第八話: 火炎樹と命脈のせせらぎ
樹高はざっと二七〇センチ、幹や枝振りは前世の沖縄でよく見た
ここは通常の農作物を育てる畑とは別に、様々な植物を少しずつ栽培している試験農園だ。
村の環境で育つかどうか、育ったとして出来や採算はどうか、ついでに品種改良の試みなども、あくまで片手間に細々とではあるが、すべてこの小さな農場で実験されているのである。
見るからにおかしな、まんま
以前、ダンジョンで僕らが知らず足を踏み入れてしまった巨鳥ジャンボの巣。そこで発見した苗木が生長を果たした
実を言えば、当時の僕たちも存在を忘れかけていた……。
そう、
「実は、見かけ倒し、幻の火なんだけどね」
そう言って枝の先に手をかざすも、ぬるま湯よりは熱いかなという程度にしか感じられない。
『
「うおおっ! マジだ! ちっとも熱かぁねえなっ」
「ふはっ、なんだこりゃ。超ウケる」
「驚いたぁ。へぇ、樹自体も火に
初級冒険者
笑みを噛み殺しつつ、僕は炎樹の幹へと近付いた。
そして、腰帯に吊してきたコップを取り外し、さして熱くはない火の中へ突っ込むと、樹幹に深々と差し込まれている小さな金具の上部を指でひねった。
途端に、ジャーッ!と勢いよく、金具下部より真下へ向かって液体が流れ出す。
十を数える暇も与えずコップが満たされ、金具上部を逆にひねれば、ピタッと流れは止まる。
「はい、これはサービス。
ご覧の通り、この液体は
気になる味の方は、やや甘みの少ないスポーツドリンクといった感じで素直に――。
「「「
『だろう。なかなか侮れないほどに』
「それに冷たい! なんでかしら?」
「シュワシュワして頭シャキっとすんなぁ、あざーす」
「おい、早くこっち回せよ!」
ところで、お分かりいただけただろうか? この異常さ。その意味を。
改めて言っておくと、現在、この地は乾期の真っ只中だ。
にも
しかも、これ、スポーツドリンクどころか栄養ドリンクほどの
しかし、二年前のあの
「それじゃ、水袋をこっちに
と、まだカップを回しながらチビチビやっている三人組へ手を差し出す。
彼らは、先輩冒険者たちの使いっ走りとして、この
当然、ここからはサービスではなく有料となる。
「毎度あり。早く君たちも冒険にこれを持っていけるくらい稼げるようになってよね」
「なにおう!」
「くーっ、こんガキんちょ。マジ腹立つわー」
「昇級はまだ当分先だと思います……はぁ、もうちょっとお行儀よくできないと」
「シイリン、
「こんなもん、俺がいつでも好きなだけ飲めるようにしてやるって!」
「もー、うるさい。二人して叫ばないでちょうだい」
ツンツン赤髪のライレと金髪ロン毛のアザマース、二人の少年から左右同時にまくしたてられ、黒髪ショートポニーの紅一点シイリンが面倒臭そうに
「あはははは」
こうして元気で賑やかな声を聞いていると、二年前とはまったく違う村の様子に
姉クリスタの社交界デビューとなる王城の【
そろそろ領地開拓と資金稼ぎも大詰めなのだから。
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