第十二話: 遅くはないから仲間に入れて

 とてもにわかには信じられないほど無慈悲な言葉だった。


「もう結構! アンタはパーティー追放よ!」

「え、え? 今なんて?」


 反射的に聞き返し、ツンツンした態度でこちらを睨んでいる少女に目を向ける。

 だが、彼女は言葉を繰り返すことなく、腰に片手を当て、長い銀髪を振って顔をそむけてしまう。


 ここは見渡す限り、茶色い枯れ草と荒れた土ばかりが広がる乾期の草原サバナだ。

 一人、周辺の様子を見て回り、みんなもとへ戻った僕に対し、その言葉は投げかけられたのである。


「聞こえなかったのか。これ以上、何もしなくていいってよ。俺も完全に同意見だぜ」

「どうしてさ! 僕たち、仲間だろう?」

「いや、仲間って……ひょっとして本気で言ってるの?」

「まるっきり役に立ってないことくらい分かりそうなもんだけどな」


 黙ってしまった少女の後を継ぎ、少年たちも口々と不平不満を述べ始める。


「そ、そんな……そんなこと……」


 四人とも、これまで共に一行パーティーとしてやって来たはずだった。

 ただ一緒に冒険ができるだけで楽しいと、そう思っていたのは僕だけだったのか。

 すがるような気持ちで後ろを振り向き、残る仲間の口から反対意見が出ることを期待するも。


「フッ、忌憚きたんなく言わせていただければ、貴方あなた様だけが明らかに役不足かと」

「こっちで荷物持ってればいいよー」


 どうやら、ここに僕の味方は一人もいないらしい。

 がっくりと項垂うなだれ、とぼとぼ歩き出した僕には、もはやいかなる言葉さえも掛けられなかった。

 逆に、背後からは和気藹々わきあいあいとした少年少女たちの声が上がり始める。


「よぉし! 気を取り直して再開だ! 何でもかんでも一人でやろうとするなよ」

「僕たちも役に立つってとこ、他の一行パーティーにちゃんと見せておかないとね」

「ふふーん、今度こそ私の魔法が火を吹きますわ」

「ねーねー、まず川沿いを行ってみない?」


 姉のクリスタと従士見習いのハイナルカ、村の少年カザルプとコシャルは、後方を付いていく僕とファルーラと見学のアドニス司祭……おまけのことなど既に忘れてしまったかのようだ。


『だから言ったろう。あまり張りきりすぎるなって』


「空から索敵、道案内、あとはちょっと障害物と厄介なモンスターを片付けたくらいなのに」


『それで他の子たちに何をさせてやるつもりだったんだ、お前は』


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 まともに稼ぐには適さない乾期の草原サバナも、実習や訓練をするには持ってこいの環境と言える。

 視界をさえぎる深い草むらはすっかり枯れて無くなり、地平線まで見通せるようになっているし、危険な生き物――肉食獣やモンスターのたぐいもほとんどいなくなってしまう。

 この時期ならば、たとえ未熟な少年少女であっても比較的安全に歩き回れるというわけだ。


 本日は、村の未成年たちの中からつのった希望者による狩猟大会が行われている。


 やや離れて大人たちが引率しているとは言え、まだ勝手に村の外へ出ることを許されていない子どもたちにとっては紛れもなく冒険であり、毎年、それなりに盛況なイベントとなる。


 僕とファルーラは年齢的にまだ少し早いのだが、特別に許可をもらっての初参加となった。

 村で暮らす子どもの数は三十五人足らず、参加者は半分以下。実質、人数合わせと言うべきか。


『だというのに、皆に何もさせないほど一人で全力を出してどうする』


「落ち着いて考えてみれば、やりすぎだったかも知れないね」

「白ぼっちゃん、一緒に見てよっ。ね?」

「フフ……彼らだけではそうそう獲物は見つからないでしょう。しばらく間を置いた後、改めて協力を申し出ては如何いかがですかな」

「そうしときます」


 動植物が姿を消した乾期の草原サバナでは、当然ながら、獲物を探すのも一苦労である。

 休眠中のヘビやトカゲ、ウサギ、一部の植物が留める果実や種子……主な狙い目はこの辺りか。


 他に、ハチの巣、大きなアリ塚の中に生えるキノコ、わずかに活動中の生き物も見つかることがあるものの、子どもでは対処して持ち帰るのが難しく、今回は見逃すことになるだろう。


「枯れ草をどけても、干涸ひからびたスライムばっかですわね」

「シロアリやゴミムシはいるか。だけど、そんな小さな虫を捕っても仕方ないぜ、真白まっしろお嬢さま」

「ンなこと分かってますわ。何か無いかなって思っただけじゃないの」


 手に持った長い杖で前方の地面を探る姉クリスタを中心に、三人の少年たちが進んでいく。


「今日はどこにもミーアキャットいないねぇ」

「ファル、ミーアキャットは食べられないから」

「司祭さま、つかまえられる?」

「やめておきなさい。あれは愛玩するに不向きな獣だと聞きますよ」

「そっかー、カワイイのにねー」


 僕とファルーラ、何故か一緒に付いてきているアドニス司祭は、のんびりと彼らの後を追う。

 みそっかすの僕ら三人にできることと言えば、手持ち無沙汰ぶさたにお喋りをするくらいだ。


 あ、もうそろそろ僕とファルーラを仲間に入れてもらえないか訊ねてみるとしようかな。


 まだ早いかな?

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