いていくことで、家を取り壊して駐車場にしたり、マンションを建てたりしていた。
商店街はすたれても、駅まで徒歩10分くらいの場所にマンションが建てば、ベッドタウンとしては、そこを借りたり、買ったりする人も結構いるだろう。
最近は、そういうマンションの建設ラッシュでもあったのだ。
「この間までは、駐車場だったのにな」
というところも多く、中には、
「転勤族で、単身赴任のサラリーマンが、住むようなマンション」
というのも、需要が増えているようで、結構借りる人も多いようだった。
その傾向は、隣のD市にもあるようで、D市の場合は、このあたりで一番最後に市に昇格したところなので、新興住宅に最初は力を入れていた。
だが、そのうち、駅前の開発も考えるようになり、ターゲットを、
「転勤族の単身赴任者に定めた」
ということが成功し。今では、8割以上の部屋が埋まっている状況だということであった。
不動産屋も、
「単身赴任の人が、最近は多い」
というようになっていて、中には、会社の総務が探しにくる場合もあるようだった。
D市の成功を目の当たりにすれば、本来なら、真似をするなどしたくないというのだが、プライドよりも、
「背に腹は代えられない」
とばかりに、真似をするしかない状態になっていた。
実際にたくさんのマンションを建てたのだが、今度は、同じような条件では、D市の方が先だったということもあり、二番煎じはなかなかうまくいかない。
何といっても、単身赴任の人たちのほとんどは、すでにD市に住んでいるので、残りは、数が少ないというのは当たり前のことだった。
そういう意味で、
「やはり、ただ単に、ハイエナのように食らいつくというのは、計画性が何もないということで、危険性を孕んでいるということになる」
と言えるだろう。
それでも、今は、どんどんマンションができていて、気づいた時には遅かったと言ってもいいだろう。
それではということで、今度は、単身赴任者というだけではなく、遠くから通えない学生のための部屋ということで、貸し出すようにした。さすがに学生には、あまり高くはできないが、それでも、入居者がいないことに比べれば、まったく状況は違うと言ってもいいだろう。
K市は、学生の街でもある。四年生の総合大学は一つ、短大が一つ、薬学大学に、情報大学が一つと、大学、短大だけでも、4つが存在している。そんなわけで、総合大学や、薬学大学などは、全国から人が集まってくるので、彼ら、彼女たちに必要な部屋もたくさんあるのだ。
以前は隣の、D市にも大学があるので、そっちの学生アパートやマンションを利用している人が多かったが、大学側からも、
「もう少し、学生向けの部屋があれば」
という話があったのも、事実だった。
ただ、最初の頃は、まだ商店街の方ももう少し活気があり、一般住民が住む部屋でいっぱいだったこともあって、なかなか大学側のニーズにこたえることができず、D市の方の部屋を多く借りている学生が多かったが、商店街が寂れてくると、さすがに土地を遊ばせておくわけにはいかなくなり、学生向けのマンションに改造する人も増えてきた。
大学が近くにあるからできることで、なければ、
「このまま商店街と心中」
などと言う人も少なくはなかっただろう。
それを思うと、マンションが増えるのは、悪いことではないような気もしてきた。
そのためか、駅近くの道や老朽化した場所も、区画整理を含めて、市の事業として計画されることになり、今は、駅近くの道の整備、古い店舗を取り壊して、新しいマンションを建てたり、駐車場にしたりと、前のアーケードがあった商店街の時代と、まったく違った街に生まれ変わろうとしていたのだ。
本来なら、いまさら遅いくらいである。
そんな街並みは、昼と夜とでは、まったく違う佇まいだった。
というのは、商店街が寂れてしまい、早朝から、通勤客を狙って、モーニングサービスを行っていた喫茶店もあったが、それも閉まりかけていた。そんな時、学生から、
「せっかくのモーニングがなくなると、寂しい」
という声や、サラリーマンにも固定ファンがいて、存続を願う声があったので、早朝七時からの営業は行っていた。
その分、夕方は、6時で閉店するようになった。
そのせいもあってか、夜は、さらに寂しさを増し、近くにあるスーパーに買い物に寄る人がいるくらいで、6時を過ぎるとほとんどの店のシャッターは閉まっていた。
通勤の人は、そんな寂しいアーケードを通って帰るので、暗い道を歩いて帰るのと同じで、町内会も、
「どうしたものか」
と嘆いていたが、この街には、以前から、老舗のような形で、3件ほど、風俗の店があった。そして、少し駅から離れてはいるが、幹線道路に面したところには、以前から、キャバレーのような店が、眩しいくらいのネオンサインを輝かせていたのだが、いつの間にか、店じまいをしていたのだ。
それも知らない人が多いくらい、この街への関心は、市民だけではなく、他の市からも薄れていた。
「何かないだろうか?」
ということで、風俗を誘致する人が出てくると、瞬く間に、このあたりの夜の街は、風俗街に変わってしまった。
さすがに、ソープランドのような特殊浴場は、
「県の条例で作ってはいけない」
という地域になっていた。
いや、正確にいうと、
「この地区以外では、作ってはいけない」
と、最初から決まっていたので、それ以外の性風俗の店や、キャバクラ、スナック、バーなどの、歓楽街が、県の中でも有数の風俗街として、賑わいを見せるようになったのだ。
無料案内所もいくつもできて、店と連携することで、まるで、吉原か、すすきのか、中洲か?
