第十一話: 冷房下、お茶を飲みながら
すっかり冷房が効いたリビングでのティータイムが続く。
「ママー、ルッカにそれちょうだい」
「ママー、ラッカもそれほしい」
「あらあら、うふふ、甘えんぼさんですね。はい、あーん……」
ニコニコ顔の母トゥーニヤが結晶化した蜜をまとう天然の
「姉さん、ちょっとそれちょうだい」
「アラアラ、くふふっ、甘いですわね。これは一人分なの……あーむっ」
一方、カカオビスケットを一人で食べ尽くしてしまう姉クリスタの所業には呆れるばかりだ。
メーナバがこまめに皆のお茶を
「先ほどのお話ですけれど、やっぱり、お
「うーん、
「ふん、アンタが家に居るときだけしか使えないようじゃ意味ないですわっ」
「【送風】の魔道具を買い直すついでに数を増やすことは前向きに検討するべきか」
ちなみに、先ほどから繰り返し話に出ている【送風】の魔道具というのは、いわゆる扇風機を思い浮かべてもらいたい。
この世界の誰もが多かれ少なかれ体内に宿す【魔力】と呼ばれるエネルギーを動力源に用いる【魔道具】は、前世の機械と似て非なる、異世界ならではの不思議道具だ。
扇風機、照明、卓上コンロ、冷蔵庫、
ただし、この程度の物であっても一般庶民がほいほい手に入れられるわけではない。
それなりに高価であることに加え、製作・売買……大っぴらに使うのであれば所持についても、一つ一つ、国の許可が必要となるためだ。
『まぁ、流通させるには社会的影響が大きすぎたり危険すぎたりする物もあるのだろう』
なにせ、ここは中世レベルの文明度とされる世界である。
大衆のほとんどは簡単な取扱説明書や注意書きを読むことさえできないくらいだ。
前世で笑い話とされていたような家電絡みの事故など、そこら中で多発しかねない。
特に強力な――ダンジョンで見つかるような――魔道具ともなれば、ヘタをすると国家さえも揺るがすほどの力があるのだから、所有者や所在地を把握しておく重要性は
「どのみち、こんな
「ええ、【送風】は王都の工房まで注文しないといけませんから、届くのもいつになるかしら。乾期の盛りには間に合ってくれたら助かるのですけれど」
「それは難しいやも知れんな」
王都までは相当な距離があり、まともな街道はない。加えて乾期には行商の足も鈍りがちだ。
一基だけでなく複数基を魔道具工房に注文し、国にも許可を申請……軽く数ヶ月コースだろう。
「「ええ~、なんで! ずっと暑いのやだあ!」」
「あらまあ、ルッカちゃん、ラッカちゃん、そんな風に怒ると可愛いお顔が台無しですよ」
「「うーっ!」」
「どうせ何ヶ月もこのままなんだったら、魔道具に頼らなくても少しは涼しくなるよう小屋……屋敷をしっかりと造り直しちゃわない?」
「ぬうん、増築したてで改築か。見方を変えれば、村に建築士が留まる今は好機とも言えるが」
半年前のこと、我らが
その際、元の二階建て
施工した建築士たちはまだ村で仕事しているため、アフターサービスを頼めるかも知れない。
『この
「くふふ、いっそのこと新築にすればいいですわ……ぬりぬり」
「考えておこう……ふむ、なんにしても、また金が掛かりそうだ……もっぐもっぐ」
『はは、それにしても、よく食べる二人だねぇ』
昼食を
ちなみに、この地の食事は一日の初めに
前述の通り、昼食は一般的ではなく、ティータイムに添えられる軽食類で小腹を満たす程度。
そうして、締めの夕食では、疲労と消化によい料理をメインとするのだ。酒を楽しむ人も多い。
……と話が
「お金か……パパ、領の予算には
「無論、余裕はある。デビュタントに備えてな。だが、領内の
「うふふ、あの子たちが仕官してきてくれたのは助かりましたわね」
「ああ、内務志望の従士たち。役に立ってるんだ?」
「俺やノブロゴより数字の扱いが得意なのでな」
新たに仕官してきた従士の中には他の貴族家出身者もいた。
と言っても、爵位を得られる可能性がない末子や庶子などだが、それでも普通の平民と比べて遙かに教養は備わっているため、常識知らずの成り上がりである
そんなこんな、ティータイムは話題を変えながらも
冷房の効いたエントランスホールはまさに
その後も外の
とりあえず、この【
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