第十話: 涼を取るのは楽じゃない
「
涼風と冷房をイメージした【
空気が乾いているため、さほど不快には感じなかったものの、
『ああ、いい風だ。生き返る』
前世の雪山サバイバルにおいて僕らの生命線となっていた精霊術【
しかも、我がエルキル家は白人種であり、日中の強烈な
屋外を避け、閉めきった屋内で活動するなら【
「村の
『この家の人たちは
現在、父マティオロと母トゥーニヤ、それと領の内政に携わる従士たちは執務室で仕事中だ。
ここ一階エントランスホールは面積の広さに加え、二階の天井まで吹き抜けとなっている。
それだけの空間に対して【
「む、早いな、シェガロ。冷房を掛けてくれていたか」
「まあ、涼しい」
僕の予想通り、執務を終えたらしきマティオロ氏と母トゥーニヤがほどなく階段を降りてきた。
先導するように供をしているのは従士長のノブロゴだ。
一緒に仕事をしていたはずの他の従士たちの姿はなく、どうやら三人だけで来たらしい。
と、同時に、別方向――奥のキッチンからカラカラ音を立てながら進んでくる物もあった。
見れば、
リビングへ移り、ゆったりとした長椅子に収まる父母の後を追い、僕も並びの木椅子に着く。
熟練
各人の前に冷たいお茶が差し出されれば、始まるのは午後のティータイムである。
給仕に付くノブロゴとメーナバ……はともかくとして、手持ち無沙汰にちょこんと立ったまま無言で恨めしげな視線のみを向けてくるファルーラ@メイド修行中からは
駆けつけ一杯ではないが、最初の一口で
適度に冷房が効いてきたリビング、やっと
しかし、そこに突如としてバタバタバタという騒音が響き渡った。
「あっづううう! なんなの、もう! この暑さ!! クーラー! 早く
「「ぷーくすくす、クリスねえさまったら、はしたなーい」」
「ちょっと! うっさいですわよ、双子たち!」
「「つつーん」」
大騒ぎしながら転げ落ちるような勢いで階段を駆け下りてきたのは姉クリスタだった。
まだ姿は見えないもののユミラーカとエミルーカ――妹双子も一緒のようだ。
「やんなっちゃいますわっ! 最後の最後で効果が切れるんですもの! ……わあ、涼しっ!」
「「きゃはっ、もうクーラーきいてるぅ」」
涼しいホールに入って落ち着きを取り戻したクリスタは、僕の隣へやって来て椅子に腰掛け、流れるように自然な動作で目の前に置いておいたお茶のカップを奪う。
妹たちは母トゥーニヤと同じ長椅子の端へ収まった。
「あらあら、まあまあ、クリスちゃん。先ほどの
「はうっ、ごめんなさい、ママ……じゃなくてお母様」
「うふふ、暑さの中でこそ
「クリスタ姉さんは近頃ずっと魔法術で楽してるから、暑さに弱くなってるんじゃないかな」
「「ひとりだけなにさまのつもりかしらー」」
「しょうがないでしょ。あれは自分専用なんですもの。使わないのも
「「ずるい、ずるい、クリスねえさま、ずるーい!」」
そう、姉クリスタは魔術師であり、自分一人であれば魔法で暑さをしのぐことができるのだ。
最近、魔法術【耐熱】を習得して以来、日中はほぼ使いっぱなしで過ごしている様子である。
「己の能力なのだから構わん……と言いたいところだが、暑さに弱くなってしまってはいかんな。クリスタ、なるべく魔法術には頼らず弟妹たちと同じように過ごせ」
「うえええ!? はぁい、ですわぁ……はむっ、もぐもぐ」
豆のペーストを巻いた一口大クレープといった趣のパンをつまみながらクリスタは
『少しばかり、かわいそうに思えるけども、冷房に頼りすぎれば体調を崩してしまうのは事実。僕自身、【
「……でも、まあ、しばらくこの暑さっていうのは参るよ、実際」
小さくぼやき、手にしたティーカップ――先ほど姉に奪われたのとは別の物だ――を置いた後、ゴマをまぶして焼き上げたリング状のパンを一つ取り、サクっとかじれば。
「壊れちゃった【送風】の魔道具が直せたのなら良かったのですけれど、ね」
野イチゴやイチジクなどの甘いドライフルーツと共によく冷えたハーブティーを口にしつつ、母トゥーニヤが僕の言葉を拾い、軽く
「買うとしても、届くまで数ヶ月は掛かろう。明日からは昼間に仕事を入れぬようにせねばな」
最後にマティオロ氏がそう話を締め、濃い塩味が付けられた
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