と言われるような場所になっていたのだ。
だが、そんな街も、10年くらい前に、急に寂れてしまった。
これは、K市だけの問題ではなく、県庁所在地にある、有名な風俗街においても、同じことであり、いくつかの店はどんどん潰れて行った。
県庁所在地の歓楽街ですらそうなのだから、小さな街にできた新興歓楽街など、ひとたまりもなかった。この土地が歓楽街として認知されだして、10年も経たない間に、どんどんすたれていく。
「えっ、あそこの夜ってそんなに賑やかだったんだ?」
と、知らなかったのを残念に思う風俗ファンもいたくらいだった。
それでは、
「なぜ、そんな賑やかで、これまでの不況を盛り返すだけの起死回生の一打であったはずの産業が、何をもって、こんなにすたれてしまったというのだろう?」
と誰もが思うに違いない。
その理由は、いわゆる、
「行政の事情」
にあったのだ。
それも正当な理由などではない。自分たちのメンツが問題なのだ。
というのは、ちょうど。十数年前というと、二年前に帝都で行われたオリンピックがあったが、日本の代表として、オリンピック委員会に立候補する土地の最終選考に、帝都と、この年が残ったのだ。
その年というのは、当該県であり、オリンピック招致に必死だったのだ。
そして、日本代表になるためには、
「ふさわしい土地」
と思わせなければいけないということで、風俗店などの一斉摘発を行ったのだ。
当然、県の一番の風俗街も、かなり摘発を受けた。そのせいもあって、いくつかの店が、閉店に追い込まれたり、警察の手入れが激しかったりしたのだ。
そして、せっかく、新たな産業として出来上がったこの街も、この摘発で、ひとたまりもなく、あっという間にすたれてしまったのだ。
一年もしないうちに、前からあった店しかなくなってしまい、100軒以上はあったのではないかと思うほどの店が、あっという間に姿を消した。
そして、数軒あった無料案内所も、事務所だけが残っているような感じで、それこそ、
「夜逃でもしたのではないか?」
というほどになってしまっていた。
さらに悪いことに、そこまで摘発を行ったくせに、あっさりと、日本代表にもなれなかった。
市長も、県知事も謝罪もしない。
そこで生活していた人がいたのに、それまでの歓楽街が、今では、ゴーストタウンのようになってしまっていた。
商店街がすたれていった時よりも深刻ではないだろうか?
いまさら、他の産業を持ってくるという気にもさすがに商店街もならなかっただろう。
精神的にかなりきつかったに違いないし、持ってきたとしても、また何かで摘発でも受ければ、どうしようもない。
二度も成功した街だったのに、一度は、郊外にスーパーが出来上がるという理由。これはまだほかの土地、どこもが抱えている問題だから、しょうがないと言えるだろうが、その打開策として、起死回生だったはずのものが、県知事や市長の、
「メンツ」
のために、あっさりと一つの産業を、一つの街を、立ち直れないほどにしてしまった罪は大きいというものだ。
当然、補助金など出るはずもない。
区画整理においての立ち退きなどであれば、行政から、補助金のようなものが出ることで、田舎に引きこもるということもできるのだろうが、せっかくあらたな産業を招致するということで始まったのだから、皆、
「フロンティアスピリット」
を持ってやってきたのだろうに、まさか、招致した行政から、崩されるとは思ってもみなかっただろう。
店側からすれば、相手が、どこの自治体であろうが関係ない。
「あれだけ、最初に誘致しておきながら、俺たちの居場所を奪うとは、どういう了見だ。梯子で登らせておいて、登ったところではしごを外すようなものではないか」
ということになるのだ。
それを考えると、一体、何をどうすればいいというのか、皆途方に暮れるしかないだろう。
キャストの女の子たちは、散り散りに、いろいろな風俗街に行くことになるのだろうが、経営者はたまったものではない。行政を恨みたくなる気持ちも分からなくもないというものだ。
「本当にあれだけ店があって、ある程度は賑やかだった街が、こんなに街の明かりが消えてしまうことになるなんて」
と、街の明かりを懐かしむ声もしばらくは聞こえていただろう。
そんな、風俗街も、しばらく閑散としていて、駅前の駐車場経営などで、土地が虫食い状態になっていたが、最近になって、やっとマンションが建つようになってきた。
こちらは、駅前ということもあり、ベッドタウンとして、普通に、家庭持ちの人が借りたり買ったりできるようなマンション建設に乗り出していたのだ。学生や単身赴任向けのマンションは、部屋数も少なかったが、こちらは、3LDKを基本に作られているだけに、分譲マンションは、かなりの年数が持つだけの構造になっていた。最近では駅前には不動産屋も増えて、ちょっとした、
「不動産戦争」
が繰り広げられているのである。
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