第4話 スキルイーターちゃんは陰キャニート

「ついたー!」

「ついたのー!」


 パン屋まで来た三人は元気よく店内に入る。いや、元気なのは二人だけだが。


「う、腕が……」


 まるで兄妹のように仲良く手を繋いで来たのはいいが、元気の良すぎる双子に腕を引っ張られた絶対貫通の腕は悲鳴を上げていた。


「いらっしゃいま……なんだお前か。娘に手を出してねぇだろうな」

「あらあら。絶対貫通くんこんにちは」


 にこやかに客をむかえる顔から一転、ムスッとした表情になって絶対貫通を睨むのは、双子の父親である自動回復。

 その隣でまるで聖母のように微笑むのが、母親の感度三千倍だ。


「こんな小さな子に手を出すわけないでしょ。感度さんこんにちは」

「んだゴラァ! ウチの娘が可愛くねえってことかテメェ!」

「あーもう! めんどくさいなぁこの人は!」

「まったくこの人ったら。ちょっと待ってね? えいっ!」

「お゙お゙っ!!」


 感度三千倍が自動回復に手を触れた途端、自動回復は白目を剥いて崩れ落ちた。


「何したんすか……」

「ちょっと……ね? あ、そうそう! ちょうどいいところに来てくれたわね。貫通くんにお願いがあったのよ」

「お願い? なんですか?」

「ちょっとまっててね」


 絶対貫通がそう聞くと感度三千倍は裏に引っ込み、戻ってきた時には手に大きなカゴを持っていた。その中にはたくさんの様々なパンが所狭しと詰め込まれている。


「凄い量っすね」

「でしょ? それでこれをね、スキルイーターちゃんの所に届けて欲しいのよ」

「あーアイツのでしたか。相変わらず引き篭ってるんですか?」

「この前のマスターがまた酷いマスターだったみたいでね。あの子は悪くないのに塞ぎ込んじゃって……」

「あぁ……」


 そこで絶対貫通はスキルイーターが初めて引き篭った日のことを思い出す。

 自分を使ったマスターがどんどんスキルを食い散らかしていく姿を見て心を壊してしまった日のことを。


(俺とアディで少しは元気にしたんだけどな。またろくでもない奴に当たっちまったのか……)


 吸収やスキルドレインは相手のスキルを奪って自分のものにするスキルなのだが、スキルイーターはその名の通りスキルを食らう。

 つまり、マスターが死なない限り何も出来ず、この街にも帰って来ることが出来ないのだ。


 それをスキルイーターの心が耐えられなかった。


 スキルイーターは超低排出率でガチャをひいても当たることは少なく、スキルセレクトにも表示されないレアスキルなのに、その低確率で引く相手が性根が腐った奴が多いのも、スキルイーターの落ち込みに拍車をかけていた。


「わかりました。じゃ、行ってきます」

「お願いね」


 絶対貫通は感度三千倍からパンの入ったカゴを受け取ると、スキルイーターの住んでいる家へと向かった。


「うわ。カーテン閉め切ってんじゃん。手紙も溜まってるしどんだけ家から出てないんだよ」


 そう言いながら呼び出しのベルを鳴らす。


「…………」


 しかし反応がない。


「……ま、いつも通りだな。さて」


 絶対貫通はベルから手を離すと大きく息を吸う。

 そして、中に聞こえるような大きな声で叫んだ。


「おーい! いるんだろ? 開けてくれ。開けないならお前の小さい頃の秘密叫ぶぞ。スキルイーターはバレンタインに──」


 と、そこまで言ったところで内側から鍵を開ける音が聞こえる。


「……何しに来たのよ」


 扉を開けて少しだけ顔を出したスキルイーターは、透き通るような長い金髪を揺らしながら、赤い瞳で絶対貫通を睨み、吐き捨てるようにそう言った。

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チートスキルの恋愛事情〜絶対防御ちゃんは絶対貫通くんに貫かれたい〜 あゆう @kujiayuu

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