第十五話: 子どもたちと猛牛
体格のいいハイナルカ少年やアドニス司祭を
特徴的な二本の頭角はバッファローなどの牛種よりもヒツジ種を連想させる渦巻き型を成すが、鋭い先端は前方長く突き出し、暴走ワゴン車に匹敵する速度と勢いを
「……っと、ただいま戻りました」
「司祭さま、ただいまー」
「ほう、
「こっちはまだ動きなしですか」
後方の小川より接近中だった
そして、観戦を決め込んでいるアドニス司祭より、場を離れていた数分ばかりの進展を
「ええ、私の出る幕さえもありません。フ……なかなかどうして、クリスタ様もやりなさる」
戻る間に上空から周囲を見渡したところ、引率の大人たちは既にこちらを目指しつつあった。
もう十分もせぬうちに彼らが到着し、このサバナ牛を仕留めてくれることだろう。
僕としては、それまで子どもたちが無事でいさえすれば構わないが、やる気になっている
余計な手出しは控えつつ、いつでもフォローできるよう、このまま見守らせてもらおうかな。
「サルフ、正面に立つな! 斜めでもヤバイ! 気を付けろ!」
「そう言うイヌオも前に出すぎだってば!」
二人組の少年――カザルプとコシャルが、石を挟んだ
木の盾と
最後方、大柄なハイナルカを壁にするような位置に付くのが姉クリスタだ。
「
「う、うん、それは間違ってないんだけど、ちょっと人聞きが悪いなぁ」
いくらクリスタと言えど、仲間たちに戦わせて一人だけこそこそ隠れているわけではない。
「二十秒で仕掛けますわ! しばらく、どかしといて!」
「ホイきた! 一発入れるよっ……とりゃ!」
「
クリスタの声に合わせてコシャルの投石が放たれ、サバナ
ぶもおおお!という怒りの声と共に反撃の突進が繰り出され、凄まじい勢いで進路上にある物すべてを弾き飛ばし、
立ち木や岩を利用してぴょんぴょん飛び回り、
「よし!
ファルーラの実の兄であるハイナルカは、アドニス司祭を除けばこの場の最年長であり、既に従士見習いとして訓練も受けているため、一際がっしりと大きな体格をしている。
サバナ
同時に、両手で掲げた長い杖が、虚空へ複雑な文字を描くかのように小刻みに振るわれ……。
「オーキヒ・ピリビ! 創世の
魔法術【
その効果は、
包み込んだ者を即座に眠らせてしまう魔法のガスだ。
『むっ、残念だが、
見習い魔術師クリスタの力不足か、あるいはモンスターが有する膨大な
ふらふらとした千鳥足にはなるものの、どうやらサバナ牛が眠りに
いいや、だとしても明らかな隙、たとえ子どもであろうと見逃す道理は無し。
すかさず駆け込んでいったカザルプとコシャルが頭上で振り回していた
再度、怒りの声を上げ、反射的にサバナ牛は突進を繰り出そうとする。
と、そのときだ。
虚空から
「シェガロ!? だから、
「デザイア! もっとあそぼ、お水のちょうちょ!」
「なんだ、ファルでしたの。じゃあ、いいですわ」
いつの間にかクリスタの
青白い
十匹以上の精霊たちが
睡魔と
それは、子どもたちの誘導によって狙い通りの結果をもたらした。
暴走する勢いのまま踏み出した前足が虚空を踏む!
川岸を越えて空中へ飛び出したサバナ牛は、四メートルほどの高さがある坂の下に転がり落ち、ぬかるんだ泥の中で巨体を横倒しとするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます