第8話 魔物と化け物

――拠点――


「話を、 纏めようか」


 あれから暫くしてウルがやって来た。 一体何体殺したのだろう。 白く統一された礼服は返り血で所々赤く染まっている。

 

「アリス、お前には魔物ヒュームが人間に見える。 そして言語も分かると」

「ああ。 あれは確かに人間だ。 最初にジークが殺した女の子はメアリーというらしい。 後からやって来た人たちは、 それで怒って俺たちに襲いかかった」


 黒く焦げた少女を思い出す。 まだ十歳にも満たないだろう。 その少女の命を俺たちは奪ったのだ。 ジークが、 では無く俺たちだ。


「……これ、 どうすんのさ」


 先程まで頭を抱えていたジークが口を開く。 


「アリス、 お前人間と魔物ヒュームの区別はつくのか?」

「確定ではないが、 女の子も後から来た奴らも、 目が全員赤かった。 あとは、 あの時話しかけたが、 無視されたな。 聞こえなかっただけかもだけど」


 聞こえていなかっただけだ。 そうに違いない。 会話が出来るのならば、 話せば分かる筈なのだ。 

 女の子を殺したことは許されないだろうが。


「ちょっとさ、 お前外に出てこいよ。 危ないと思ったら戻ってこい」

「?」

魔物ヒュームと話をしてみ。 まだそこら辺にいるんじゃねーかな」

「……分かった」


――ジーク視点――


 アリスは魔物ヒュームと会話すべく、 拠点を出ていった。 あいつ、 本当に人間に見えてんのかよ……


「ウル、 どう思う?」

「こんな事初めてだからな。 さっぱり分からん」

「会話出来たら戦わずに済むって、 あいつ本当にそう思ってんのかね。 まじで考えが甘過ぎんだろ。 一体どんな世界からやって来たのかねぇ」

「……日本だそうだ」

「日本ってさ、 あの……?」

「ああ、 十五年前に父を殺したやつと一緒だ」

「関係……あるだろうなぁ」


――アリス視点――


 誰かいないかと辺りを見回す。 誰も見当たらない。 地面には足跡があった。 奥へ進む。 一件の小屋がぽつんと建っているのを見つけた。 中に入る。 


――小屋――


「ごめんください」


 小屋の中では、 一人の老婆と見られる人がいた。 後ろを向いていてよく分からない。 グツグツと今にも吹きこぼれそうな鍋。 料理をしていたようだ。


 「あの、 すみません」


 声に反応し、 老婆が振り向く。 赤く光った目が開かれる。


「いえ、 敵ではないんです。 ちょっと話を――――」

「化け物! 化け物だ!!助けて!!」

「ちょ、 ちょっと落ち着いて!」


 老婆は腰を抜かし、 その場に倒れ込む。


「お婆さん! 大丈夫ですか!?」


 俺は悲鳴をあげている老婆を抱き抱える。 何度も話しかけるが通じない。


「その手を離せ化け物!!」


 声のした方を見ると、 そこには男が三人立っていた。

鎌、 ナイフ、 三又の鍬。 それぞれ凶器を持っている。 目は同じく赤く光っている。


 「いえ、 俺は――――」


 その瞬間、 老婆が俺の腹に包丁を刺した。 


「――――っ!」


 俺は手を離してしまい、 老婆は足元でドスンと尻もちをついた。 老婆の服は俺の血が飛び散っている。 鬼の形相で顔をくしゃくしゃにして、 笑みを歪ませている。


「よし! あとは任せろ!」


 鎌の男が振り被る。 俺はそれを避けたが、 鍬はそれを逃しはしなかった。 右肩に突き刺さる。


「この化け物が! どうだ!!」


 鍬の男はまいったかと歓喜している。


 これは流石にやばい。 死ぬ。

 氷の礫を作り出し、 鍬の男に投げつける。 男が怯んだ隙に残り二人を掻い潜る。 が、 ナイフを背中に突き立てられる。


「――――っ!!」


 外へ出ることが出来た俺は、 通路に向けて氷の壁を隙間なく貼った。 これで時間は稼げる。 腹を抑え、 鍬が突き刺さったまま、 拠点へと向かう。 足に力が入らない。 くそっ。 意識が飛びそうだ。


縺れる足を引き摺りながら、 拠点へと向かう。


「いたぞ! 化け物だ!!」

「殺せ!!」

「おおおおお!!」


 遠くから声が聞こえる。 死がそこまで近づいてきている。 急げ俺、 動け足。 

 命からがら、 何とか拠点に辿り着き扉を開けた瞬間、 俺の意識は途切れた。




――――――――――


「やっぱり駄目だったか」


 ジークは呑気にそう言った。 


「話が出来ればと思ったんだけど、 無理だった」


 ベッドの中で俺は拳を握った。 体の痛みはもう無い。 ウルが治癒ヒールをしてくれたのだろう。

 

「でもさ、 やっぱり目は赤かった。 あと俺の事を『化け物』って言ってた」


 二人は顔を合わせ考え込む。 ふと、 ジークが思いついたように。

 

「もしかしてだけどさ、 俺たちが化け物に見えてるんじゃね。 俺たちは奴らが魔物ヒュームに、 奴らは俺たちが『化け物』に」

「……そんなこと有り得るのか?」

「んーどうなんだろ。 そう言えば俺、 鍬とかナイフで刺されてたと思うんだけど、 それは今どこに?」


「……そんなもんは無かった」

「え?」


 ウルが口を開いた。


「黒い物体がお前の肩、 背中には刺さってたな。 抜いた瞬間に消えたが」

「何だそれ……」

「まったく分からん。 少しは体調は戻ったか? 動けるのであれば捜索を続けるが」

「あぁもう大丈夫。 治癒ヒールありがとな」

「……どういたしまして」


「んじゃあ行くか。 まだ全然探索進んでないからな。」 

「おう」


 俺たちは二回目の捜索を始めた。

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異世界崩壊~三年後、 世界は消えてなくなる~ 天慈 @ten-ji

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